「競争社会」の中で他人を過剰に警戒していませんか?
アドラーに学ぶ!「競争社会」の真の強者とは?
たとえば、志望校に合格するため、希望の仕事に就くためには、周囲との“競争”に勝ってポストを手にしなければなりません。学業や仕事で納得のいく結果をおさめるには、数々の“競争”のプロセスをくぐり抜けなければなりません。こうした競争にさらされる中で、他人への警戒心や過剰な緊張感を抱えて生きている人は少なくないものです。その結果、ストレスが蓄積し、疲弊してしまう人も後を絶ちません。
「競争社会」を生き抜くには、誰もが皆、このような切迫感を抱えて生きていかなければならないのでしょうか? その疑問にヒントを与えてくれるのが、「アドラー心理学」です。
「アドラー心理学」とは、アルフレッド・アドラーが提唱した心理学理論です。子どもの教育や育児に役に立つ理論として一部の層に知られる学問でしたが、ここ最近では、ベストセラー『嫌われる勇気』の影響によって、ビジネス層を中心に人気を博すようになりました。
アドラー心理学には、たくさんの「生きる知恵」が詰まっています。たとえば、ほめることの害を説き「勇気づけ」の理論をすすめているのも、アドラー心理学の特徴です。では、アドラーの理論のなかで、学生や企業人のように「競争社会」を生き抜く人々に欠かすことのできない視点とは何でしょう? ――それこそが「横の関係」なのです。
「縦の関係」の視点から生じる問題とは?
「横の関係」を知る前に、「縦の関係」について考えてみましょう。「上の立場にいるからエラい」「下の立場にいるから劣っている」というように、人間の価値に上下があると思い込むのが、「縦の関係」の論理です。「縦の関係」にこだわる人は、自分の存在価値が貶められて自尊心が傷つくことを恐れるため、常に頑張り続けていなければなりません。「他人に馬鹿にされないように」と勉強を頑張る。「他人より優越感を感じたいから」と進路や職業を選ぶ。内発的な興味関心や探求心に従って勉強するわけでも、進路や職業を決めるわけでもない――。こうした「縦の関係」の論理の中で活動や方向性を選んでしまうことにより、心の問題や対人関係の問題が生じていくのです。
反対に、「横の関係」の論理で生きる人は、どのように考えているのでしょう?
「横の関係」の視点を持つ人の考え方とは?
上司も部下も取引先の人も、人間はみな“対等”――それが「横の関係」の考え方
この論理にしたがえば、「縦の関係」の論理で生きる人々が抱える心配や苦悩とは、無縁でいられます。「自尊心を傷つけられないだろうか」「他人に出しぬかれないだろうか」と心配し、デッドヒートを繰り広げる必要はないのです。
「横の関係」の論理では、上司と部下、教師と生徒といった上下関係など、「役割の違い」にすぎません。上司という役割によって部下に命令し、教師という役割によって生徒を指導する。そして、部下や生徒は命令を受け、指導を仰ぐ――このように各々が役割を分担していても、「人間としてはみな対等」。こうしたスタンスに立つのが、「横の関係」の論理で生きる人々なのです。
この「横の関係」の意識を持っていれば、“上”の役割に立つ人が“下”の役割の人に対して、常に一方的に指示したり評価したりすることもなければ、その反対もありません。“上”の役割の人が常に話して、“下”の役割の人は常に聞き役、“上”の役割の人がすべての方向性を決め、“下”の役割の人は口答えせずに従う、といった一方向的な関係性が生じることはないのです。
「横の関係」の論理で生きる人は、一人ひとりの考え方や意見を、たとえ未熟なものであっても大切にします。そして、それらの意見を表現することも大切にします。そうすることで、“下”の役割の人が“上”の役割の人の意思決定に依存するような「指示待ち人間」にならなくてすむのです。
「競争は競争」と割り切れる力の背景とは?
多様な文化や価値観を持つ人が混在する社会の中では、「横の関係」を築ける人こそが必要とされています。なぜなら、「横の関係」を築ける人は、「対等」の哲学を前提にしているため、他者との関係に優劣を意識することもなく、心から信頼関係を結ぶことができるからです。そして、どんな人とでも協力して物ごとを進めていくことができるからです。「横の関係」を生きる人々は、他人と健康的に競争をすることもできます。たとえば、学問やスポーツにおける「競争」、受験を通じての「競争」、社会人生活における「競争」に自尊心を死守するために挑むのではなく、「競争は競争」と考えて単純に競い合いを楽しむことができます。たとえ競争に敗れたとしても、自己を否定することもなく、精一杯闘えたことに満足し、次の競争への目標を定めることができるのです。
「競争社会」の中で闘うことに疲れを感じている人は、一度アドラー心理学の「横の関係」の論理に触れてみてください。きっと、新鮮なヒントが見つかることと思います。