アートとインテリアの距離感
三菱一号館美術館(左)
それにしても、日曜午前の丸の内である。周りを見れば、老若男女問わず。「アートが好きな国民性」と、ある本に出ていたフレーズだが、このときばかりは痛感せざるを得なかった。東京には国立はじめ名だたる美術館多数。画廊、ギャラリーも至るところに。ピンキリでいえば骨董市も年中いろんな広場や境内で開かれている。「アートはじつに身近な存在で、日常のなかに溶け込んでいる」ように思えてならない。
だが、インテリアとなるとどうか。住み替えで「〇〇ブランドのソファを」「△△メーカーの大画面テレビを」という話は耳にしても「誰それ(アーティスト)の絵を飾ることに」とはあまり聞かないようだ。これはひとえに、質の高いインテリアアートを「インテリアとの組み合わせの中で選びたい」のだが「適切なアドバイスはどこでもらえるのか」ニーズの受け皿が極端に少ないからではないだろうか。アート推奨には専門的な知識と経験に裏付けられた助言が不可欠。ネット時代も口コミが情報サイトとして成立しない。嗜好は充分あるのだが、住空間との接点を見い出しにくい。そんな現状にある。
「カッシーナ・イクスシー」がアートギャラリーを併設
高級家具ブランドで知られるカッシーナ・イクスシーは、2016年秋、青山本店リニューアルに合わせアートギャラリー「デラルテ」を開設。デラルテとは「アートについて」という意味。顧客に対して家具からアートまで幅広く提案するため、常設のアートギャラリーを設置するに至った。とはいえ、突然アート作品の展示・販売をはじめたわけではないという。「カッシーナ・イクスシーでは、20年近く前からアートを取り扱っていました」と同社インテリアコンシェルジュ、谷口寿子さん。これまでもショールームで家具にコーディネイトさせる形でアートをディスプレイしていたが、「お客様の目には販売しているかどうかわかりにくかった」(同)。数年前からアート分野に力を入れ、海外研修等ノウハウの蓄積を地道に行ってきたという。
「デラルテ」では、社員等が選定した20名程度の作家の作品計約300点を抱える。工房に出向いたりしながら、国内外を問わずクオリティの高いアーティストのみと契約。その質と量については、「他のギャラリーとはまったく異なるラインナップ」(同)。そこがひとつの大きな特徴である。さらに、世界的著名作家の作品も取り扱う。無論、こちらは相当値が張るようだ。
「サイズは飾りたい壁面の40%程度」をひとつの目安に
「欲しい作家が決まっているわけではない」「飾る作品は良質なものを厳選したい」「インテリアとの相性は最優先」そんな顧客に対して、どのような「アートへのアプローチ」を提案するのか。谷口さんの接客の仕方を聞き、ポイントは3つあると思った。まずひとつは「サイズ。飾りたい壁の面積の40%程度をひとつの目安に」。家具もそうだが、住空間における大きさのバランスは非常に重要。無論ケースバイケースなのだろうが、とてもわかりやすい基準だ。
次に「オーナーの好みや家での過ごし方等、パーソナルな情報を聞かせてほしい」(同)。例えば、音楽が好きな人であれば音楽をモチーフにした絵画をすすめることもできるという。一瞬何のことかわからなかったが、「音楽をイメージした線や色が存在する」のだそう。ワインを嗜む人なら葡萄といったように何かしら関連付けることで、作品選びの第一歩を踏み出す。切り口は、他にも風水やラッキーナンバー等様々あるらしい。
最後は「自宅の壁に、実際にかけてみて最終判断をする」(同)。どんな家具を持っているかは、初期段階でヒアリング。もともと家具が専門なので、コーディネイトの視点は当然持ち合わせている(ここが心強い!)。しかし、ある程度候補を絞り込んでいても、優劣をそれとなくつけていても、実際に壁にかけてみると「最後に決断した絵は違うものだった」というケースは少なからずあるという。ここがインテリアアート面白いところ。また、このフローは失敗を回避しやすい。
「デラルテ」では2~3か月に一度展示作品を入れ替える。「家具の新作発表は年2回。それとは別に売れた作品の補充も兼ねて年間で計6回ほど替えるようにしています」(同)。最近ではアート目当ての来店も増えたようで、「企画展のようなイベントに合わせてではなく、ある程度期間をあけて自分の好きなときにフラっと寄られる」とのこと。業績は「お蔭様で、計画を上回る」。「リビングに1点買われた方が、次は玄関、その次はダイニング」とリピートするケースが多い。アートがもたらす<空間の雰囲気を変える力>を実感するからだそうだ。
【関連記事】
『カッシーナ』一番人気のソファ、ダイニングチェア
「プラウドシティ越中島」にみるブランドの力
【関連サイト】
レオナルド×ミケランジェロ展
カッシーナ・イクスシー「デラルテ」