ストレス

38カ国でワースト2位!?日本の子どもの幸福度と幸福感の高め方

【公認心理師が解説】ユニセフの報告によると、日本の子どもの幸福度は世界最低水準。他の先進国を見ても、幸福感と国の経済的な豊かさは比例していないようです。子どもの幸福感を高める方法はあるのでしょうか。そのヒントを「PERMA」という概念をもとに解説し、具体的な実践案を含めてお伝えします。

大美賀 直子

執筆者:大美賀 直子

公認心理師・産業カウンセラー /ストレス ガイド

日本の子どもは「幸福度最低水準」? 38カ国中ワースト2位

日本の子どもの幸福度は世界最低水準?幸福感を高めるPERMAとは

日本の子どもの幸福感は世界最低水準?


2020年9月にユニセフ(国連児童基金)が発表した『レポートカード16』によると、日本の子どもたちの精神的幸福度は38カ国中ワースト2位。このレポートによると、国の経済的な豊かさと子どもたちの幸福感は、必ずしも比例しないことが読み取れます。たとえば、先進国に列されるイギリスやアメリカ、ドイツなどの国も日本と同様に比較的低い層に位置している一方で、開発途上国に列せされるメキシコやルーマニア、クロアチアなどの国がトップ層に位置していたりします。
 

日本の子どもの幸福感が低いのはなぜ……「一過性の欲望」と「持続的幸福感」

日本は、国際的に見ると生活の不便さを感じにくい環境にあります。それなのに、なぜ日本の子ども達の幸福感はこれほどまでに低いのでしょう。背景にはいくつもの要因が考えられますが、今回は近年話題になっている概念の一つである「持続的幸福感」をもとに考えてみたいと思います。

人は誰でも幸福になりたいと願いますが、物欲、金銭欲、性欲、出世欲などの欲望に突き動かされた幸福は、それを手にすると小さなものに感じられ、より大きな幸せを求めて欲望が掻き立てられます。このように、一過性の欲望に支配された幸福感は、それを手にしたとしても長続きはしません。欲望を掻き立てる物や情報にあふれる社会、さらなる経済的な豊かさを求めて競争を煽られる社会で生きる子どもたちは、こうした一過性の欲望に支配されやすい環境にあると言えるのかもしれません。そして、日本の子どもたちはまさにその煽りを受け、「今、ここ」に生きる幸せを実感しにくい状況にあるのかもしれません。

ポジティブ心理学の創始者であるマーティン・セリグマン博士は、人を本当に幸せにしてくれるものは、「持続的幸福感」をもたらすウェルビーイング(良い状態)であるといいました。一過性の欲望を満たすことより、この「持続的幸福感」を得られる状態を目指すことが、幸福になるカギとなりそうです。
 

「PERMA」とは……子どもの幸福感を高めるアプローチ法に活用を

セリグマン博士によると、このウェルビーイングをつくるには、「PERMA」(永続)の5つの要素を増やしていくことが必要だということです。PERMAを構成する要素は、次の5つです。

【P】ポジティブな感情(Positive Emotion)
【E】夢中になり没頭すること(Engagement)
【R】人との関わり、つながり、関係性(Relationship)
【M】意味、意義を感じられること(Meaning)
【A】達成すること(Achievement)


しかし、PERMAの増大を子どもに任せるだけでは、うまくはいかないでしょう。なぜなら、子どもの心は未熟であり、その時々の欲望や衝動に流されやすいからです。その結果、力の弱い子が強い子の欲望の犠牲になり、衝動のぶつかり合いで傷つけ合うようなこともしばしば生じます。もちろん、子どもの意思を尊重することは大前提ですが、大人がさりげなく導くことで、子どもの「PERMA」はより効果的に増えていくように思います。
 

子どもの「PERMA」を効果的に増やすポイント

では、子どもの「PERMA」を増やすために、大人はどのように導くとよいのでしょう。ここでは、私自身がカウンセリングの中で行っているコツを中心にお伝えしたいと思います。

【P】ポジティブな感情を増やすコツ
ネガティブな事態に直面したときでも、ポジティブな発想が浮かぶような伝え方をします。たとえば、模擬テストでE判定が出たりすると、子どもは非常に落ち込むでしょう。こうしたときには不安を煽ったり、「諦めた方がいい」などと決めつけたりしないこと。「E判定から大逆転して合格した人もたくさんいる。それができたら君もレジェンドになれるね!」というように、どんな局面でも希望を失わず、前向きな考え方をできるように導きます。

【E】夢中になり没頭する機会を増やすコツ
子どもが何かに夢中になり、没頭しているときには、できるかぎりそれをやり抜くようにさせます。たとえば、絵を描くことに夢中で、食事の時間になってもやめない子がいます。そういう場合は、可能な限り食事の時間を調整して、まずは気の済むまでやらせてみるといいのです。没頭して取り組んだことで得られる感動は、格別なものです。もちろん、決められた時間の中で集中して取り組むように導くことも大切ですが、没頭することで得られる感動を体感するまでは、できるかぎりとことんやらせることも大切です。

【R】人との関わり、つながり、関係性を増やすコツ
人とのつながりを持ちにくい子には、その機会を作ってあげるとよいでしょう。人にはそれぞれ個性があります。身近に波長の合う子がいない場合、学外などでそうした場を見つけ、そこでのつながりを楽しめるようにするといいでしょう。相手は、子どもでなくても良いのです。他者とのつながりをしっかり経験すると、その関わりの中で何かを創造できること、そしてその喜びを実感することができます。

【M】意味、意義を感じることを増やすコツ
「将来のためになる」など、遠い未来の意味や意義を唱えても、子どもの心には響きません。子どもには、今取り組んでいることが、今の自分にとってどのような意味や意義を持つのかを考えさせる必要があります。たとえば、友だちの面倒をよくみている子には、「だから、自分は友だちに慕われてるんだ」というように、努力することで今の自分がどのようなメリットがもたらされるのかを実感させると、努力する意味や意義が分かります。

【A】達成する経験を増やすコツ
人は、エネルギーを傾けて取り組んだことに達成感を味わいたいと願うものです。特にチーム活動による達成感には、個人の何倍もの感動があります。ただしその達成感は、メンバーの役割によって温度差が生じがちです。すべての子どもが達成感を味わうには、一部のヒーローのみを賞賛しないようにすること。全員の役割がチームにどのように貢献したのかを振り返り、成果がメンバーの総力によって達成されたことを味わう機会を持ちましょう。
 

子どもの幸福感を高めるために、大人側の持続的幸福感も大切

このように、子どもが持続的な幸福感を感じるためには、大人のさりげない導きが必要です。子どもは、大人がどのような思いで自分たちを導こうとしているのか、感じ取ろうとしています。口先だけで、子どもを動かすことは不可能です。大人自身が、日々の生活の中で持続的な幸福感を実感しており、それを高める取り組みをしている場合、上記の導きにも説得力が生まれます。そのためにも、ぜひご自身の「PERMA」の向上にも、積極的に取り組んでみてください。

■主要参考文献
先進国の子どもの幸福度をランキング(ユニセフ)
 
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