今回のキャストはどのような視点で選びましたか?
川口>ストーリー的には当然男性だけの方が整理しやすいけれど、異質な要素も含めたいという想いがあり、男女関係なくシャッフルして選びました。ロスで上演したときにジョナサンの教え子のひとりに出演してもらったのですが、とても良かったので彼にまた声をかけました。あとは日本で選んだ男性パフォーマーと、日本に住んでいるフィリピン人の男性。彼はパフォーマーであり、タレントとして来日してショーパブで踊っていた経験もある。女性ふたりの内ひとりは以前僕の作品に出てもらったことがあり、もうひとりは彼女のパフォーマンスを見て感銘を受けぜひ出てもらいたいと思っていたひと。彼女たちは今回のテーマのなかで、大きな貢献をしてくれるだろうという思惑があって……。この作品における重要な要素としてあるのが、性別が液状化する、ジェンダーが揺らぐ、というコンセプト。現在のセクシャル・マイノリティの状況を考える上で、この揺らぎ、あるいは性的なアイデンティティがフレキシブルな視点を持つことが非常に有効であり、また面白い見方になるのではないかという気がしています。クラシック・バレエをやっているとか、コンテンポラリーで素晴らしい成果を上げているというようなダンスのテクニックにはあまり着目していません。みんなバックグラウンドは全然違うけど、パフォーマーとしてとても面白いひとたちばかりです。
彼らの身体性は舞台上にどのようにあらわれてくるのでしょう?
川口>いわゆるダンスという観点から何かを構築しようとは考えていません。ステップがあって、音楽に乗せて、テクニックを使いながら場面を構成していく……、といった作業はあまりやっていません。即興をばんばんやってもらっていますが、みんな素晴らしいですよ。テクニックをきちんと持っているひとたちだけど、それを見せるのではなく、テーマを共有した上で何をやるか各々が出してくれています。ジョナサン>作品にひとつの統一感を求めている訳ではなくて、そこには隔たりもあって、その隔たりにより生まれてくる意味が非常に重要になっていくと思います。これまで三回公演を行ってきましたが、作品ごとにいろいろ話さなければならないし、研究もしなければいけない。さまざまなテーマが出てきて、それらをどう身体表現であらわすかといった課題を川口さんが提示し、パフォーマーがそのひとなりの発想で何かを表現する、ギブ&テイクで進んでいます。
飯名>川口さんが振付家としてみんなを制御しているかというと、制御できていないかもしれない。そこに面白さもある。演者側も、一般的な振付とは違うところで受け止めている気がします。毎日セッションしながら、“それはいいかも”“それはちょっと違うよね”とみんなでぶつけていく感じ。何が正解かもわからない。“これは合っているのだろうか”“このまま進んで行って何かになるんだろうか”という瞬間もある。毎日毎日、探り合いながら進んでいます。映像やサウンドも、まずはそれぞれのセンスで参加してみて、 それらを混ぜたらどうなるんだろう、という感じです。どうなっていくのかはよくわからないけど、一番大きな外枠のイメージはあって、そこは当初からブレてないです。