「彼岸」と「おはぎ・ぼた餅」
春分・秋分を中日とする前後3日ずつの彼岸。供え物には「おはぎ」・「ぼた餅」が作られてきました。比較的手作りしやすい親しみやすさからくる異名もたくさん。春の彼岸を前に、贈りたくなる、作りたくなる「森のおはぎ」をご紹介します。「おはぎ」と「ぼた餅」何が違う?
彼岸の行事菓子といえば「おはぎ」と「ぼた餅」。どちらも本来同じもので、多くは蒸したり炊いたりした、もち米とうるち米を半搗き(はんつき)にして丸め、餡などを付けたものです。古来、餅は供え物に使われ、小豆は病を除けるなどとされ、行事菓子にも多く使われてきました。一説には春の彼岸には牡丹の花に似ているとして「ぼた餅」。秋の彼岸には萩の花から「おはぎ」と呼ぶとも言われます。
ほかにも半搗きにすることから「半殺し」。言葉遊びで「搗き知らず(米を搗かずに潰すため、隣家に知られない)」から、「夜船」(着き知らず=夜は着いたことが知られない)、または「北窓」(月知らず=月が見えない)など、多くの異名がありますが、最近は「おはぎ」という呼び名が一般的です。
素材の味がする「森のおはぎ」
彼岸はもちろん、一年を通して親しまれてきた「おはぎ」と「ぼた餅」。炊飯器を使うなどすれば比較的手軽に手作りもできる、素朴な和菓子という印象ですが、2010年に大阪の豊中にオープンした「森のおはぎ」では、手土産にもぴったりな可愛らしいおはぎが作られています。素材の持ち味を大切にした美味しさと、可愛らしさからオープン以来、多くの人に愛されてきた「森のおはぎ」。(和菓子イベント「山滴る、甘党市2015」の記事でもご紹介しています。併せてごらんください)
芸術大学を卒業後、テキスタイルのデザインをしていた森百合子さんが、大好きな「おはぎ」を作ることを仕事にしようと開いたお店です。
森さんが作る少し小ぶりな「おはぎ」は、色とりどりでまん丸で、絵本に出てきそうな可愛らしさ。雑穀などを加えたもち米を蒸して、甘さを抑えた餡を合せた「おはぎ」は、「素材の味がするおはぎ」がコンセプト。素材の味を引き出すために、おはぎによって餡を炊き分けているそう。ほんのり塩を効かせたもち米と柔らかな甘さの餡の中から、素材の甘さがふんわり立ち上ります。
たとえば春の彼岸にぴったりな春季限定の「花桜よもぎもち」。ピンク色と緑色のコントラストが目に鮮やかです。葉を刻んで使うよりも手間はかかりますが、桜色で春を感じてほしいと、塩漬けの桜の、花びらだけを1つ1つ摘んで作るので「花桜」と名付けられました。蓬と桜の香りに春の訪れを感じます。
「深煎きなこ雑穀もち」は、ぷちぷちとした食感が楽しい雑穀入りの餅に、深炒りのほろ苦いきな粉と、その風味に負けないよう、同店のほかのおはぎよりも少しだけ甘い餡を合わせたものです。
森さんも特にお気に入りと聞いた「くるみ黒米もち」は、香ばしく焼いたくるみをたっぷり餡に練り込んでいます。細かく砕いたくるみがコクを生み、粗く刻んだくるみは、カリっとした楽しい食感を添えています。
「森のおはぎ」は、おはぎ自体の魅力に加え、おはぎを取り巻く作家作品も魅力です。たとえば手提げ袋は陶芸作家の鹿児島睦氏のデザイン。看板は森さんの弟である金属工芸作家の戸田泰輔氏作。ディスプレイ用のガラス器はガラス作家のかなちゃんの手によるものです。
これまでにもおはぎ作りのワークショップを開催するなど、「食べる」だけではなくおはぎを「作る」楽しさも伝えてきた森さん。著書『森のおはぎとあんこのおやつ』(森百合子著・家の光協会)では人気のおはぎの、家庭でもできる作り方が紹介されています。
季節の移ろいを楽しむことができるのも和菓子の大きな魅力。春の彼岸におはぎを用意し、暖かな季節の訪れを感じられてはいかがでしょう。
<参考>
『事典 和菓子の世界』中山圭子著 岩波書店
<店舗情報>
■ 「森のおはぎ」
所在地:大阪府豊中市中桜塚-2-25-10
阪急宝塚線岡町駅から徒歩約7分
電話:06-6845-1250(取り寄せ不可)
営業時間:10:00~13:00・14:00~売切まで
定休日:日・月曜日(祝日は不定休)
地図:森のおはぎ
「森のおはぎ」姉妹店
■「森乃お菓子」
所在地:大阪府曽根崎新地1-1-43第2大川ビル1F
御堂筋から新地本通りを10mほど西へ
電話:06-6341-2320(取り寄せ不可)
営業時間:16:30~売切まで
定休日:日曜・祝日