シニフィアン シニフィエ、商品ラインナップを一新

昨年10周年を迎えたシニフィアン シニフィエで2017年5月8日、志賀勝栄シェフによる新商品の発表会がありました。

注目したいのは今までの定番商品がガラリと入れ替わり、医食同源を考えるシニフィアン シニフィエならではのスタイルがより極まったところです。
シニフィアン シニフィエの新定番商品

シニフィアン シニフィエの新定番商品


新定番商品は食べる人の健康にプラスの要素が増えることを願う「発酵食品としてのパン」を意識して作られています。「パンはそもそもすべて発酵食品なのでは?」と思う人もあるかもしれませんが、それについては後ほど説明します。

今や多くのパン屋さんで作られている低温長時間発酵のバゲットや、多加水のしっとりもっちりとしたパンを、おいしいもの好きなら一度は耳に、いや、口にしたことがあると思いますが、志賀勝栄シェフはそれらのパンを広く普及させた第一人者と言えるでしょう。
シニフィアン シニフィエの志賀勝栄シェフ

シニフィアン シニフィエの志賀勝栄シェフ


こうしたパンのトレンドは、過酷な労働時間を短縮する助けになったり、生地を扱える職人が限られる(すなわちスーパーなどで安価に大量流通することがない)ということが小規模のパン屋さんにとっての利点となって広まり、次世代のパン屋さんにも影響を与え続けています。

今回の新定番の数々は、そうした流れの一歩先を行くもの。その先頭で志賀さんが極め、同時に究めているのが「120時間発酵バゲット」です。

120時間発酵バゲット

120時間発酵バゲット

120時間発酵バゲット

120時間発酵バゲット(600円)は発売されたばかりの現在「キタノカオリアクセント」という穂発芽の小麦とカナダ産の小麦で作られています。酵母はホップ種、レーズン種、ルヴァンリキッドの3種を用いて5~6度の低温下で120時間もの発酵時間をとっています。

穂発芽の小麦というのは文字通り、収穫前に雨にあたったことが原因で穂に付いたまま発芽してしまった小麦です。小麦の中のでんぷんもたんぱく質もすでに分解が始まっているので、パンにすると形状を保ちにくいというデメリットがあります。一方で、すでにアミノ酸が生成されているので、うまく作れば旨みの強いパンになるのだそうです。また、こうした麦を有効活用することで、貴重なパン用小麦を育てる生産者を助けることにもなります。
120時間バゲットundefined断面

120時間バゲット 断面

120時間発酵バゲットで志賀さんは「発酵の長さのべストはどこだろう?」ということに挑戦しています。ここでいう「べスト」とは、身体が求めるおいしさを追求した場合の最適時間のこと。現時点では120時間。複雑な菌の活動をコントロールする技やセンスがないとパンにならない発酵時間です。それだけ発酵させると、いったいどういうバゲットになるのでしょうか。

このバゲットは旨味も質感も濃厚です。「甘い」と書いて「うまい」とも読みますが、あまくてうまい。志賀さんのコントロール下における超長時間発酵により、小麦粉の中のたんぱく質がアミノ酸に分解されてパンに旨味をもたらすのです。アミノ酸は人の細胞をつくる大切な栄養素です。味わっていくと微かな酸味も感じます。これは酵母を助けながら酵母と共に活動する乳酸菌によるものです。
甘みと旨み、そして酸味

甘みと旨み、そして酸味


小麦粉と水と酵母と塩だけでつくられていているシンプルな食べものなのに、なんという個性。しかしそれはスイスイと身体に入っていきます。たっぷりの水と発酵がとことん行われることで、小麦粉の中のでんぷんやたんぱく質が乳酸菌によって分解され、消化のよい食べ物になるのです。

このバゲットの味わいは食べる度に異なって感じられるかもしれません。発酵の具合が日によって変わるからです。同じパンでありながら味がひとつではなく、その配合や温度や工程も日々変わる可能性があるというのが、このパンにおけるひとつの新常識です。

発酵食品としてのパン

このバゲットの旨みや健康効果、これこそが冒頭で書いた「発酵食品としてのパン」の本領です。
健康によい影響をもたらす発酵食品としてのパン

健康によい影響をもたらす発酵食品としてのパン


パンは発酵という工程をとってつくられるものなので、どんなパンもとりあえずは発酵食品ということになるかもしれません。しかし、志賀さんが考える発酵は、ただ単にパン生地を膨らませるとか風味づけするためだけの発酵ではなく、健康によい影響をもたらすパンにするための工程なのです。そこには酵母菌だけでなく乳酸菌の働きが欠かせないといいます。

発酵食品としてのパンの設計は慎重に行われます。雑菌が繁殖しないようにするのはもちろん、材料や温度、工程を調整し、酵母菌と乳酸菌の働きを抑えて甘味が残るよう、酸味が出すぎないよう発酵をコントロールしていくところが志賀さんならではの職人技です。発酵という視点からパンを眺めると、自然の不思議、その奥の深さに驚くことばかりです。
バゲットジャポネーズ

バゲットジャポネーズ

ちなみに、バゲットの新定番はほかに2種類あります。「40時間発酵バゲット」(500円)と、国産小麦100%の「バゲットジャポネーズ」(360円)です。乳酸菌の量は酵母の種類や発酵時間に比例して少なくなりますが、バゲットジャポネーズでも18時間発酵、ホップ種も併用しているので乳酸菌の量は一般的なバゲットよりずっと多くなります。

バゲットをはじめ、どんな食べ手を想定されますか?との問いに「人の体は食べたものでできているので、何を食べるかということについて意識が高い人、食事療法が必要な人にぼくのパンを届けていきたいと思っています」と志賀さんは言います。

通販でも楽しめるシニフィアン シニフィエの新作

パン オ セレアル

パン オ セレアル

そのほかのパンもご紹介します。

オープン以来10年焼き続けてきた大麦入りの食パン「パンドブラン」をリニューアルしたのが「パン オ セレアル」(1400円)です。しっとりもっちり感はそのままで、ミネラル豊富な黒米、赤米、いなきび、あわ、たかきび、うるちひえなどの雑穀を入れた、まるで雑穀ご飯のような味。一般的な湯種製法のパンの4~5倍の湯種を使用して消化によく仕上がっています。これは和食と無理なく合いそうです。
パーネトスカーノ

パーネトスカーノ

同じくご飯のようだと思ったのが、「パーネトスカーノ」(1000円)。これはトスカーナ地方の無塩のパンをシニフィアン シニフィエ流にホップ種、レーズン種を用いて低温管理し、焼き上げています。この手のパンは味がしなくて麩のようなイメージがあったのですが、これはしっとりもっちりしていて噛んでいるうちに甘味が出てくるところがご飯のよう。素材は小麦粉と酵母と水だけでシンプルの極みですが、古代小麦スペルトの全粒粉が味わいを深くしています。塩分を控えなければならない人におすすめです。
パン モワルー

パン モワルー

綿菓子のような極上のふんわり感を持つのが「パン モワルー」(1000円)。パン オ セレアルのような湯種製法で長時間発酵させています。メープルシロップのほのかな甘みがあります。小さい子供やお年寄りに優しいパン。
パン オ ルヴァン ビオ

パン オ ルヴァン ビオ


「パン オ ルヴァン ビオ」(1200円)は「パンオルヴァン」のリニューアルです。オーガニックのフランス産小麦とドイツ産ライ麦でつくられています。自家製のルヴァン種とレーズン種による発酵で深い香りと旨み。これは今回の斬新なラインナップの中ではオーソドックスで目立たない方だけれども、おそらくさらにまた10年20年とロングセラーになること間違いなしです。
スリーズミルティーユ

スリーズミルティーユ

「スリーズ ミルティーユ」(1800円)ではチェリーとブルーベリーの濃厚な甘酸っぱさを楽しめます。生地にも酸味があるはずなのですが、果実味の後ろに隠れています。白いフレッシュなチーズを合わせたい美しいパンです。
メアコルンブロート

メアコルンブロート

「メアコルンブロート」(1400円)は6種類の穀物(種子や麦)を入れた香ばしいドイツパン。ライ麦が糖の吸収を緩やかにしてくれます。ミネラルや食物繊維も摂れるパンです。
コンプレシャルム

コンプレシャルム

糖の吸収といえば、低糖質のパン「コンプレシャルム」にバリエーションが発売されました。アマンド(アーモンド入り。糖質3.5g)フリュイ(チェリーとクランベリー入り。糖質6.1g)とアマンド&フリュイ(アーモンドとチェリー入り。糖質4.9g)。これでぐっと食べやすくなりました。

「コーングリッツのパン」(400円)は国産のトウモロコシ粉が15%入ったもっちりしたコーンパン。すっきりとしたほどよい甘さのミニ食パンです。

コーングリッツのパン

コーングリッツのパン

私は、おいしいという感覚の基準は、無理なく身体に入り、後味がよく、そのあとで心地よくなるかどうかにあると思っています。個人的感想ですが、今回のシニフィアン シニフィエの新作にはそんなパンがいくつも登場しています。

120時間発酵バゲットなど、量産できないパンは通販限定となっています。まずはオンラインショップを覗いてみるのもおすすめです。

【関連サイト】
シニフィアン シニフィエ公式サイト
シニフィアン シニフィエオンラインショップ
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