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「60歳で定年退職」は1998年から
FPとしてライフプランを作成する時、60歳を定年退職とするケースが多いのですが、30年ほど前は55歳定年だったような気がします。いつ60歳定年になったのでしょうか。
1986年「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(=以後「高年齢者雇用安定法」とする)の改正で60歳定年が努力義務に、1994年の改正で60歳未満定年制が禁止(1998年施行)されました。これが60歳定年の始まりです。
その後も「高年齢者雇用安定法」が改正され、2012年の改正「原則希望者全員の65歳までの雇用を義務化」により、働きたい人は65歳まで働くことができるようになりました。そして2020年3月「高年齢者雇用安定法」がさらに改正され、70歳まで働く機会の確保を努力義務とする法案が成立し、70歳まで働き続けることができる環境が整いました。
これに対して企業は素早く対応し、サントリーホールディングス(株)が、2020年4月1日「65歳以降再雇用制度」を導入して9月1日から再雇用契約を開始しました。家電量販店のノジマは同年7月定年後の再雇用契約を65歳から80歳まで延長できる制度を導入、サイオスグループは2020年10月1日、定年制を廃止しました。
●「高年齢者雇用安定法」の改正の推移
1986年 「高年齢者雇用安定法」で60歳定年を努力義務化
1990年 定年後再雇用を努力義務化
1994年 60歳未満定年制を禁止(1998年施行)
2000年 65歳までの雇用確保措置を努力義務化
2004年 65歳までの雇用確保措置の段階的義務化(2006年施行)
2012年 希望者全員の65歳までの雇用を義務化(2013年施行)
2020年 70歳まで働く機会の確保を努力義務(2021年施行)
改正「高年齢者雇用安定法」が施行される2021年度にはYKKグループが定年制を廃止し、同年4月にコマツは選択定年制――一般職は60歳か65歳、管理職は60歳か62歳――を導入します。定年制は大きく変化しています。
65歳以上定年を導入する企業が増えている
ここからは厚生労働省「令和2年高年齢者の雇用状況集計結果」(2021年1月8日公表)をもとに、現在の定年制と定年年齢を見てみましょう。
定年制の廃止を含め65歳以上を定年年齢と定める企業は、令和元年より3065社増加しました。特に65歳定年を導入する企業の増加が目立ちます。
*従業員31人以上の企業16万4151社の集計結果。(内訳31~50人規模:5万6759社、51~300人規模:9万322社、301人以上規模:1万7070社)
●65歳を定年とする企業数
全企業の18.4%、前年より2537社増の30250社、前年より1.2ポイント増加した。
- 31~50人:1万2291社(1万1401社)
- 51~300人:1万5927社(1万4537社)
- 301人以上:2032社(1775社)
●66~69歳を定年とする企業数
全企業の1.0%、前年より123社増の1565社、前年より0.1ポイント増加した。
- 31~50人:773社(711社)
- 51~300人:759社(699社)
- 301人以上:33社(32社)
全企業の1.5%、前年より234社増の2398社、前年より0.2ポイント増加した。
- 31~50人:1224社(1103社)
- 51~300人:1099社(1000社)
- 301人以上:75社(61社)
全企業の2.7%、前年より171社増の4468社、前年と変わらずでした。
- 31~50人:2367社(2328社)
- 51~300人:1842社(1704社)
- 301人以上:88社(81社)
平均退職年齢は依然として60歳
定年年齢を65歳以上とする企業や定年制廃止の企業が増加しているといっても、全企業の24%に過ぎず、301人以上の企業の87%は60歳定年です。現時点での定年年齢の平均は依然として60歳です。しかし、大手企業が65歳定年を導入し始めましたので65歳定年になるのはそう遠くないのかもしれません。2022年国家公務歳定年制が導入される?
2020年3月、国家公務員の定年年齢の引き上げを盛り込んだ「国家公務員法等の一部を改正する法律案」は閣議決定されましたが、国会への提出は見送られ廃案になりました。定年制という概念そのものがなくなるかも
2020年、役員を除く65歳以上の雇用者は前年より7万人増加の510万人(うち非正規の職員・従業員が390万人)、雇用者総数の9.1%を占めています(「労働力調査(基本集計)2020年平均(速報)結果の要約」(総務省)より)。政府は、働く意欲のある高齢者が70歳まで就労できる機会を確保するためにさらなる法整備を考えているようですが、新型コロナウイルス感染対策の影響により経済活動や雇用環境が激変しています。ITを活用した働き方が主流になると、人手不足や過去の経験を必要とする場が減る可能性もあります。新型コロナウイルスの状況次第では人の流動化が激しくなり、そう遠くない将来には定年年齢の撤廃=定年制という概念そのものがなくなる時代になるかもしれませんね。
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