兼業・副業希望者は年々増加傾向に
副業・兼業を認める場合には、公開されたガイドラインを基に就業規則を改訂しておきましょう。
「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公開されました
厚生労働省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公開(平成30年1月)されました。そのガイドラインによると、原則、副業・兼業を認めることが基本方針となっています。現在、副業・兼業を禁止・許可制にしている企業は、自社の業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査した上で、労働時間以外の時間について、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる、とされています。
多くの企業がいまだ副業禁止だが、判例では「基本的に自由」
【現状】現時点では、大多数の企業は副業・兼業を認めていません。中小事業庁委託事業「平成26年度兼業・副業に係る取組実態調査事業」データによると、容認していない企業割合は85.3%でした。自社での業務がおろそかになること、情報漏洩のリスクがあること、競業・利益相反になること等の課題、懸念があるからです。
一方、副業・兼業に関する裁判例を見てみると、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由。各企業においてそれを制限することが許されるのは、労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合と考えられています。
【方向性】
副業・兼業を行う理由は、自分がやりたい仕事であること、十分な収入の確保等さまざまです。ガイドラインでは、長時間労働、企業への労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等を招かないよう留意しつつ、雇用されない働き方も含め、その希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備することが重要である、とされています。
企業の対応方法を考えよう
裁判例を踏まえると、原則、副業・兼業を認める方向性で実務対応をしていく企業が今後増加していくことでしょう。もちろんガイドラインが出たからと言って、則容認する義務はありません。副業・兼業を進めるのであれば、労働者と企業双方が納得感を持って進められるよう、労働者との十分なコミュニケーションが重要です。副業・兼業を認める場合のポイントは、
- 労務提供上の支障や企業秘密の漏洩等がないか、
- 長時間労働を招くものとなっていないか
就業規則の改訂について
副業・兼業を容認する場合には、自社就業規則の改訂が欠かせません。ガイドラインの公開に合わせて、平成30年1月に「厚生労働省モデル就業規則」も改訂公開されました。労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という従前の規定が削除され、副業・兼業について規定が新設されました。
これも参考にして容認するのであれば、自社の就業規則を改訂しておきましょう。特に第3項の禁止、制限できる場合の記載事項が重要です。
一方で、自社就業規則には、今まで副業・兼業についての規定がない企業もあることでしょう。その場合、会社に黙って兼業・副業をしていた社員がいるかもしれません。
本ガイドラインの公開はいい機会です。このタイミングで、まずは容認するのかしないのかを経営判断してください。必ず容認する義務はありませんので念のため。企業側、社員側のメリット・デメリットを検証して改訂することがポイントです。
改定した就業規則の文面例
(副業・兼業)
第〇〇条
労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
- 労務提供上の支障がある場合
- 企業秘密が漏洩する場合
- 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- 競業により、企業の利益を害する場合
労働時間管理に要注意!
その他、自社及び副業・兼業先で雇用されている場合には、労働時間等の管理に注意が必要です。労働基準法第38 条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されているためです。事業場を異にする場合とは、勤務先企業が異なる場合も含まれます。
労働時間を通算した結果、法定労働時間を超えて労働させる場合には、自社で発生した法定外労働時間について、時間外及び休日労働協定(いわゆる36〈サブロク〉協定)を締結し、法定割増賃金を支払わなければなりません。
一般的には、通算により法定労働時間を超える所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した企業が(契約締結時に他企業で労働していることを確認した上で契約を締結すべきことから)、上記割増賃金支払い義務が生じます。
なお、通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が上記義務を負うこととなりますのでこの点も注意しておきましょう。
副業・兼業の際の税金は?
兼業・副業の際、税金はどうなるのでしょう。確定申告が必要かどうかは、その収入の所得区分によって異なります。概要をお話しすると、副業・兼業先で「給与」が支給される場合には、所得税の確定申告が必要です。所得税は、2か所以上からの所得が合算されるからです。各社の源泉徴収票を添付して確定申告を行うことになります。ただし、副業・兼業の収入が、「給与以外」の収入の場合、所得(収入金額から必要経費を控除した額)が20万円以下であれば、確定申告は不要です。株取引やオークション収入を得ている場合等はこれにあたります。
<参考記事>初めてでもわかる就業規則の基本
<参考資料>副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省パンフレット)
<参考資料>給与所得者と確定申告(国税庁ホームページ)