税金/個人事業者の税金

個人事業主は「経営セーフティ」や「小規模企業共済」で300万円超の節税ができる

フリーランスや個人事業にとって重要なのは節税対策です。節税と同時に将来の貯蓄にも、いざというときのセーフティネットにもなる制度を紹介します。「経営セーフティ」と「小規模企業共済」を組み合わせると年間最大324万円までの節税対策が可能になるのです。

田中 卓也

執筆者:田中 卓也

税金ガイド

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フリーランスの節税対策・貯蓄、いざというときのセーフティネットにもなる制度

確定申告というと一般的に「年が明けてからバタバタと3月15日までに行うもの」という人が多いと考えます。ですが、節税という観点から考えると、年内にきちんとした対策を行っておきたいものです。確定申告というのは基本的に1月1日から12月31日の所得の状況をとりまとめる作業なので、年明けに行う節税対策というとことは法人経営にあてはめると決算日が過ぎてから行う節税対策となるため、ある程度の限度があるのも事実です。

そんな中、フリーランスや個人事業主にとって、節税対策にもなり、将来の貯蓄にもなり、いざというときのセーフティネットにもなるものを紹介します。

それが「経営セーフティ」「小規模企業共済」といわれているものです。どういうものかを見ていきましょう。
 

経営セーフティとは

経営セーフティとは中小企業倒産防止共済の通称で、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下中小機構といいます)が運営している制度で中小企業倒産防止共済法という法律に基づく制度なので、民間会社などが取り扱うものよりも公共性が高い制度であるといえます。

ここに年間最大240万円払い込めるのですが、それが全額必要経費にカウントできるので所得の削減につながり、節税になるのです。
では、メリットとデメリットをみていきましょう。
 

経営セーフティのメリット

■掛金が全額必要経費に
節税面からみると掛金払い込み時には全額必要経費になる(法人でいえば損金になる)というのはメリットであると考えます。掛金月額は5千円から20万円の範囲内で、加入後も掛金月額は5千円単位で増減ができます。また、いわゆる年払い(この制度の中では掛金前納といいます)ができるので、掛金最大の月額20万円を12カ月分年払いすれば、年間最大240万円必要経費が増えるので、その分所得が圧縮されるのです。ただし、掛金納付月数が12カ月未満の方は掛け捨てとなるので注意が必要です。
 
個人事業主はもちろん小規模事業の経営者も加入できます (出典:中小機構資料より)

個人事業主はもちろん小規模事業の経営者も加入できます (出典:中小機構資料より)


 
■掛金総額の10倍までの貸付が可能に
セーフティネットという観点からみると掛金総額の10倍までの貸付が受けられます。しかも、無担保で保証人もいりません。貸付限度額は最大8千万円までとなっていますが、これは掛金総額が800万円までと決められているので、800万円の10倍、つまり、8千万円が貸付限度額は最大枠ということになります。
 

経営セーフティのデメリット

■解約時には解約金が全額収入に
すでに、節税面からみると掛金払い込み時には全額必要経費になる(法人でいえば損金になる)というのはメリットであることは説明しましたが、半面、解約金が事業所得の収入金額となる(法人でいえば益金になる)という性格も併せ持っています。

したがって、解約時期も、「環境が激変し、売上が減少した」とか「入院をすることになった」(あるいは、法人であれば退職金の原資に)といったように、「いつ解約するのか」ということも念頭に置いておく必要があります。なお。個人事業主が死亡した場合も、解約金は支払われますので、事業等の精算資金に利用する、といった活用方法もあるでしょう。このような面においては、セーフティネットといった側面が大きいと考えます。

ただし、任意解約の場合でも。掛金納付月数が40カ月以上ないと、いわゆる元本割れを起こしますので、注意してください。
 
■貸付事由が限られる
こちらもすでに「掛金総額の10倍までの貸付が受けられる」旨の説明はしたのですが、一方で、貸付事由が取引先が倒産するなど一定の事由に限られることは、やや使い勝手が悪いといえるでしょう。ここでいう倒産とは取引先の取引停止処分や破産手続開始の申立てや私的整理など何らかの法的な裏付けがあることが要件ですので、いわゆる「夜逃げ」といったように法的な立証が困難な場合には、中小機構に貸付請求ができないといったことも想定できます。また、この貸付請求が取引先の倒産発生日から6カ月を経過した後にされたときには、貸付けを受けることができませんので、「貸付請求をする?しない?」の判断もある程度の迅速さがもとめられます。
 

小規模企業共済とは

小規模企業共済も経営セーフティと同様、中小機構が運営している制度で、なによりも確定申告の様式に印字されている制度なので、こちらのほうがなじみがある方も多いのではないでしょうか。経営セーフティとの目的の違いでいうと、経営セーフティが名前のとおり経営の防御といった性格が強いのに対し、こちらは個人事業主や経営者の老後生活資金や退職所得の準備のためにといった色合いが強い制度といえます。その点を含め、メリットとデメリットを整理すると以下のとおりとなります。
 

小規模企業共済のメリット

■掛金が全額所得控除に
節税面からみると掛金払い込み時には全額所得控除になるというのはメリットであると考えます(法人においては法人役員の所得税を算定する際の所得控除になりますが、法人税の節税には寄与しません)。掛金月額は1000円から7万円の範囲内で、加入後も掛金月額は500円単位で増減ができますし。月払い、半年払い、年払いも選べるので、掛金最大の月額7万円を12カ月分年払いすれば、年間最大84万円所得控除が増えるので、その分課税所得が圧縮されるのです。
 
確定申告書にも印字されているきちんとした制度です (出典:国税庁資料 一部加工)

確定申告書にも印字されているきちんとした制度です (出典:国税庁資料 一部加工)

 
■受取り時にも税の優遇制度が
受取時にも税の優遇が受けられるという点では経営セーフティより小規模企業共済のほうがすぐれています。というのも、共済金を一括で受け取ると退職所得扱いとなるため、退職所得控除が受けられ、課税対象金額も1/2で済みます。また、共済金を分割で受け取った場合でも公的年金を受給したのと同様の扱いとなり、公的年金控除額を適用した上で所得が算定されるので、経営セーフティの解約時のように「解約金が全額収入に」とはなりません。
 

小規模企業共済のデメリット

一方で、小規模企業共済にもデメリットはあります。主だったところは以下の2点です。
  • 240カ月未満の解約は契約金が掛金合計額以下となる
  • 解約事由によってもらえる共済金の額が異なる

たとえば、45歳で独立した場合、元本割れせず共済金をもらうためには最低でも66歳以降に解約したほうが良いということになります。

ただし、解約事由によっては240カ月未満の解約でも掛金合計額以上の共済金を受け取れる場合があります。解約方法の中にはA事由解約とB事由解約というものがあり、A事由解約には個人事業の廃止や法人の解散があります。B事由解約には65歳以上で180かカ月以上掛金を払い込んだ方が受けられる老齢給付や、病気、怪我の理由により、または65歳以上で役員を退任した場合などが該当します。

したがって、45歳で独立した個人事業主が60歳で個人事業を廃業する、あるいは法人を解散するといった場合、A事由解約となり掛金合計額以上の共済金を受け取れるのです。

もちろん、A事由解約のほうがB事由解約よりも受け取れる共済金の額が優遇されています。いずれにしても「こういう事態になったら共済金を受けとろう」ということを加入時にある程度イメージしておくことは重要です。
 

節税商品を利用する場合の注意する最大のポイントは

冒頭でも書きましたが、「個人の節税対策は12月31日までに完了する」というのが最大のポイントとなります。たとえば、個人事業主が経営セーフティでの節税対策を行う場合、通常の場合であれば、契約申込書を入手し、指定する預金口座が開設されている金融機関等で掛金預金口座振替申出書で金融機関口座確認印をいただき、中小機構に契約申込書を提出するという流れとなるのですが、その際、
  • 所轄税務署の受付印がある所得税の確定申告書(直近の決算書・収支内訳書等の添付書類を含む)
  • 所得税を納付したことを証する「納税証明書(その1)」(領収書でも代用可能)
を添付する必要があります。

また、その後、契約締結を証する書類として「共済契約締結証書」と「加入者必携」が送られてくるのですが、おおよそ2カ月かかる旨が中小機構のホームページに記載されています。

したがって、掛金をいくらにするのか?年末までの資金繰りは?といったポイントも考慮にいれなくてはなりませんし、中小機構への書類の提出期限もあります。なので、「本年の節税対策として活用したい」という場合、少なくとも10月はじめから「どの程度の節税対策をすべきか」の検討に入ることをお勧めします。
 
ともあれ、年間の節税対策という観点からみると経営セーフティで最大240万円、小規模企業共済で最大84万円、合計324万円の課税所得を圧縮でき、将来のセーフティネットや引退後の生活資金にも役立つでしょう。節税対策のひとつとして検討してもいい制度であると考えます。
 
 
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