なぜ日本では箸を横向きに置くの?
日本では、箸の上げ下げ・持ち方・使い方などに気をつけますが、箸を横向きに置くのは当たり前。なぜ横向きに置くのでしょう?
<目次>
箸は中国から日本に伝来
箸の発祥は古代中国。大陸からさまざまな文化が日本に伝わりましたが、箸もその一つです。「遣隋使が持ち帰り聖徳太子が朝廷の儀式に採用した」、「6世紀に仏教とともに伝わった」など諸説ありますが、飛鳥時代の朝廷では、箸を使用していたと考えられています。また、奈良時代の平城京、長岡京の遺跡から多数の箸が発掘され、一般の住宅区画から箸が発見されていることなどから、奈良時代の終わり頃には一般の人も箸を使用していたことがわかります。なお、弥生時代の遺跡からピンセット状の折箸が発見されていますが、これは神様への配膳に用いる祭器で、人が食事をするためのものではないと考えられています。
こうして大陸から伝わった箸ですが、文化の違いで置き方に違いが生じました。
中国の箸の置き方は、横置きから縦置きに変化
もともと中国では箸を横向きに置いていました。唐の時代の壁画に描かれた宴会の様子から、箸が横向きに置かれていたことが確認されています。横置きから縦置きに変化した時期や理由は定かではありませんが、肉食を主とする北方騎馬民族の影響とする説があります。五代十国時代といわれる戦乱の時代に北方騎馬民族が支配するようになると、肉を食べるためのナイフを横向きに置くと危険で使いにくいため、西洋と同じようにナイフを縦向きに置くようになり、箸も縦向きに置くようになったと考えられています。やがて時代が移りナイフを使わなくなっても、箸を縦向きに置く習慣は残ったのではないかといわれています。
また、中国では食べ物を共有し大皿に盛った料理をとるため、縦向きに置いたほうが使いやすいという説もあります。
日本の箸の置き方は横置きのまま変化せず、結界の意味も
日本人の精神性が、箸に結界の意味をもたせました
そして、日本では横置きに大きな意味を持たせるようになりました。結界という意味です。結界というのは、神聖な領域と俗な領域の境界を示すもので、たとえば、神社や神棚のしめ縄は神の領域と世俗を区切る結界です。
食べ物というのは、さまざまなものの命でできており、私達はその命をいただきながら生きている。すべては神聖な自然界からのいただき物なので、俗な人間界に対し、箸の向こうは神聖な領域であると捉え、箸が結界の意味を持つようになりました。
だからこそ、日本では「いただきます」と挨拶し、箸を丁寧に扱って食事をします(詳しくは「「いただきます」「ごちそうさま」の本当の意味・語源・由来」の記事をお読みください)。
中国は匙を併用し、日本は箸のみで食事をする
箸で食事をする日本では、飯碗や汁椀など手で持って食べる食器が多い
日本では、基本的にすべて箸で食べるので、汁物はお椀を持って口をつけます。ですから、日本の食器は手で持つものが多く、置いたまま食べるのはお行儀が悪いとされています。
考えてみれば、お箸は二本の棒にすぎませんが、二本の棒を片手で操り、はさむ、はがす、くるむ、押さえる、裂く、すくう、のせる、運ぶなどさまざまな使い方をするのですから、使いこなすのが難しい道具です。だからこそ、機能的な箸の持ち方を身につけ、箸を使うことによって、微妙な指の使い方や力加減を幼い頃から習得していきます。
中国は長い箸、日本は短い箸で、箸の形状が違う理由
また、中国の箸と日本の箸とでは、形状が違います。中国の箸は象牙や銀などの金属や木でできており、箸先も尖っておらず、長めです。これは、もともと宮廷で使われていた名残で、高価な材料が好まれたこと、会食する相手に敵意がないことを示すために尖らせない、大皿に盛った料理を自分の箸で取り分けるのが親愛の表現になるので長めになっています。
日本の箸は、箸という字に竹冠がつくように、当初から竹などの木が主流で、細かい作業ができるよう先が尖っています。また、日本は個別に盛るのが基本で、大皿料理を取り分ける際は取り分け用の箸を別に用いるため、個人が使いやすい長さで良いわけです。
同じルーツの箸なのに、文化の違いで異なる発展をとげてきました。箸文化のおもしろさを感じますね。
※主な参考文献
『日本の食文化史』(石毛直道/岩波書店)
『「和の食」全史』(永山久夫/河出書房新社)
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