大人も子供も楽しめるブロードウェイ・ミュージカル『アニー』。日本でも1986年の日本初演以来、2000年まで篠崎光正さん演出、2016年まではジョエル・ビショッフさんの演出で上演。2017年には演出に山田和也さんを迎え、リニューアルを果たしました。2018年も藤本隆宏さん、辺見えみりさん、青柳塁斗さんらの出演で上演予定ですが、そもそもどんな作品でしょうか? その魅力を多角的にご紹介します!
『アニー』

『アニー』

*目次*

ミュージカル『アニー』とは?

77年にブロードウェイで開幕、トニー賞作品賞をはじめ7部門を受賞したミュージカル(脚本=トーマス・ミーハン、作曲=チャールズ・ストラウス、作詞=マーティン・チャーニン)。24年から新聞に連載された漫画『小さな孤児アニー』を原作とし、大恐慌直後の33年、孤児アニーが逆境にあっても明るく生き、周囲の大人たちを変えながら幸せを掴んでゆく様が描かれます。

劇中歌の「トゥモロー」が大ヒット、ブロードウェイ公演は83年までの6年間、2377回のロングランを記録。以降も人気は衰えず世界各地で繰り返し上演、来月には英国ロンドンでの再演も開幕します。また82年と2014年には、ハリウッド映画版も製作。14年版では設定を現代に移し、ウォーバックスはスタックスという名の携帯電話会社の社長、ハニガンは元歌手という設定でした。

 

ミュージカル『アニー』あらすじ

世界大恐慌直後の1933年。失業者が溢れ、誰もが希望を失っているニューヨークで、11歳のアニーは両親を探すべく、孤児院を抜け出します。大富豪ウォーバックスの秘書グレースの目に留まり、クリスマス休暇に招かれた彼女は、その無邪気さと前向きな行動で、財は成しても虚しさを覚えていたウォーバックスの心を慰めることに。アニーを養女にと願うウォーバックスですが、彼女の夢が両親との再会であることを知り、手を尽くして捜索を始めます。

彼とホワイトハウスを訪れたアニーは「トゥモロー」を歌い、彼女の楽観主義に触発されたルーズベルト大統領は、ニューディール政策を発案。いっぽう、アニーの両親探しに懸賞金がかけられていることを知った孤児院の院長ハニガンと弟のルースター、恋人のリリーは悪だくみを始め、アニーは証拠の品を持参した謎の夫婦にあわや、引き取られることに……。

キャラクター紹介

『アニー』2018製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『アニー』2018製作発表にて。前列がアニー(新井夢乃さん、宮城弥榮さん)、後列左よりリリー(山本紗也加さん)、グレース(白羽ゆりさん)、ウォーバックス(藤本隆宏さん)、ハニガン(辺見えみりさん)、ルースター(青柳塁斗さん)(C)Marino Matsushima


  • アニー 11歳の孤児。11年前に孤児院の前に置き去りにされ、いつか両親が迎えに来てくれると心待ちにしていたものの、しびれを切らして孤児院を脱出、自ら両親を探しに行く。明るく行動力があり、いつか夢がかなうと信じて疑わない、赤毛の女の子。
  • ウォーバックス 貧しい境遇から身を起こし、億万長者になった実業家。出世を第一に生き、その邪魔になる人々は邪険に扱ってきたと自覚しており、そんな人生の虚しさに最近、気づき始めている。
  • ハニガン 孤児院の院長。仕事では子供に囲まれているが、自分自身は未婚で彼氏もいないことが腹立たしく、つい子供たちに八つ当たりしてしまう。詐欺師の弟に乗せられ、悪事に加担することになる。
  • グレース ウォーバックスの有能な女性秘書で、ひそかにウォーバックスを慕っている。彼の気分転換になればと、孤児院に休暇をともに過ごす子供を探しに行き、アニーに出会う。
  • ルースター ハニガンの弟。人に取り入るのがうまく、様々な詐欺を働いてきた。最近、刑務所を出て小遣いが必要になり、ハニガンのもとを訪ねてくる。
  • リリー ルースターのガールフレンド。儲け話が大好きで、大金の噂を聞いただけではしゃいでしまうが、何を考えているかわからない一面も。
  • ルーズベルト大統領(実在の人物)第32代アメリカ大統領(任期1933~45年)。大規模な公共事業で失業者を救済した「ニューディール政策」等で景気を回復させ、後に第二次世界大戦に参戦。大戦終結前の45年4月に病死した。本作ではアニーに触発され、閣僚とともに「ニューディール政策」を発案するという設定になっている。
  • 孤児院の仲間 モリー(6歳)アニーによくなついている。最年少だがハニガンには一番手強い(?)反逆児。ケイト(7歳)ハニガンの恐ろしさを理解し、無謀な計画を立てるアニーを心配する。テシー(10歳)ちょっと弱虫で「もうやだ」が口癖。ペパー(12歳)威勢がよく、けんかっ早いところがある。ジュライ(13歳)おとなしい性格で、いきり立つペパーをたしなめる。ダフィ(13歳)最年長。アニーの出演したラジオ放送を聴いて、自分も出てみたいと夢想する。

おさえておきたい時代背景“世界大恐慌”とは?

ミュージカル『アニー』を観るにあたって、ぜひおさえておきたいのが、1933年、世界大恐慌直後のニューヨークという時代背景です。1929年10月、自動車会社ゼネラルモーターズの株価をきっかけに市場の株価が暴落、2年後にはヨーロッパの銀行も倒産し、世界は恐慌状態に。第一次世界大戦後のバブル景気が一気に弾けたアメリカでは、失業者が続出。家も失い、各地にバラック小屋を建てて身を寄せ合う有様でした。

その“フーバー・ビル(フーバー村)”は本作にも登場、数年前まで華やかな“狂騒の20年代”を楽しんでいた人々が、“あの時の選挙であなたを選んだ、その代償を今払わなきゃ”と皮肉たっぷりに歌う一幕も。社会は出口の見えない絶望感に包まれ、剛腕実業家のウォーバックス、大統領ルーズベルトさえお手上げ状態。そんな中に彗星のように現れ、明日への希望を歌うアニーは、人々にとって閉塞感の突破を象徴するような、衝撃的な存在だったのです。

ミュージカルガイド・松島が分析、『アニー』が時代を超えて愛される5つの理由

  • 明快でハッピーなストーリー
    主人公が“夢”に向かって突き進み、周囲の人々を変えてゆく主筋に、悪者たちの企みの行方が織り込まれ、ハラハラドキドキのストーリーが分かりやすく展開。幼児から祖父母世代まで、年代を問わず楽しめます。
  • “好きにならずにいられない”主人公のキャラクター設定
    子供らしい快活さ、優しさ、機転、そして何より、何があっても希望を失わない彼女の楽観主義は、大恐慌で疲弊した人々の心を癒やし、大統領にさえ影響を与えます。そんなアニーに、子供の観客は自分を重ね合わせ、大人の観客は“人生で大切な何か”を呼び覚まされることでしょう。
  • “かわいい”だけでない、子役と犬の名演技
    毎年、多数の応募者の中から厳しい審査を経て選ばれるアニー、孤児、ダンスキッズ役の子供たちが、大人顔負けにしっかりとカウントをとり、正確な音程でナンバーを歌い踊る様は驚異的。アニーがNYの街で友達になる犬のサンディも要所要所で活躍し、場を和ませてくれます。
  • 音楽通も唸らせる、“伝統と革新”が同居する音楽
    本作が作曲されたのは、『ジーザス・クライスト=スーパースター』等のロックミュージカルが登場し始めた70年代。基本的には「N.Y.C.」に代表されるように、伝統的なミュージカルの手法にのっとって書かれていますが、そんな中で異彩を放つのが、アニーのテーマ曲とも言えるナンバー「トゥモロー」。R&Bやロックの影響が見て取れるその曲調はそのまま“大人世代に対する、若い世代の提案”となっており、“伝統と革新”が同居する本作の音楽は、長く業界人やミュージカル・ファンを唸らせてきました。
  • わかりやすい物語に隠された、痛烈な社会批判と幸福論
    本作ではアニーの冒険を通して“管理社会である孤児院を脱出したと思ったら、自由なはずの外界も絶望の渦巻く世界だった”“どん底の生活を送る人々の世界から大富豪の世界へ移ると、物質的な豊かさはあっても大富豪の内面は寂しく、空虚だった”と、いくつもの世界を比較しながら人間と社会の在り方をチクリ。子どもの観客が無邪気にアニーの物語を楽しむいっぽうで、大人の観客にとっては考えさせられ、噛み応えのある作品となっています。

全てが新鮮! 新演出版の見どころ

2017年、新たに演出に迎えられた山田和也さんは、国内作品はもちろん、『天使にラブ・ソングを』『貴婦人の訪問』等、多数の海外ミュージカルを手掛けてきた演出家。今回は原典の研究からスタートしようと、まずは平田綾子さんが台本を新たに翻訳、スピード感にこだわった新訳台本が出来上がりました。佐橋俊彦さんによる編曲は原譜の楽器構成を尊重、“ビッグ・バンド・ジャズ”の空気感に満ちた管楽器メインの音色に。アールデコなど時代感を活かした二村周作さんの舞台美術は、開放的な空間に吊りものや可動式のパーツ(ビルのセットなど)を組み合わせる形で、流れるような場面転換を可能としています。

朝月真次郎さんの衣裳は、遠目には一見、リアルに見えますが、よく見るとファッションデザイナーでもある彼が得意とするプリントやフリルがあしらわれ、非常に凝ったデザイン。特にアニーがウォーバックス邸で着る衣裳はどれも、女の子の観客が「私も着たい!」と歓声をあげそうな可愛らしさです。また例年、アニーがウォーバックスとブロードウェイで観るショーの出演者として登場していた“タップキッズ”は今年、“ダンスキッズ”という名称にて、未来を象徴する存在として登場。演劇性の高い振付で知られる広崎うらんさんのもと、「N.Y.C」で“未来のスター”が歌う際、それぞれに異なる振付で舞台を彩ることになりました。

これらの要素を一つに束ね、山田さんはアニーの物語を華やかに、スピーディーに展開させつつ、重要なシーンではたっぷりと間をとり、観る者の心をキャッチ(以下の『観劇レポート』で詳述)。翻訳ミュージカルの達人である山田さんの手腕が冴えわたる舞台に仕上がっています。

*次頁に2018年版ウォーバックス役・藤本隆宏さんインタビュー、3頁目に2017年版稽古場&観劇レポートを掲載しています!