シニフィアン シニフィエ×堀口珈琲×Craftのコラボレーション
シニフィアン シニフィエの志賀勝栄さんとカフェ担当職員の佐々木理乃さん
「葛飾の福祉施設が運営するベーカリーカフェに技術指導に行っているのですが、見に来られませんか」
シニフィアン シニフィエの志賀勝栄さんにお声掛けいただいて、ヴィゼ・ポレールの厨房に伺いました。
パンの種類は30種類ほど
ここは知的障がい者の自立・就労支援を行う「葛飾通勤寮」に併設されたベーカリーカフェ。2017年5月にオープンしたばかりでまだあまり知られていませんが、民間企業のように地域に開かれていて、誰でもパンを買ったりコーヒーを飲んだり、ランチをとったりできる場所。すごいのは、そのパンとコーヒーの味のクオリティが民間のそれ以上だというところです。
クロワッサン、パンオショコラ
抹茶大納言
「”障がい者施設のパン屋”ではなく、”地域に愛される本格派のパン屋”を目指しています」と話すのは社会福祉法人原町成年寮 就労継続支援B型事務所Craft 所長の佐久間敦さん。約40年も続いた施設の老朽化による新事業所の計画が持ち上がったとき、このベーカリーカフェを企画した人です。
ハード系のパン
「ベーカリーカフェで働くということは、身だしなみを清潔に整え、清掃をし、立ち仕事や接客をすること。それはどんな仕事にも共通する部分です。そして、やるならば、障がいをウリにしないプロの店をと考えました。不手際があっても許されるのは甘えです。障がいのある利用者の方々が自立するための訓練の場ではありますが、それは本当の意味で社会に出て働く場でなくてはならないのです。本物の技術とサービスを提供する民間企業に近い場であるほうが、一般就労への近道になると思っています」
明るく開放的なカフェスペース
そして、佐久間さんはベーカリーとコーヒーそれぞれの業界で一流と言われている人を探し出し、パンはシニフィアン シニフィエに、コーヒーは堀口珈琲に技術指導を仰いだのです。企画から2年かけて、プロの技術とサービスを身につけるべく、職員が民間の店へ出向し修業させてもらったりなど、その準備も半端なものではありませんでした。
一杯ずつ丁寧に淹れられるコーヒー
低温長時間発酵のパンのポテンシャル
朝の厨房風景
朝の6時過ぎ、私が厨房に入ると既に3名のスタッフが仕込みをしていました。施設での製パン経験のある職員、中島房枝さんと今回のために民間企業で修業した職員の玉木健司さん、そしてシニフィアン シニフィエから出向している職人歴6年の長嶋望さん。それから数時間は志賀さんを交えてスタッフ間で作業しながらの業務連絡、打合せの時間。9時になると軽度の障がいを持つ利用者さんらが加わり、この日は一人の利用者さんに対して一人の職員がつきました。
志賀さんが厨房に入る貴重な機会
志賀さんのパンの特徴である低温長時間発酵という製法は、この厨房ではハード系のパンばかりではなく菓子パンにも用いられています。時間の調整がきき、ゆっくり作り上げていくことができるため、障がい者の方にとって、つくりやすいパンだと志賀さんは言います。しかし、たとえばカスタードクリームやカレーを市販のものにして手間を省いたり、添加物を使って簡単にするということはありません。
チームを作り上げることがとても大切
「パンをつくる技術は大切ですが、それより大切なのは職員、障がい者のスタッフがひとつのチームになるということ。"One for All,All for one"だと思っています」と志賀さん。
自家菜園のバジルを窯でドライにしてフーガスに
そういえば、志賀さんのいる厨房は昔からいつもチームワークが感じられ、和やかです。「理想的な組織論があるからかもしれません」。組織論?「人ひとりひとりの命の重さは同じです。実際の社会ではそうでもないのかもしれないけれど、ぼくは同じだと思っていて、自分ができることとして、どの人も大切に扱う。大切に向き合います」
塩バターパン
パンにゴマをつけたり、クリームを挟んだり、ずっと黙々と作業をされていた利用者の女性に、仕事(訓練)の感想を尋ねると「疲れるけれども、パンの仕事は楽しいです」と言っておられました。「パンの仕事をしていると、わたしの中の病気みたいな部分がすーっとなくなっていくのがわかるんです」。そしてちょっと微笑みました。
ランチタイムは近隣の人で賑わう
ヴィゼ・ポレールとはフランス語で「北極星を目指して」の意。地球からみて動かない星である北極星を従業員それぞれの目標に見立て、この店がそれぞれの目標に向かって進んでいける場となるよう、願いが込められています。
くるみパンと抹茶大納言
ヴィゼ・ポレールのパンの魅力
さて、パンのレシピは「プロデュースというよりコラボレーションのつもり。こういうパンがほしいという職員のアイデアをぼくが形にしています」と志賀さん。現在25~30種類のパンがあります。
お試しプレート
注文を受けてからハンドドリップするコーヒーは370円。カフェのフードメニューは各種パンのほか、専用のピザ窯で焼くピザ(650円)や、6種のパンとちょっとしたデリ、飲み物のついた「お試しプレート」(700円)があります。
※価格はすべて税別
カレーパン
人気があるのはお総菜パンだそうで、わたしはカレーパン(140円)に感動しました。小さめの揚げないタイプで、カリカリの衣としっかりした食感の生地の中に豚挽肉とひよこ豆のカレーが入っています。
自家製カレー
このカレーは厨房で玉ねぎをじっくり炒め、ホールスパイスをテンパリングするところから始まる本格派です。堀口珈琲のコーヒーも隠し味に入っているそう。
豆パン
志賀さんのパンのファンはたくさんいると思いますが、ここで「レアもの」としておすすめしたいのは菓子パンです。シニフィアンシニフィエでは菓子パンの類がないので、たとえば「豆パン」(150円)がおすすめです。低温長時間発酵の水分の多い生地は外皮を感じさせない仕上がりで、ブリオッシュのようなしっとりふんわりとした柔らかさとほの甘さ。あまり食べたことのない新しい食感です。
ヴィゼ・ポレールの花形商品
店名のついた「ヴィゼ・ポレール」(250円)は、しっとりとした生地にレーズン、クランベリー、ピスタチオを練りこみ、きらめく星空を表したクリームパン。自家製カスタードクリームもやさしい甘さです。
おなじみ、チャバタ
「チャバタ」(120円)はこの店で一番、志賀さんのパンの感じるアイテムかもしれません。小麦粉はキタノカオリ。対粉100%もの水分の入ったモッチリとした薄黄色の生地は、知っている人なら「これこれ!この味」と思うでしょう。プレーンのほかバリエーションとして葛飾元気野菜の小松菜とチーズ、チョコオレンジ(各160円)などがあります。ちなみに、ヴィゼ・ポレールのパンはすべて国産小麦で作られています。
バゲット
忘れてはならないのが「バゲット」(270円)。クープは近くを流れる荒川、中川、江戸川をイメージ、地元葛飾区を表現しているそうです。
食パンは湯種製法。小麦粉は「月のまほう」「はるきらり」
これからの季節は施設のルーフトップガーデンの菜園でつくられている水菜、バジルなどもパンやピザに使用される予定です。
左から佐々木理乃さん、佐久間敦さん、玉木健司さん、志賀勝栄さん、長嶋望さん、中島房枝さん(撮影:長谷川美祈)
駅から10分ほどありますが、ゆっくり丁寧に作られたパンとコーヒーを楽しみに、ぜひ一度、訪れてみてください。
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ヴィゼ・ポレール
ヴィゼ・ポレール
住所:葛飾区東堀切1-16-22
電話:070-2621-5966
営業時間:10時~16時30分 火・水定休
Yahoo!地図情報
京成線お花茶屋駅北口徒歩10分
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