妻が溜めこむ家事ストレス……不満の原因は夫婦間の「不公平感」
夫婦の愛情と平和をかき乱す原因……その筆頭に挙げられるのが毎日の「家事」。たとえば妻側に次のような不満があると、夫婦げんかの種が絶えなくなりがちです。
- 「共働きなのに、なぜ私だけこんなに家事をやらないといけないの?」
- 「どうして洋服をたたむのが雑なの? 掃除機のかけ方が雑なの?」
- 「なぜごみを捨ててくれないの? 玄関掃除もしたことがないし……」
- 「排水口もトイレも。汚いところの掃除は、私ばっかり!」
- 「家事がこんなに溜まってるのに、自分だけのんびりして! どうして気づかないの?」
毎日の家事へのストレスが積み重なっていくと、新婚当初に盛り上がっていたパートナーへの愛情は急速に冷えていってしまうもの。なぜなら人間は、自分の“インプット(投入)とアウトカム(報酬)”が他者のそれと等しいかどうかを計算し、公平になるように行動する生き物だからです。これを心理学では「公平理論」と呼びますが、家事にまつわる夫婦間の不満もこの理論によって理解すると、分かりやすくなります。
男女で家事への意識や感性、スキルに差がある原因は?
公平理論を説明する前に、「なぜ女性は男性より家事ストレスを溜めやすいのか」について少し考えてみましょう。個人差はありますが、一般的に女性は男性より「家事」への関心が高く、家庭内の細々としたことに気づきやすい特性があります。それには、個性や養育環境、文化が影響しています。
たとえば、女の子は幼い頃から「シルバニアファミリー」や「リカちゃんハウス」などの“おうち遊び”に親しみやすく、遊びを通じて家事のやり方や家庭の切り盛りへの関心を深めていくことが多い傾向があります。そして、母親も「女の子だからちゃんと家事ができるようにしてあげたい」という意識で、家事を教えていくことが多いようです。
これに対し、男の子はどうでしょうか? 男の子も幼児前期には女の子同様、“お母さん的なもの”への愛着が強いため、ままごとにも関心を持ちます。しかし、その関心は成長と共に薄れ、戦隊ものなどの戦いごっこやゲーム、虫や鉱物、鉄道、車など、家事・家庭とは少し違った遊びや物事に関心を向けていく傾向が多いものです。そして親も息子のこうした個性を理解すると、無理に家事を教えようとは思わなくなり、家事の力を磨く機会は減っていきます。
繰り返しますが、もちろんいずれの場合でも個人差はあります。しかし大きな傾向として、このような背景があることは無視できないことでしょう。
妻側の「家事の不公平感」はなくせない? その理由とは
こうした異なる生育環境を持つ男女が恋をして結婚すると、その日から“家事”が始まります。終わりなく毎日繰り返される食事の支度、掃除、洗濯、2人分の買い物……さらに子どもが生まれると育児の負担も加わり、家族が増えるほど家事の負担も大きくなっていきます。
新婚当初は熱愛の効果で、「愛する人のために家事ができること」に喜びを感じるでしょう。その熱愛は残念ながら日を追うごとに冷めていくことが多いのですが、一方で家事は減ることはなく、果てしなく続いていきます。すると、家事への意識、感性、スキルがもともと高い方、つまり多くの場合は妻の方に「どうして私ばっかりやっているの?」という不公平感が生じます。そして、この不公平感が解決できないと、やがては相手への「不信感」、さらには「憎しみ」へと発展してしまうことが少なくないのです。
公平理論で考えると、家事ストレスによる妻の不公平感を拭い去ることは、相当に難しいと言わざるを得ません。かつての時代の妻は、「家事は大変だけど、夫も家族のために頑張って働いてくれるから、愚痴を言ったら罰が当たるわね」「女にはよい就職口が少ないから、夫に私の分も働いてもらわなくっちゃ。家では私が夫を支えて、これが女性の幸せね」といったように、妻側がほとんどの家事を負担していても、「夫婦はそれぞれの別のタスクを分担しているから公平だ」と考え、自分に言い聞かせることもできたかもしれません。しかし、現代の妻は、こうした理屈づけによる公平感の埋め合わせをしにくい状況にあります。
なぜなら、現代では、女性と男性には平等な教育・雇用の機会が与えられており、男性と同様の知性、ビジネスの感性、スキルを女性側も身につけているからです。それだけではありません。2018年に成立した働き方改革法によって、女性がライフステージに合わせて柔軟に働き続ける制度、女性管理職の登用、同一労働同一賃金などの制度がスタートしました。つまり、家庭の都合によって女性が諦めずに働ける制度が、これから飛躍的に充実していくのです。この背景には、そうしなければ、少子高齢社会が進展する日本を支えられないという事情もあります。
このように男女が共に働き、ワーク・ライフ・バランスを目指せる社会が現実になっているのに、一方が相変わらず家事への意識、感性、スキルが低いままでいたらどうなるでしょう? もう一方の不公平感が爆発して離婚がさらに増えるか、疲弊して燃え尽き症候群に陥る女性が増えてしまうかでしょう。
ワーク・ライフ・バランス実現には夫の「家事力」向上が不可欠
そうしたなか、働き方改革が追い風となり「生活できるだけの収入」を得られることへの自信を持つことによって、「家事をしない夫からの脱出」を本格的に目指す妻が増えても不思議ではありません。
男女共にワーク・ライフ・バランスを実現できる社会に変わる今、家事は「気づいた方がやればいい」「得意な方がやればいい」といった感覚では、家庭と仕事の両立は成り立ちません。家庭の切り盛りも職場のチームワークも、基本は同じです。メンバーがお互いにコミットし、チームの中でできることを主体的に探す、予算内で生産性を高める方略をディスカッションしながら見つける。社会が変わる中、こうした意識が家庭人としても社会人としても必要です。
パートナーは人生の最後まで残るいちばん大切な人間関係。お互いに、縁あって一緒になった相棒を末永く大切に思いあえるようになるためにも、「家事」を通じてきずなと信頼を築ける関係を目指していきませんか?