前回に引き続き、ガイドが実際に受けた火災保険コンサルティングの様子をコラム上で再現してお届けします。第2弾の今回は、マンション所有者であるMさんの親が加入する、マンション専有部分の火災保険を確認していきます(掲載に際しては、Mさんの同意および承諾を得ています)。

 

フル補償の火災保険、補償はどれも必要?

マンション専有部分は「壁から内側」とする管理組合が一般的

マンション専有部分は「壁から内側」とする管理組合が一般的

清水 お父さまが契約しているマンション建物の専有部分の火災保険を確認していきましょう。

Mさん はい、よろしくお願いします。

清水 専有部分はたいていの場合、壁から内側の居室部分をさします(「親名義の家に子が住む場合の火災保険は?基本編」参照)。この火災保険も部屋の中の内装や造作・設備部分の損害を補償対象としていて、保険金額800万円は適正ですね。補償内容は以下のとおりです。
 
【契約者および被保険者:Mさんの父親】
保険対象:マンション建物(専有部分)
補償内容:火災・落雷・破裂・爆発/風災・ひょう災・雪災/水災/盗難・水濡れ等/破損等(以上の補償は、すべて免責金額5000円)/地震・噴火・津波
特約:類焼損害特約 支払限度額1億円/個人賠償責任保険 支払限度額1億円/臨時費用補償
保険金額:800万円(地震保険400万円)
保険期間:6年間(地震保険は5年自動継続)
保険料:7万2340円(保険料長期一括払)

Mさん 父は、火災保険の補償は手厚くしたと思う、と言っていました。

清水 お父さまのおっしゃるとおり、手厚いですよ。火災保険には、火災以外にもいろいろな補償があります。落雷や風水害などの自然災害のほか、盗難による損害や水濡れ、破損など、日常生活の中で偶然起こる事故を補償するものもあります。火災保険は、これらのいくつかを束ねて一定の商品とするパッケージタイプが多いのですが、必要な補償だけを選択できる火災保険もあります。お父さまが加入している火災保険は、保険会社が提供している補償が幅広く束ねられたフル補償で、パッケージタイプの保険ですね。

Mさん そうですか! それなら安心ですね。

清水 火災保険がカバーする偶然の事故は、家計に深刻なダメージを及ぼすものが多いんです。なので、めったに起きないからといって不要とは言い切れません。ただ、住まいの状況や家計の状況によっては必要ない場合もありますし、考え方によっては工夫できる余地はありますね。

Mさん なるほど。それではまず、工夫の余地がありそうなのは?

清水 たとえば、「破損等」は考え方次第かもしれません。これは、家族が誤って家具を倒すなど偶然な事故で壁に穴があいたり、それによって室内設備が壊れたりしたときに補償を受けられるものです。突然の出費をカバーできるので、おトクに感じられる人もいるようですね。

Mさん 確かに、そんなときに保険金が受け取れたら助かりますね。

清水 ただ、居住不能レベルの被害が生じることもある自然災害のダメージと比べ、破損等の家計へのインパクトは限定的でしょう。手元のお金で対処できるのであれば、わざわざ保険で準備しなくてよいという考え方もあります。補償を絞り込めば、その分、保険料も抑えられますしね。

Mさん そういう考え方もできますね。逆に、削れないのは?

清水 地震や風水害など自然災害による被害への補償ですね。住宅が自然災害で被災しても、国や自治体による補償は期待できません。自治体からの見舞金(被災者生活再建支援金)はありますが、住宅全壊でも最高100万円(再建時はプラス200万円)で、住宅再建や修繕には足りません。所有者が自らの責任で行うのが基本とされているため、自身で備える必要があるんです。さらにいうと、自治体からの見舞金は、所有・賃貸を問わず、“自宅”に大きな被害を受けた人に対するものです。なので、こちらのマンションを自宅とするMさんは、自治体からの見舞金を受け取れますが、お父さまは所有者であっても見舞金は受け取れないんです。

Mさん 全然知りませんでした。自宅以外だと、保険はより大切ということじゃないですか。

清水 そうなりますね。貯蓄で到底対応できない、自分でコントロールができない、かつ公的支援が限られているリスクに対して、保険はとても大切な備えになります。災害はこのすべてに当てはまるので、削ってはいけない補償なんです。ハザードマップによると、Mさんがお住まいの地域は、1メートル程度の浸水リスクがあるとのことでしたね。しかもMさんのお部屋は1階です。浸水すると、床や内装、設備にも大規模な修繕が必要になるかもしれません。

Mさん 水災補償を付けていてよかった。

清水 もし都市部の高層階に住んでいた場合は、浸水や洪水といった水災に遭うことは考えにくいので、同じマンションでも水災の補償が不要となる場合もありますけどね。まずはハザードマップをチェックしてみましょう。

 

マンションならではの損害「水濡れ」は必須

「水濡れ」は、建物内外の給排水設備の事故、他の戸室で生じた事故による水濡れ損害をカバーする

「水濡れ」は、建物内外の給排水設備の事故、他の戸室で生じた事故による水濡れ損害をカバーする

Mさん 「水濡れ」っていうのもありますが、水災とは違うんですか?

清水 はい。水災は大雨による洪水とか浸水などの災害ですが、水濡れは、スプリンクラーや水道管・排水管など一定の給排水設備の事故で生じた損害のことです。マンションなら付けておいたほうがいいでしょう。
 
【水濡れ損害における給排水設備の範囲】
セゾン自動車火災「じぶんでえらべる火災保険」の例

水道管/排水管(※)/貯水タンク/給水タンク/トイレの水洗用の設備/雨樋/浄化槽/スプリンクラー設備および装置/スノーダクト など

※使用のたびに取りつける排水ホースなどは該当しない。また、流し台、風呂槽、洗濯機、食器洗い器、洗面台などの本体そのものは給排水設備には含まれない。ただし、これらに接続される給排水管は建物の給排水管と連結した状態であれば給排水設備に含まれる。

Mさん 給排水設備の事故って、たとえばどんな事故ですか?

清水 ここでいう給排水設備とは上記囲みのものなのですが、保険会社が提供している過去の事例によると、「洗濯機の排水口の目詰まりで、排水が防水パンから溢れて床に被害が生じた」とか「トイレの水道管から漏水して、床や壁に被害が生じた」などとあります。

Mさん 結構、ありそうな内容ですね……。

清水 ただ、水回りでも流し台や風呂槽、洗面台などは給排水設備に含まれないので(囲み参照)、例えば浴槽に水を貯めていて、うっかり溢れさせても給排水設備の事故にならず、保険金は支払われないのです。

Mさん うーん……うっかりミスは起こり得るので、オートバス以外の方は、要注意ですね。

清水 ただし、どんな原因にせよ他の戸室からの水漏れで被害を被った場合、たとえば上階に住む人が原因で下階が水濡れ被害を受けたときは、下階の世帯は自分が加入していた火災保険の「水濡れ」が使えます。マンションで水漏れを起こすと、自宅だけの被害では済まない場合もあって、10階で発生した水漏れで、1階まで水濡れ被害が生じたといった事例も過去にはあったそうですよ。

Mさん うわぁ……それは気まずい! その場合、水漏れを起こした人に責任はないんですか?

清水 ご指摘の通り、水漏れを起こした人は被害者への損害賠償責任を負うので、被害者は加害者から賠償を受けるのが筋です。そこで被害者が自分の火災保険の「水濡れ」で保険金を受け取った場合、その保険会社は保険金の範囲内で加害者に請求(求償)することになるんです。

Mさん 被害者が水濡れ補償を受けていたとしても、加害者の賠償責任がなくなるわけではないんですね。

清水 はい。こうした加害者の賠償責任については、個人賠償責任保険で対応できます。マンションに住むなら、加害者になったときのことも考えて、個人賠償責任保険にも必ず加入しておく必要がありますね。マンション管理組合が加入している火災保険契約で、居住者のための個人賠償責任保険もセットされている場合もありますので、確認しておきましょう。

Mさん そうですね……。ちなみに、被害を受けたときに、加害者から賠償を受けて、さらに自分の火災保険から保険金を受け取ることはできますか?

清水 それはできません。損害保険はあくまでも「損失の穴埋め」が目的なので、いずれか一方から補償を受けます。ただし、損害保険金の30%などが上乗せされる「臨時費用補償」は、どちらから補償を受けた場合でも受け取ることができますよ。

 

類焼損害補償(特約)は近隣への「見舞金」ではない?

もらい火でも、法律上は火元から補償は受けられない

もらい火でも、法律上は火元から補償は受けられない

Mさん 「類焼損害特約」というのもついていますが、どういうものなんですか? 結構、支払限度額も高いので、やっぱり重要な補償なんでしょうか?

清水 はい、説明しましょう。例えば、Mさんがうっかり火事を起こしてしまい、近隣の世帯にまで延焼被害を及ぼしたとします。

Mさん えっ、怖いですね! 起こさないように気をつけます。

清水 火災はときに、深刻な延焼被害を及ぼすこともあります。それでも火元であるMさんには、被害者に対する法律上の賠償義務はないんです。「わざとではなく、うっかり火災を起こして自らも財産を失っている火元に、すべての責任を負わせるのは酷だ」という考えからなんですね。

Mさん そうなんですか! ある意味、少し安心ですが……。

清水 逆の立場から言うと、被害を受けた側は火元に賠償してもらえないということになるので、誰もが火災保険に入っておく必要があるのです。ところが、総務省の調査によれば、火災保険(共済)の加入率は約8割とのデータもあるんです(総務省「保険・共済による災害への備えの促進に関する検討会(第1回)資料2検討の論点より」)。

Mさん 入っていない人も意外に多いんだ! その場合、被害を受けた側はどうなっちゃうんでしょうか。

清水 Mさんが火元の例で説明します。燃え移ったお隣さん(類焼先)が保険に入っていなかった場合、どこからも補償を受けられないため、生活再建ができません。こうしたときにお隣さん(類焼先)が損害を受けた住宅や家財を、新たに買い入れる金額を基準に補償しようというのが「類焼損害補償」です。ただ、あくまでも住宅再建や修繕の「不足分」を補うことが目的で、お隣さん(類焼先)が火災保険に入っていて、十分な保険金を受け取っていたら、その分は差し引かれます。

Mさん ということは、逆に言うと、類焼先が火災保険にしっかり加入していたら、類焼損害補償からの補償はないと? それでも、お詫びのしるしに支払いたい、と思ってもダメなのですね?

清水 おっしゃるとおり、こちらが支払いたいものを支払えるわけではないのです。補償対象も類焼先の居住用住宅および生活用家財に限定されていて、類焼先が事務所だったり、被害を受けたのが一組30万円を超えるような貴金属や骨董品、有価証券や現金だったりすると補償されません。こうした点も知っておきたいですね。

Mさん 火元からの「見舞金」となる性格のものではないのですね。ほかにも知っておくべきことはありますか?

清水 見舞金であれば「失火見舞費用」という補償があります。商品によって必ずついていたり特約としてつけたりしますが、一定の額の見舞金を補償するものです。それと、この類焼損害特約は、住人のMさんの火災保険ではなく、所有者であるMさんのお父さまの火災保険に付帯されていますが、Mさんが火災を起こした場合も補償されますのでご安心くださいね。

――Mさんの火災保険コンサルティングは次回も続きます。

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