アドバイス1 60歳を過ぎても貯蓄額は順調に増えていく
現状はまだ会社員を継続されているかもしれませんが、便宜上、勤務先を退職し、ご実家の不動産業に現時点で従事されている。また、5年後に事業承継が行われ、ご相談者のキミオさんが家業を継がれるという設定で、いただいたデータを反映させて考えてみます。まず、事業承継までの家計収支ですが、毎月の家計黒字は約39万円。年間468万円。データには明記されていませんが、会社員時代にボーナスからの支出(レジャー費、大きな買い物等)がある程度あったと仮定して、実質400万円ほどが貯蓄に回るとします。したがって、5年間で貯蓄として上積みできるのは2000万円。今ある貯蓄と合わせて貯蓄はちょうど1億円強となります。
5年後に家業を引き継がれると、これまで、お父さんが社長(不動産の所有者)として負担されていたコストも引き継がれますが、同時に新たに不動産収入が加わり、結果的に月収は手取り額で70万4000円。月の収支は27万4000円の黒字で、多少の予定外の支出があったとしても、年間で300万円程度は貯蓄できるはずです。
また、現在計上している教育費17万8000円ですが、これは4年間で約850万円。私立文系にかかる大学費用の2人分とほぼ同額ですから、22歳になるまでこの教育費を計上します。そうなると、試算上では、キミオさん60歳の時点で、貯蓄の1億円強は取り崩すことなく、さらに1200万~1500万円は上積みされています。
さらに、60歳以降は教育費の他、お子さんが独立すればその他の生活コストも下がっているでしょう。したがって、また年間で500万~600万円貯蓄できる家計になります。
アドバイス2 「不断の経営努力」を続けるだけで十分
この試算どおりで実際に推移すれば、私が言うまでもなく、資金的に老後を心配する必要はありません。おそらくキミオさんもそのことは十分想定されていると思います。その上でご心配されているのは「会社運営が上手くいかない場合に備えたい」と「順調にいっても課題はないのか」ということ。会社運営の懸念としては、一棟貸しをしている2つの物件のテナント退去を挙げられています。それについてのリスク度、あるいは対処法については専門外のためわかりませんが、結果的にそれが要因で廃業せざるを得ない場合、企業として保有する資産の整理、売却となるはずです。幸い、ご実家は無借金経営ということですから、データにあるような価格での売却が進めば、ご実家を残しても1億円台後半の金額となる見込みです。
同時に、数名の従業員の方の解雇に合わせて、退職金等の手当をし、さらに、その他、廃業のコストが発生したとしても、少なくとも先の売却益で不足することはないはず。したがって、経営維持、収入安定のための、普段からの経営努力さえ行っていれば、それ以外に何かを備える必要はありません。逆に言えば、リスクとしてもっとも怖いのは、運転資金や新規事業等の目的でまとまった融資を受けた後に経営危機や大きな損失を出すことでしょう。
キミオさんが第一に守るべきは自身のご家族ですから、教育費や生活資金の確保が最優先となります。したがって、現在ある貯蓄8200万円を、それ以外の目的で決して取り崩さない。それさえキープできれば、仮に実家が廃業となってもご家族は守ることができることになります。
アドバイス3 自分自身が何をしたいか、どう生きたいかを考えてみる
ただし、懸念がないわけではありません。これは、経営が順調に進んだ場合も同様ですが、まず、所有する不動産の多くが会社名義ではなく、父親名義ということ。キミオさんに名義変更にすれば、当然相続税(生前なら贈与税)が発生します。相続分に応じる取得金額が1億円以上2億円未満で30%(控除額700万円)、2億円以上3億円未満なら40%(控除額1700万円)。その税額はどう調達されるのか。お父さんが保有する不動産を会社名義にされなかった理由は不明ですが、今後、会社名義に切り替えず、キミオさんもその形を踏襲されるなら、そこに対しては資金的に備えが必要になります。また、保有されているでしょうから、それも含めた相続税対策になるかと思います。
さらに言えば、先の不動産の売却価格ですが、5年後も同様の価格となるでしょうか。より上がるかもしれませんが、下がる可能性もあるはずです。
ただ、すでにこれら課題は解決済みか、すでに税理士、弁護士等に相談されているかもしれません。もしもそれがまだであるなら、そのための早めの行動が必要です。
それと、今後の経営を奥様に委ねる場合、自身の働き方として候補として挙げている3つの選択肢ですが、(2)は現実的ではありません。(1)でもいいですが、あくまで資金的な側面から言えば(3)で構わないと思います。社会との接点であれば、(3)のアルバイトでも得られますし、家業が順調に推移しているという想定なので、奥様の収入で家族の生活は十分支えることができるからです。
ともあれ、今後どういう選択をされようとも、一般的なケースを逸脱するようなものでなければ、資金的に困窮するようなことは考えにくいと思います。であれば、キミオさん自身が仕事も含めてどのような生活、生き方をしていきたいか。当事者にしかわからない、家業を継ぐ中でのご苦労も当然あるかと思います。しかし、資金についてばかり思い悩むのではなく、自身と向き合いながら、そのことを考えられてはどうでしょうか。それが結果的に、健全で豊かな人生につながると考えます。
相談者「キミオ」さんより寄せられた感想
誰にも相談できず一人で考えてきましたが、本件、貴重なアドバイスを頂き誠にありがとうございました。今までは妻にも余り心配を掛けないよう、こみ入った内容は話さず、一人で色々資金のシミュレーションをしてあれこれ悩んでいました。資金面に関しては、大まかな今後の人生のアウトラインについてのご指南を頂き、感謝に堪えません。今後も、以下の点は肝に銘じたいと思います。・不断の経営努力に努めることを念頭におく(リスクとして最も怖いのは、まとまった融資を受けた後に経営危機や損失を出すこと)
・第一に守るべきは家族であり、現在の貯蓄は家族の生活資金以外で決して取り崩さないこと
当面は家業に専念し、資金面も含め諸々の対処で精一杯かと思いますが、落ち着きました暁には先生のお言葉「何をしたいか、どう生きたいか」を踏まえて、自分なりに豊かな人生を歩めるよう次のステップをゆっくり考えていきたいと思います(そのような時が来るよう、現在を頑張りたいと思います)。お言葉を胸に刻み、今後も頑張りたいと思います。ありがとうございました。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金周り全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。近著に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/清水京武
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