【3月開幕の注目作品】
『トーテム』上演中←観劇レポートUP!
『ジキル&ハイド』3月5日開幕←観劇レポートUP!
『ショーガール』3月11日開幕←観劇レポートUP!
『GEM CLUB』3月19日開幕←観劇レポートUP!
『お・ど・ろ』『手のひらを太陽に』3月24日開幕←観劇レポートUP!
【最新・話題のDVD】
『Heart Beat Singing』2月24日発売←伊東えりさんインタビューUP!
【4月開幕の注目作品】
『1789』4月9日開幕←製作発表レポート&観劇レポートUP!
『詭弁・走れメロス』4月29日開幕←観劇レポートUP!
【AllAboutミュージカルで特集した(特集予定の)作品】
『ウェストサイド物語』出演・岡村美南さんを「気になる新星」にてインタビュー、上川一哉さんも「気になる新星」にてインタビュー!
『グランドホテル』出演・伊礼彼方さんを「気になる新星」にてインタビュー!
『エドウィン・ドルードの謎』出演・保坂知寿さんを「Star Talk」にてインタビュー!
『アニー』出演・木村花代さんを「Star Talk」にてインタビュー!
『スウィーニー・トッド』出演・田代万里生さんを「気になる新星」にてインタビュー!
『ライオンキング』『ジャージー・ボーイズ』出演・海宝直人さんを「気になる新星」にてインタビュー!
『1789』『エリザベート』出演・古川雄大さんを「気になる新星」にてインタビュー予定!
【PICK OF THE MONTH APRIL 4月の注目ミュージカル】
『1789』
4月9日~5月15日=帝国劇場【観劇レポート】
ダイナミックなビジュアルの中で躍動する
“平等で自由な世界”の希求ドラマ
『1789』写真提供:東宝演劇部
コンサートホール級の大会場を用いて、一度聴いたら耳から離れないキャッチーな楽曲を若手スターたちが歌い、観客は総立ちで熱狂するというフランスのロック・ミュージカル、通称・スペクタクル。その代表作の一つで、すでに70万人を動員している『1789』が昨年の宝塚版を経て、男女キャストによる日本初演を迎えました。
『1789』写真提供:東宝演劇部
『ロミオ&ジュリエット』でフレンチ・ミュージカルは体験済みの演出家・小池修一郎さんは日本屈指のスタッフ、キャストの力を総動員。スペクタクルの“ライブ感”を保ちつつも特に後半のドラマを掘り下げ、“帝国劇場”という場にふさわしい、演劇的な見ごたえのある舞台を追求しています。
『1789』写真提供:東宝演劇部
舞台でまず目を奪うのが、背景の巨大な金網。垂直に立つそれは場面に応じて角度を変えて前傾し、印刷所の“地下活動感”を表現したり、宮廷と下層民たちの世界を分断するなど、物語の背景をわかりやすく視覚化します(舞台美術・松井るみさん)。衣裳(生澤美子さん)も国庫を圧迫するほど贅をつくした王族たちと庶民たちのコントラストを強調したものとなっており、ロナンについてはジーンズと合皮をツギハギし、それによって過酷な状況も工夫して生き抜いてきた彼のたくましさを表現するなど、各役柄が反映されたものとなっています。こうした雄弁なビジュアルの中で、1幕は各役の関係性を丁寧に描きながらも多彩なナンバーを躍動感溢れる振付(桜木涼介さん、KAORIaliveさん、Twiggzさん)で彩り(ボーカリスト、ダンサー、役者と分業化されているフランス版に比べ、ここではメインキャストも激しく踊るのが特色)、客席を圧倒。2幕では目まぐるしく動く状況の中で、それぞれのキャラクターが信念に基づいて決断し、行動してゆくさまがじっくり描かれてゆきます。
『1789』写真提供:東宝演劇部
この舞台で輝いているのが、花も実もあるメインキャストたち。農民として地方に生まれ、理不尽に父を貴族に殺されたことで敵討ちのためパリへと上京する若者ロナン役の加藤和樹さん(wキャスト=小池徹平さん)は頼もしく、骨太な存在感で、人物像に説得力をプラス。その彼が皮肉にも、敵視する貴族社会の側の女性と恋に落ちてしまう葛藤表現も鮮やかです。終盤、「明日のフランスを救うために」と死をも恐れず立ち上がる姿も清々しく、彼の代表作となる予感が大。そのロナンが愛するマリー・アントワネットの侍女、オランプ役の夢咲ねねさん(wキャスト=神田沙也加さん)は、自らの意思を持ち、権力を振りかざす王の弟を拒絶し続けるキャラクターを、まっすぐで邪心のない演技で好演。マリー・アントワネット役の凰稀かなめさん(wキャスト=花總まりさん)は本作が宝塚退団後第一作。颯爽とした男役姿が記憶に新しい中で、絢爛たる衣裳をまとった姿は意外にも(?)儚げな印象。恋愛にうつつを抜かしていた時代から不幸の連鎖を経て王妃の務めを自覚し、成長してゆく過程を、同じメロディをフレンチ・ポップスからミュージカル・スタイルへ、徐々にスタイルを変えてゆく歌唱と台詞で的確に描き出します。
『1789』写真提供:東宝演劇部
ロナンを“革命”へと導く同志デムーラン、ロベスピエール、ダントン役の渡辺大輔さん、古川雄大さん、上原理生さんも清潔感に溢れ、彼らがアンサンブルとともに激しく歌い踊る革命ナンバーは大きな見どころ。ロナンの妹で後にダントンと恋仲になるソレーヌ役、ソニンさんも、身分と性という二重の差別の中で反骨精神を募らせてゆく当時の女性市民を力強く象徴しています。
『1789』写真提供:東宝演劇部
彼ら若手キャストに負けず劣らぬ存在感を示すのが、王族側のいわば“悪役”たち。開幕直後から民衆を震え上がらせるナンバーをダイナミックに聴かせる貴族将校ペイロール伯爵役・岡幸二郎さん、王座に着くためにむしろ革命を扇動するという危ない賭けを楽しむ王の弟アルトワ伯を憎々しくも優雅に演じる吉野圭吾さん、秘密警察でアルトワの手先…ながらオランプに叶わぬ恋をしているラマールを、弾けた演技で魅せる坂元健児さんが“若手組”に負けず劣らぬ肉厚オーラで対抗、ドラマを各段に面白く見せてくれます。
『1789』写真提供:東宝演劇部
名もない庶民、そして対立する王族たちそれぞれの苦悩を描きだした後、物語はフランス革命という“史実”へと繋がってゆくことを示唆して終わりますが、ラストナンバーではその後の史実で起こった暴力の連鎖ではなく、革命が本来目指すはずだった人間社会の理想が切々と、全員によって歌われます。奇しくもこの舞台の準備中にパリではテロが起こり、理想と現実の厳然たるギャップを突きつけられている今、現代人は何をすべきなのか。シンプルながら力強いこのナンバーの歌詞と演出には、小池さんをはじめとする作り手たちの、強い願いが込められているように感じられます。
【製作発表記者会見レポート】
『1789』製作発表記者会見にて。(C)Marino Matsushima
まずは主要キャストが一人ずつ、報道陣と一般公募のオーディエンスが囲むランウェイに現れた今回の会見。それぞれの役柄が一目でわかる扮装の中でも、マリー・アントワネット(花總まりさん、凰稀かなめさん)のボリューミーなドレスは度肝を抜き、歓声が起こります。最後に登場した演出の小池さんは本作の新曲打ち合わせのため昨年10月に訪仏したそうですが、その2週間後にパリで起こったのが周知の連続テロでした。
『1789』製作発表記者会見にて。(C)Marino Matsushima
「もちろん音楽もダンスもかっこよく、あらゆる世代にアピールする作品だと思いますが、1789年のバスティーユ襲撃がフランスの今にどうつながっているのかを検証することで、さらに私たちが一歩先、未来へ向かってゆくポイントになるのでは。あのテロが無ければ、この作品と“今日”をそこまで結び付けることはなかったと思います。深みとは言いませんが、厚みのある作品になるのではないでしょうか。(困難を)どう乗り越えて次の世界を迎えられるかというのが、最後のナンバーに集約されてくると思います」という言葉に、作品への強い思いが滲みます。
『1789』製作発表記者会見にて。(C)Marino Matsushima
主人公ロナンを演じる小池徹平さんはwキャストでの舞台は初めてとのことで、「役に客観的に取り組めるのでは。(もう一人のロナン役)加藤さんにも恥ずかしがらず聞いたりしながら、たくさん吸収し、素敵なロナンを作りたい」、その加藤和樹さんは「お互いタイプが全く違うので、ぜひ(観客には2バージョンを)楽しんで欲しい。小池先生についていけば間違いないと思っています」と心強い言葉。
『1789』製作発表記者会見にて。(C)Marino Matsushima
楽曲の魅力を語るキャストも多く「音楽が本当に素敵、どこかおしゃれで洗練されている印象」(ロナンが愛する侍女オランプ役・神田沙也加さん)、「宝塚入団時から『ロミオ&ジュリエット』を好きでよく聞いていたので、同じフレンチ・ミュージカルに出られることが嬉しい」(同役・夢咲ねねさん)「幕開きにポップスのナンバーがありますが、ミュージカルとポップスの歌唱は違うと思いますので、その雰囲気を出せるように」(マリー・アントワネット役・花總さん)「ノリがいい(音楽な)ので、その分、内面が軽くなりすぎないよう努めていきたい」(同役・凰稀かなめさん)と、開幕数か月前にしてかなり聴きこんでいらっしゃることが伝わってきます。
『1789』製作発表記者会見にて。(C)Marino Matsushima
最後にロナン役二人とロベスピエール役・古川雄大さん、ダントン役・上原理生さん、デムーラン役・渡辺大輔さんというこの日限りの特別編成で楽曲「サ・イラ・モナムール」を披露。自由を手に入れようという民衆のナンバーが美男子たちによって熱く歌われ、会場は一挙にヒートアップ。帝劇ではこの歌がどう歌われるのか、開幕への期待がぐっと高まる会見となりました。
*次頁で『ジキル&ハイド』以降の作品をご紹介します!