ストレス

コロナで蝕まれる子どもの心…大人は察知し、寄り添い、受容を

【公認心理師が解説】コロナ禍の自殺件数は子どもも増加しています。調査では72%の子どもが何らかのストレスを抱え、親子関係の深刻化も懸念されるようです。子どものストレスは、痛みや夜尿などの身体面、キレる行為や閉じこもりなどの行動面で表れることも。身近にいる大人ができること、子どもの心の健康を守るために大切なことを解説します。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

コロナ禍の自殺件数は子どもも増加……ストレス、親子関係の悪化も

コロナと子どものストレス・心の健康問題

コロナ禍でストレスを抱えているのは子どもも同じ。子どもの心の健康を守るために、大人は何をすべきでしょうか?

2020年の警察庁の統計によると、国内の自殺者数は7月から増えており、女性とともに子どもの自殺者数の増加も明らかになっています。8月の中高生の自殺者は58人で、昨年同月の2倍以上の件数になっています(女性の自殺者数の増加については、「「自殺者数7割増」の月も…コロナと女性の心の健康問題」をご覧ください)。

また、国立成育医療研究センターが6~7月に行った調査(「コロナ×こどもアンケート第2回調査 報告書」)によると、72%の子どもがコロナ禍で何らかのストレスを抱えていることが明らかになりました。このストレスには、すぐにイライラする、集中できない、自傷行為や家族・ペットへの暴力などの反応も含まれています。
 
さらに、同センターの調査報告で注目すべきなのが、親子関係の深刻化です。叩く、怒鳴るなどの「子どもとの好ましくない関わり」が増えたと答えた保護者は36%に上ります。ステイホームの状況下で家族全員が家の中で過ごさざるを得ず、親の心に蓄積したストレスが子どもに向けられ、子どもが不快な思いを抱えている可能性が考えられます。
 

ステイホームで家庭がストレスの原因に? 弱い立場の子に生じる"しわ寄せ"

家庭は家族の「安全基地」であり、家庭は家族が社会の中で抱えたストレスを癒す「憩いの場」です。しかし、その場だけに留まることを強要されると、家庭は「収容所」のような雰囲気になってしまいます。
 
狭い空間に家族がひしめきあい、外出も最低限に控えなければならない。学校にも会社にも行けず、家の中でひたすらに自習やリモートワーク……。こうした収容所のような環境では、お互いにストレスが溜まるのも無理からぬことです。しかし、ストレスから家族が衝突したときには、弱い立場である子どもにしわ寄せが生じやすくなってしまいます。
 

コロナ禍で子どもが抱えるストレス・悩みの例

先に紹介した国立成育医療研究センターの調査報告では、自由記述も一部紹介されています。そのなかの「おとなたちに言いたいこと、伝えたいこと」から、いくつかを引用します。子どもはさまざまな形で、コロナ禍のストレスを感じていることが分かると思います。
  • テレビのインタビューとかでも親世代の人が「子供がずっと家にいるのがストレス」って言ってるのをよく見るけどそれは親だけじゃなくて子供も同じだし、目の前で自分の存在を否定されたらつらい。子供は所詮子供だから偉そうなことを直接言えないのに一方的に押しつけられるのは理不尽というか、不平等な気がする。(中学女児/埼玉)
  • コロナのせいで日常とは違った生活になってイライラしたり気に入らなかったりするのはわかるけどもう少しだけ子どもの事も考えて欲しいです。(中学女児/新潟)
  • イライラすることはいっぱいあるけど、嫌みを、あまり、口に出して欲しくない。(小学高学年女児/大阪)
  • 今、とても大変ですが、大人の皆さんには、これを伝えたいです。今、仕事がしたくてもできない人もいるから、とてもやりがいを感じて欲しい。自殺したい、死にたいなんて思わないで欲しい。大人の皆さん、お仕事ご苦労さまです。私たちも学業を頑張ります。←これを伝えたいです。お願いします。(不明/わからない・答えたくない)

大人に求められる姿勢は? 子どもの変化のきざしを見逃さないで

上記の子どもたちの言葉には、身につまされるものがあります。子どもたちは非常時における大人のふるまいをよく見ており、ストレスのしわ寄せが自分たちに来ていることの理不尽さを強く感じているのでしょう。同時に、非常時だからこそ、大人にふさわしいリーダーシップを期待していることも伺えます。
 
しかし、子どもたちには大人ほどの発言力はなく、自己表現にも長けていません。よって、何かを言ったときに、取り合ってもらえなかったり、言いくるめられてしまったりすると、気持ちを伝えることをあきらめてしまうことが少なくありません。こうしてあきらめが繰り返されると、心が貝のように閉ざされ、気持ちを吐き出すことができなくなる子も少なくないものと思います。
 
大人はこうした子どもの気持ちを理解し、大人としてふさわしいリーダーシップをとれているのかどうかを振り返ってみる必要がありそうです。「安全基地」や「憩いの場」である家庭の中には、家族の「本音」が表れます。しかし、本音の表出には立場の高低差があり、弱い者は本音を呑み込み、我慢を強いられやすいというパワーの格差を忘れてはなりません。そのため、家庭においては大人が愚痴を表わしやすい一方で、子どもは大人の顔を見ながら我慢を求められることが少なくないのです。
 
こうして子どもの心に蓄積したストレスは、体の痛みや体調不良、夜尿などの身体面、キレる行為や閉じこもりなどの行動面に表れてしまうことが少なくありません。大人はそうした変化のきざしを見逃さずに、早めに子どもの気持ちを察知し、寄り添い、受容していく必要があります。
 

子どもの心の健康を守るために覚えておきたいこと

パンデミックなどの非常時に大きなしわ寄せを被るのは、たいていが「弱者」です。既にコロナによる重症化のリスクは高齢者や持病のある人々に表れ、経済的なリスクは非正規労働者、心の病のリスクは女性や子どもたちに表れています。
 
長引くコロナ禍では、ぜひこのことを理解し、大人もつらい日々を送っているのと同様に、子どもたちもつらい気持ちを我慢しながら頑張っていることを忘れないでいたいものです。

■参考・引用文献
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