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2019年新登録の世界遺産 日本の大阪に初の遺産!

2019年6~7月、第43回世界遺産委員会が開催され新たな世界遺産が誕生した。新登録は29件で重大な範囲変更1件、総数は1121件となり、「百舌鳥・古市古墳群 」が日本の23件目の遺産となった。新世界遺産の全リストと主な変更点をお伝えする。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

新しい世界遺産は29件、総計1121件へ!

ミャンマーの新世界遺産「バガン」

ミャンマーの新世界遺産「バガン」の絶景。手前のような仏像を収める寺院はパトー、右奥のような仏塔はパヤーと呼ばれる。バガンには2000以上のパトーやパヤーが林立している

毎年夏に開催されている世界遺産委員会。2019年もアゼルバイジャンのバクーで6月30日~7月10日の日程で行われ、新たな世界遺産が誕生した。新登録の世界遺産は文化遺産24件、自然遺産4件、複合遺産1件で29件、他に1件の重大な範囲変更が承認されている。これで世界遺産の総数は1121件となり、文化遺産869件、自然遺産213件、複合遺産39件となった。

世界遺産最多保有国について、54件で首位だったイタリアが1件の登録に留まったのに対し、中国が2件を登録して55件となり、ついにイタリアと並んだ。日本は1件を登録したが、12位で変わっていない。

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「百舌鳥・古市古墳群」登録! 大阪府に初の世界遺産が誕生!!

日本の新世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」、履中天皇陵(上石津ミサンザイ古墳)と仁徳天皇陵(大仙陵古墳)

日本の新世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」、手前が履中天皇陵(上石津ミサンザイ古墳)、奥が仁徳天皇陵(大仙陵古墳)。仁徳天皇陵はすでに世界遺産登録されているクフ王のピラミッド、秦始皇陵に並び世界三大陵墓に数えられている

大阪府の堺市・藤井寺市・羽曳野市に点在する45件49基の古墳をまとめた「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」が日本の23件目の世界遺産となった。この物件は2013年から世界遺産登録を目指して立候補を繰り返し、2017年にようやく国内の推薦枠を勝ち取り、2018年2月に推薦されていた。

文化庁の報道資料から世界遺産の概要を紹介する。なお、45件という数字は主たる陵墓とそれに従う陪塚(ばいちょう。大古墳の近親者の古墳)を1件と数えた数字で、仁徳天皇陵古墳に対して茶山古墳と大安寺山古墳、応神天皇陵古墳に対して誉田丸山古墳と二ツ塚古墳を陪塚としている。

■「百舌鳥・古市古墳群」遺産概要
  • 百舌鳥・古市古墳群は、古墳時代の最盛期であった4世紀後半から5世紀後半にかけて、当時の政治・文化の中心地のひとつであり、大陸に向かう航路の発着点であった大阪湾に接する平野上に築造された。世界でも独特な、墳長500メートル近くに達する前方後円墳から20メートル台の墳墓まで、大きさと形状に多様性を示す古墳により構成される。墳丘は葬送儀礼の舞台であり、幾何学的にデザインされ、埴輪などで外観が飾り立てられた。本資産は、土製建造物のたぐいまれな技術的到達点を表し、墳墓によって権力を象徴した日本列島の人々の歴史を物語る顕著な物証である。
■構成資産
  • 堺市:反正天皇陵古墳、仁徳天皇陵古墳・茶山古墳及び大安寺山古墳、永山古墳、源右衛門山古墳、塚廻古墳、収塚古墳、孫太夫山古墳、竜佐山古墳、銅亀山古墳、菰山塚古墳、丸保山古墳、長塚古墳、旗塚古墳、銭塚古墳、履中天皇陵古墳、寺山南山古墳、七観音古墳、いたすけ古墳、善右エ門山古墳、御廟山古墳、ニサンザイ古墳
  • 羽曳野市、藤井寺市:墓山古墳
  • 羽曳野市:応神天皇陵古墳・誉田丸山古墳及び二ツ塚古墳、東馬塚古墳、栗塚古墳、向墓山古墳、西馬塚古墳、峯ヶ塚古墳、白鳥陵古墳
  • 藤井寺市:津堂城山古墳、仲哀天皇陵古墳、鉢塚古墳、允恭天皇陵古墳、仲姫命陵古墳、鍋塚古墳、助太山古墳、中山塚古墳、八島塚古墳、古室山古墳、大鳥塚古墳、東山古墳、はざみ山古墳、野中古墳、浄元寺山古墳、青山古墳
なお、2020年の世界遺産委員会には「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が推薦されている。
 

危機遺産は1件増、2件減で計53件へ

メキシコの世界遺産「カリフォルニア湾の島々と保護地域群」の固有種、コガシラネズミイルカ

メキシコの世界遺産「カリフォルニア湾の島々と保護地域群」の固有種・絶滅寸前種、コガシラネズミイルカ。1997年には約600頭が生息していたが、約10頭まで激減してしまった

価値喪失の危機に直面している世界遺産を搭載している「危機遺産リスト」。これまで54件が記載されていたが、2件が無事解除された一方、1件が追加され、総数は53件となった。

<危機遺産リストから解除された物件>

■イエス生誕の地:ベツレヘムの聖誕教会と巡礼路
パレスチナ、2012年登録、同年危機遺産リスト登録、文化遺産(iv)(vi)
2011年にユネスコに加盟したパレスチナの初登録物件で、手順を省略した緊急的登録推薦が行われ、翌年世界遺産登録と同時に危機遺産リストに搭載された。聖母マリアがイエスを産んだと伝えられる家畜小屋があった場所で、その後、ローマ皇帝コンスタンティヌスや東ローマ皇帝ユスティニアヌスらによって聖誕教会が整備された。遺産の管理計画や修復方法に大きな改善が見られたことから危機遺産リストからの解除が決定した。

■ハンバーストーンとサンタ・ラウラ硝石工場群
チリ、2005年登録、同年危機遺産リスト登録、文化遺産(ii)(iii)(iv)
半砂漠の草原地帯パンパが広がる地に開拓された鉱山と硝石工場を中心とした産業遺産で、1880年代から60年以上にわたって活動を行ったハンバーストーンの住宅エリアとサンタ・ラウラの工業エリアが登録された。20世紀半ば以降、放棄されていたため傷みがひどく、木材の腐食や地震・塩害による劣化、資材の盗難等が進んだため世界遺産登録と同時に危機遺産リスト入りした。約15年にわたる保全活動が奏功し、監視態勢も整ったことから解除となった。

<危機遺産リスト入りした物件>

■カリフォルニア湾の島々と保護地域群
メキシコ、2005年登録、自然遺産(vii)(ix)(x)
バハ・カリフォルニア半島の沿岸部と244の島々からなる遺産で、希有な生物多様性と豊富な固有種から「世界の水族館」の異名を持つ。魚類と海洋哺乳動物の宝庫で、後者については世界の三分の一の種が集中している。今回の措置は固有種でIUCNレッドリスト絶滅寸前種のコガシラネズミイルカの絶滅を危惧したもので、わずか10頭ほどしか残されていないこの種を守るために刺網漁などの違法操業を取り締まり、監視態勢を整えるよう勧告した。

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2019年新登録の世界遺産全リスト

アメリカの新世界遺産「フランク・ロイド・ライトの20世紀建築」、落水荘(カウフマン邸)

アメリカの新世界遺産「フランク・ロイド・ライトの20世紀建築」、落水荘(カウフマン邸)。1939年竣工の近代建築で、自然との調和が見事

それでは今年新たに登録された世界遺産の全リストを紹介しよう。

リストは文化遺産→自然遺産→複合遺産の順番で、各遺産内はヨーロッパ→アジア→オセアニア→北アメリカ→南アメリカ→アフリカ、さらにその内部は国名五十音順で記載した。世界遺産の日本語名はガイドによる適当な訳で、正式名称は英語名となる。また、世界遺産の内容は推薦時のもので、その後若干変更されている可能性がある。
イギリスの「ジョドレル・バンク天文台」、ラヴェル望遠鏡

イギリスの「ジョドレル・バンク天文台」、ラヴェル望遠鏡。高さ89m、口径76.2m、総重量3200tを誇る巨大な電波望遠鏡で、60年以上前の望遠鏡ながら反射面等を時々にアップグレードしながら運用が続いている

 <文化遺産24件>

■ジョドレル・バンク天文台
Jodrell Bank Observatory
イギリス、文化遺産(i)(ii)(iv)(vi)
1945年に運用が開始された天文台。1957年に完成したラヴェル望遠鏡は大口径の可動式電波望遠鏡で、1964年には楕円系のパラボラ面を持つマークII望遠鏡が完成した。また "e-MERLIN" と呼ばれるイギリスの7基の電波望遠鏡を結んだ観測ネットワークの中心施設もあり、これらを利用して人工衛星や月といった近距離から、パルサーやクエーサー、重力レンズ効果といった数十億光年単位の遠方まで、さまざまな天体現象の観測に活用されている。

■コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘
Le Colline del Prosecco di Conegliano e Valdobbiadene
イタリア、文化遺産(v)
プロセッコはヴェネト州の特定の地域で呼称が許されるD.O.C、D.O.C.G.ワインで、ドライな白のスパークリング・ワインとして有名。ブドウ栽培は紀元前2世紀までさかのぼり、11~12世紀には修道院ワインの生産で繁栄した。この2世紀は発泡のための二次発酵の研究が進み、科学的なワイン造りが進展した。構成資産にはコネリアーノ、ヴァルドッビアーデネ、ピエーヴェ・ディ・ソリーゴ、ビットリオ・ベネトなど15自治体のブドウ畑・教会・城・集落が含まれる。

■グラン・カナリア文化的景観のリスコ・カイドと聖なる山々
Risco Caido and the Sacred mountains of Gran Canaria Cultural Landscape
スペイン、文化遺産(iii)(v)
15世紀にスペインの航海士たちに発見されるまで、グラン・カナリア島では北アフリカから移住したとみられるベルベル人たちが1500年にわたって独自の文化を築いてきた。人々は中央山地を神と崇める聖山信仰を行い、神殿を築いて絵や文字を刻んで宇宙観を表現した。一例がカレンダーで、高い天文学的知識を持っていたことを示唆している。当初は洞窟を掘って横穴式住居とし、段々畑で持続可能な農業を行ったが、スペインが入植すると山は急速に荒廃した。

■エルツ/クルスノホリ鉱山地区
Erzgebirge / Krušnohoří Mining Region
チェコ/ドイツ共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)
12世紀にシトー会修道院が建設されたことからはじまった鉱山と鉱山町を中心とした文化的景観で、21世紀まで800年以上にわたって銀やスズ、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、ウラン、タングステンといった鉱石の採掘・製錬が行われた。鉱山や採掘・製錬施設から、水の供給・排水設備、集落の住居群、道路や鉄道・運河といった交通インフラ、製錬に必要な火力を供給するための林業関係の施設まで多彩で、ドイツ17、チェコ5、計22件の構成資産からなっている。

■クラドルビ・ナド・ラベムにおける儀式用馬車馬の繁殖と訓練の景観
Landscape for Breeding and Training of Ceremonial Carriage Horses at Kladruby nad Labem
チェコ、文化遺産(iv)(v)
クラドルビ・ナド・ラベムは16世紀にオーストリア・ハプスブルク家の所領となり、マクシミリアン2世、ルドルフ2世、レオポルト2世といった同家の代々神聖ローマ皇帝によって馬車馬の生産地・訓練所として整備された。ここではウマを飼育するだけでなく、よりすぐれた馬種を求めてイタリアとスペインのウマを掛け合わせるなど品種改良が行われていた。周囲の森林や牧草地が厩舎や倉庫・研究施設・住居などと調和して美しい文化的景観を奏でている。
ドイツの世界遺産「アウクスブルクの水管理システム」、アウグストゥス噴水

ドイツの世界遺産「アウクスブルクの水管理システム」、アウグストゥス噴水。中央に立っているのは市名の由来となったローマ皇帝アウグストゥス。左の建物は豪華絢爛な黄金の間で知られるアウクスブルク市庁舎

■アウクスブルクの水管理システム
Water Management System of Augsburg
ドイツ、文化遺産(ii)(iv)
アウクスブルクはレヒ川とヴェルタハ川が合流する地に築かれた町で、14世紀以降、堰やダム・運河が整備され、水車やアルキメディアン・スクリューを使って水を引き上げて上水道を張り巡らせた。ルネサンス期には美しく整然とした都市が整備され、アウグストゥス、ヘラクレス、メルクリウスの3大噴水を建設。産業革命期には水車を利用した紡績・織布工場で発展し、19世紀後半には水力発電所が築かれた。構成資産はこうした水に関する22の施設からなっている。

■クルゼミオンキの先史時代縞状フリント鉱山地区
Krzemionki prehistoric striped flint mining region
ポーランド、文化遺産(iii)(iv)
紀元前3900~前1600年、新石器時代から青銅器時代に至る時代の縞状フリントの産地で、3つの採掘場(KrzemionkiOpatowskie、Borownia、Korycizna)と1つの集落(Gawroniec)の4件を構成資産としている。縞状フリントはチャートと呼ばれる堆積岩の一種で、主に斧を作るために採掘されていた。露天掘りの漏斗状の採掘場から地下坑道まで4000に及ぶ遺構が残されており、集落とともに先史時代の鉱山文化と文化的景観をよく伝えている。

■ブラガのボン・ジェズス・ド・モンテの聖域
Sanctuary of Bom Jesus do Monte in Braga
ポルトガル、文化遺産(iv)
ブラガの街を見下ろすエスピーニョ山に聖地エルサレムの再現を目指して14世紀ほどから建設がはじまった「善なるイエスの山」を意味するキリスト教の聖域で、6世紀にわたって開発が進められた。イエスが茨の冠を被り十字架を背負ってゴルゴダの丘の処刑場に向かった「十字架の道」が彫刻作品とともに再現されているほか、ルネサンス、バロック、クラシック・リバイバル様式の教会堂・階段・噴水・庭園・洞窟などで彩られている。

■マフラの王宮-宮殿、教会、修道院、セルコ庭園及び狩猟公園[タパダ]
Royal Building of Mafra – Palace, Basilica, Convent, Cerco Garden and Hunting Park (Tapada)
ポルトガル、文化遺産(iv)
18世紀はじめにジョアン5世が築いたバロック様式の宮殿コンプレックスで、王宮や行政府・図書館・薬局・教会・セルコ庭園・狩猟公園といった種々の施設からなり、また子供の誕生に感謝して築かれたフランシスコ会の修道院も併設されている。タパダと呼ばれる公園は狩猟やレジャーのためだけでなく、自給自足を目指して麦・オリーブ・ブドウなどの畑やダムや貯水池が配され、城砦や城壁も備えて軍事施設としての役割も担っていた。
ロシアの新世界遺産「プスコフ建築派の教会群」、城塞クレムリンの城壁と至聖三者大聖堂

ロシアの新世界遺産「プスコフ建築派の教会群」、ヴェリカヤ川の畔にたたずむ城塞クレムリンの城壁と至聖三者大聖堂

■プスコフ建築派の教会群
Churches of the Pskov School of Architecture
ロシア、文化遺産(iv)
プスコフはヴェリカヤ川沿いに6世紀に建設がはじまった古都で、中世はハンザ都市とのバルト海貿易で繁栄した。12世紀頃から救世主変容大聖堂やスパソ・ミロシュスキー修道院をはじめ種々の教会堂や修道院・城塞クレムリンが整備され、16~17世紀には黄金時代を迎えて至聖三者大聖堂などの再建が行われた。また14世紀創建のプスコフ建築学校はビザンツ様式とノヴゴロド伝統建築の影響を受けつつ独特の建築様式を生み出し、ロシア建築に多大な影響力を与えた。

■ハーンの宮殿のあるシェキ歴史地区
Historic Centre of Sheki with the Khan’s Palace
アゼルバイジャン、文化遺産(ii)(v)
不登録勧告からの逆転登録。シェキは養蚕と絹の生産で繁栄したシルクロード西部の要衝で、歴史地区は1790年にフセイン・ハーンによって要塞化された宮殿コンプレックスとなっている。マナー・ハウスを中心に政庁、モスク、浴場、倉庫、馬小屋、キャラバンサライ、紡績・織布工場といった建造物群より構成され、ペルシア建築の影響を大きく受けながらロシア建築の要素も見られるなど、しばしば宗主国を変えたコーカサス地方特有の歴史を反映している。

■バビロン
Babylon
イラク、文化遺産(iii)(vi)
紀元前626~前539年にかけて繁栄した新バビロニアの首都遺跡で、城郭都市の内部に北宮殿や冬宮殿、イシュタル寺院、ニヌルタ寺院といった数々の建造物群が築かれた。特に有名なのがエサギラ寺院に築かれたエ・テメン・アン・キと呼ばれるジッグラト(神殿)で、91m四方で高さ90mという巨大な7層階段ピラミッドだったようだ。『旧約聖書』の「創世記」に描かれたバベルの塔(天を目指したため神の怒りに触れて滅ぼされた塔)のモデルともいわれている。
インドの新世界遺産「ジャイプール市、ラジャスタン」、ハワー・ハマル

インドの新世界遺産「ジャイプール市、ラジャスタン」、ピンクの色彩と953の窓が特徴的な「風の宮殿」ハワー・ハマル

■ジャイプール市、ラジャスタン
Jaipur City, Rajasthan
インド、文化遺産(ii)(iv)(vi)
ラージプート族のサワイ・ジャイ・シン2世が1727年から4年をかけて築いた都市で、「ジャイの城壁都市」を意味する。全長10kmに及ぶ城壁の内部は整然とした方格設計(碁盤の目状)の計画都市で、中央にジャイ・シン2世の居城シティ・パレスを据え、周囲には400ものヒンドゥー教寺院が建設された。ムガル帝国時代にはイスラム教建築、イギリス領インド帝国時代にはヨーロッパ建築も築かれている。赤砂岩を多用したことから「ピンクシティ」の異名を持つ。

■サワルントのオンビリン炭鉱遺産
Ombilin Coal Mining Heritage of Sawahlunto
インドネシア、文化遺産(ii)(iv)
産業革命以降、石炭は製鉄を行うときの材料、あるいは蒸気機関の燃料として大いに需要が高まった。19~20世紀にかけてオランダ領東インドのスマトラ島西部で開発されたオンビリン炭鉱はオランダ最大の炭鉱として繁栄を支えた。約10kmに及ぶ坑道を有する鉱山の周囲には、採掘プラントや発電所・ポンプ施設・送風装置・鉱山学校といった採掘関係の施設・設備や鉄道・港が備えられ、鉱山町サワルントの人口は当時7000人を超えた。

■ソウォン[書院]、韓国新儒学学院
Seowon, Korean Neo-Confucian Academies
韓国、文化遺産(iii)
朝鮮王朝の15~19世紀に築かれた「ソウォン」と呼ばれる新儒学の私立書院群で、紹修書院、藍溪書院、玉山書院、陶山書院、筆巖書院、道東書院、屛山書院、豚巖書院、武城書院の9院を構成資産とする。山水に囲まれた風光明媚な土地で、心身を涵養して儒教の道を究め、天人合一を目指した。中国から伝えられた新儒学が独自に発達して韓国の思想・宗教・教育体系に影響を与えただけでなく、オンドル(床暖房施設)のような韓国伝統の建築様式を普及・発展させた。

■良渚の考古遺跡群
Archaeological Ruins of Liangzhu City
中国、文化遺産(iii)(iv)
長江文明のひとつに数えられる新石器時代・良渚文化の遺跡で、紀元前3300~前2300年頃のものと考えられている。丘や平地に複数の貯水池を築き、灌漑設備を調えて稲作を行っていた。墓地は社会階層ごとに築かれており、階級性や分業が行われていたことがうかがえる。また、琮(そう)と呼ばれる祭祀用の玉器や、神々や動物を描いた翡翠の装飾品や陶器も出土しており、やがて黄河中流域で花開く中国諸王朝の文化との共通点が指摘されている。

■百舌鳥・古市古墳群
Mozu-Furuichi Kofun Group: Mounded Tombs of Ancient Japan
日本、文化遺産(iii)(iv)
先述「『百舌鳥・古市古墳群』登録! 大阪府に初の世界遺産が誕生!!」参照。

■ディルムン古墳群
Dilmun Burial Mounds
バーレーン、文化遺産(iii)(iv)
紀元前2050~前1750年ほどに築かれたディルムン文明初期のマウンド(墳丘墓)群で、5群21件の構成資産からなる。最大のマウンドは国王のものと見られる直径50mの墳丘墓で、階段ピラミッドのような層構造が見られ、内部には銅器や青銅器・陶器、象牙・ビーズ・貝殻などの副葬品が収められていた。小型のマウンドの多くは円筒形で塔のような構造をしており、時代が下るにつれて社会的な階層が多様化しているのが確認できる。

■バガン
Bagan
ミャンマー、文化遺産(iii)(iv)(vi)
バガン朝期の11~13世紀築かれたパヤー(仏塔)やパトー(寺院)、キャウン(僧院)といった仏教建築を中心に、要塞や古代遺跡など8エリア3595件のモニュメントを有する。バガン朝はエーヤワディー川の水運を制してミャンマーを広く支配し、上座部仏教の本場であるスリランカのシンハラ王国と交流して仏教文化を育んだ。パヤーやパトーの多くは王をはじめとする在家信者が寄進したもので、こうした寄進が功徳につながると考えられていた。
ラオスの世界遺産「シエンクワンのジャー状巨石遺跡群-ジャール平原」、ジャー状の石壺群

ラオスの世界遺産「シエンクワンのジャー状巨石遺跡群-ジャール平原」、点在するジャー状の石壺群。円盤状の石盤も発見されており、火葬した遺骨や副葬品を入れたのち蓋をしていたと考えられている

■シエンクワンのジャー状巨石遺跡群-ジャール平原
Megalithic Jar Sites in Xiengkhuang - Plain of Jars
ラオス、文化遺産(iii)
紅河とメコン川を結ぶ要衝であるジャール平原では紀元前500~後500年(最大800年)の1000年以上にわたって制作されたジャーのような形をした石壺が2100個以上発見されている。15の構成資産にはジャー状の石壺やディスク状の石盤をはじめ1325個の記念物の他、採石場や石壺製作所などが含まれている。石壺は高さ1~3mほどで、遺骨を入れる骨壺と考えられており、骨とともに陶器や鉄器・ガラス玉といった副葬品が発見されている。

■ブジ・ビムの文化的景観
Budj Bim Cultural Landscape
オーストラリア、文化遺産(iii)(v)
39000~30000年ほど前に起こったブジ・ビム山の噴火によってできた溶岩地形で、溶岩流はフィッツロイ川の流れを変えて種々の支流や湖沼・湿地を生み出した。先住民アボリジニのグンジュマラ族は少なくとも6600年前からこの美しく複雑な地形と、季節的な移動を繰り返すウナギなどの魚の習性を利用して、ダムや水路によって魚を小さな湖沼に誘導し、持続可能な養殖システムを確立していた。養殖については世界最古の例と考えられている。

■フランク・ロイド・ライトの20世紀建築
The 20th-Century Architecture of Frank Lloyd Wright
アメリカ、文化遺産(ii)
近代建築の3大巨匠のひとり、フランク・ロイド・ライト設計の8棟、ユニティ・テンプル、フレデリック・C・ロビー邸、タリアセン、ホリホック・ハウス、落水荘、ハーバートとキャサリン・ジェイコブス邸、タリアセン・ウエスト、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館を構成資産とする。低層で水平線を意識したプレイリー・スタイル(草原様式)を確立し、一層効率化したユーソニアン・ハウスに発展させた。なお、アメリカは2018年末にユネスコを脱退しており、オブザーバー(議決権のない傍聴者)として参加した。
カナダの世界遺産「ライティング・オン・ストーン/アイシナイピ」に林立するフードゥー群

カナダの世界遺産「ライティング・オン・ストーン/アイシナイピ」に林立するフードゥー群。こうした驚異的な景観を聖域として崇め、メディスン・ホイールやティピ・リングといった宗教的な石造モニュメントを築いて儀式を行った

■ライティング・オン・ストーン/アイシナイピ
Writing-on-Stone / Áísínai’pi
カナダ、文化遺産(iii)
登録されたアイシナイピ、ハーフナー・クーリー、ポバティー・ロックの3地域は北アメリカ大陸中央部に広がるグレート・プレーンズ北部の荒涼たる大地で、ミルク川周辺の渓谷には氷河の侵食でできたダイナミックな景観が展開し、フードゥーと呼ばれる奇岩群が林立している。紀元前1800年ほどから4000年ものあいだブラックフット族の聖地として崇められ、多数のペトログラフ(岩絵)やペトログリフ(線刻)、墓地や儀式跡が残されている。

■ブルキナファソの古代鉄冶金遺跡群
Ancient Ferrous Metallurgy Sites of Burkina Faso
ブルキナファソ、文化遺産(iii)(iv)(vi)
紀元前1000年頃から16世紀ほどまで2500年以上に及ぶ製鉄関連施設や鉱山・鉱山町・墓地などからなる遺跡群で、ティウガ、ヤマネ、キンディボ、ベクイ、ドゥルーラの5つの構成資産からなる。15の炉が残っているが、初期は高さ2~5mで山を抜ける風を利用した自然送風炉で、やがて半地下・地下構造で煙突や送風装置を伴う炉へと進化している。発掘された紀元前8世紀の石炭は酸化鉄から酸素を除く還元剤と見られ、すでに高度な製鉄が行われていたことの証拠とされる。

 <自然遺産4件>
アイルランドの世界遺産「ヴァトナヨークトル国立公園-炎と氷によるダイナミックな自然」

アイルランドの世界遺産「ヴァトナヨークトル国立公園-炎と氷によるダイナミックな自然」の氷河。巨大な氷帽からは約30の氷河が四方へ流れ出ている

■ヴァトナヨークトル国立公園-炎と氷によるダイナミックな自然
Vatnajökull National Park - dynamic nature of fire and ice
アイスランド、自然遺産(viii)
アイスランド島の地下では巨大なマグマ(ホットプルーム)が湧き上がっており、北アメリカ・プレートとユーラシア・プレートが毎年約19mmのペースで引き裂き合っている。島自体アイスランド・ホットスポットによって形成されたもので、国立公園内に10の火山があり、8つは氷河の下で、2つは活発に活動を続けている。園の三分の二を覆っているのは約2500年前に築かれた若い氷帽(流れない氷河の塊)で、体積においてヨーロッパ最大を誇り、厚さは最大1kmに達する。

■フランスの南半球の大地と海
French Austral Lands and Seas
フランス、自然遺産(vii)(ix)(x)
南極に近い南インド洋に浮かぶクローゼー諸島、ケルゲレン諸島、アムステルダム島、サンポール島からなり、厳しくも美しい氷河や氷河地形・火山地形が展開しており、隔絶された環境から特有の生態系が育まれている。アホウドリやキングペンギン、ゾウアザラシ、ナンキョクオットセイなどの巨大なコロニーが存在し、固有種や絶滅危惧種も少なくない。特に鳥類は豊富で、47種5000万羽以上が生息し、16種については全個体数の半数がこの地域に集中している。

■ヒルカニア森林群
Hyrcanian Forests
イラン、自然遺産(ix)
カスピ海の南部沿岸850kmに及ぶ地域で、15の構成資産からなる。カスピ海周辺の森林が急速に伐採されていく中で希少な原生林が広がっており、温帯林・湿地林・混交林のほか高山帯・ステップ・砂漠などを有し、多彩な植生が見られる。特に植物の多様性に富み、イランで見られる維管束植物の44%が国土の7%にすぎないこの地に集中している。植物だけで280もの固有種・固有亜種が見られ、こうした植生がまた多彩な動物相を育んでいる。

■中国湾部、黄海-渤海沿岸の渡り鳥保護区群
Migratory Bird Sanctuaries along the Coast of Yellow Sea-Bohai Gulf of China(Phase I)
中国、自然遺産(x)
中国と朝鮮半島の間に位置する黄海とその最奥部の渤海の沿岸部、ふたつの地域を構成資産とする物件で、遼河・海河・黄河・淮河・長江といった大河群や海流・季節風の影響を受けて独特の生態系を築いている。複数のラムサール条約湿地を含む一帯の大干潟群は世界最大規模とされ、東アジア-オーストラリア・フライウェイ(EAAF)と呼ばれる渡り鳥の重要なハブであるだけでなく、IUCNレッドリスト記載の17種を含む415種もの鳥類が生息している。

<複合遺産1件>
ブラジルの世界遺産「パラチとグランデ島-文化と生物多様性」、パラチ歴史地区

ブラジルの世界遺産「パラチとグランデ島-文化と生物多様性」、海から望むパラチ歴史地区。文化遺産として登録されたのは港周辺の中心部と、16世紀にポルトガル人が最初に街を築いたヴィラ・ヴェーリャと呼ばれる丘の一帯

■パラチとグランデ島-文化と生物多様性
Paraty and Ilha Grande – Culture and Biodiversity
ブラジル、複合遺産(v)(x)
セラ・デ・ボカイナ国立公園、イーリャ・グランデ州立公園、プライア・ド・スル生物保護区、カイリュク環境保護区という4地域と、パラチ歴史地区、モロ・ダ・ヴィラ・ヴェーリャの計6件を構成資産とする。アトランティック・フォレスト​生物多様性ホットスポットに含まれており、多数の固有種を育んでいる。また、パラチ歴史地区はブラジルでもっとも保存状態のよい植民都市で、内陸から金を運んだカミノ・ド・オウロ(黄金の道)の終点で、パラチの港から金を積み出していた。

<重要な範囲変更1件>

■オフリド地域の自然遺産及び文化遺産

※北マケドニアの同名世界遺産のアルバニアへの範囲拡大
Natural and Cultural Heritage of the Ohrid region
アルバニア/北マケドニア、1979年登録、1980・2019年拡大、複合遺産(i)(iii)(iv)(vii)
バルカン山脈の中にたたずむオフリド湖は300万~200万年前にできた古代湖で、カルスト台地によって浄化された地下水を水源としているため透明度が高く、養分が少ないことが特有の生態系を構築して200種以上の固有種を育んでいる。周辺はヨーロッパ最古級の人類の定住地で、リン教会をはじめ6世紀にまでさかのぼる初期キリスト教会堂があり、スラブ文化とビザンツ文化が融合しながら発達する様子が確認できる。


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