コードネームは「台茶18号」
「紅玉」と聞くと、なんとなくりんごを思い浮かべてしまいますが、この名前はお茶の品種名です。人為的に交配・改良された品種の一つで、残念ながらりんごの紅玉とはまったく関係ありません。改良に成功した時につけられた名前は「台茶18号」といいます。コードネームのようなものですね。中国茶好きの間ではこちら名前で呼ばれることもあります。中国や台湾の紅茶はまろやかでやさしい印象です。
品種改良を行ったのは、台湾の「行政院農業院会茶業改良場」という研究組織です。この組織は長年、台湾茶の改良を行っていて、ここで生まれたお茶には「台茶」という冠と番号が付けられています。第1号は1969年に改良に成功したもので、名前はもちろん「台茶1号」です。そこから順番に番号が付けられているので、今回の「紅玉」は18番目のお茶ということになりますね。
改良された中で最も有名な品種は「台茶12号」通称「金萱(きんせん)」でしょうか。ミルクやバニラのような香りが感じられると言われ、台湾高山茶として特に人気のある品種です(こちらの記事でも少しだけ触れています)。
この他にもいくつかよく目にするお茶がありますので、以下にご紹介しますね。
台茶12号:金萱:高山烏龍茶として人気の品種です。
台茶13号:翠玉:高山烏龍茶としてよく見かけます。
台茶17号:白鷺:東方美人茶で飲みました。
台茶18号:紅玉:今回ご紹介している紅茶です。
台茶21号:紅韻:2015年時点で一番新しい品種で、紅茶として飲みました。
品種によって向いているお茶があるというのも面白いところです。ちょっと難しい領域ではありますが、これも中国茶の面白みの一つだと思うので、興味のある方は行政院農業院会茶業改良場(中国語)のサイトも参考にしてみて下さいね。
産地は風光明美な場所として有名な「日月潭」
紅玉は、行政院農業院会茶業改良場が持っている試験場の中の一つ「魚池分場」という施設で生まれました。この施設がある「南投縣魚池郷」という場所は、紅茶産地として有名な場所で、その栽培の歴史には日本人が大きく関わっていることでも知られています。また、近くに「日月潭(にちげつたん)」という台湾最大の湖があり、台湾屈指の高級リゾート地としても有名です。湖畔には蒋介石の別荘だったことで有名なホテル「ラルー」もあります。「紅玉」は品種の名前で、「日月潭」は湖の名前です。
こうした産地の背景から、紅玉紅茶は「日月潭紅茶」という名前で販売されることが多くあります。でも、ここで少しだけ注意して頂きたい事は「日月潭」は地名で、「紅玉」は品種の名前だということです。上記の通り、日月潭周辺は紅茶の産地なので、紅玉以外の品種の紅茶も作られています。台茶8号や台茶7号という品種もここで生まれていて、紅茶が作られています(参考サイト(中国語))。ですから、もし紅玉紅茶を探しに行って「日月潭紅茶」としか書いていないお茶を見つけたら、買う前に品種を聞いてみると間違いがないので確認してみてくださいね。
紅茶なのに薄荷(ハッカ)の香り?
このように人の手で改良されて生まれた「紅玉紅茶」ですが、今回、沢山ある中国・台湾紅茶の中からこのお茶を選んだ一番の理由は、このお茶が他のお茶にはない独特の風味を持っているからです。このお茶、実は薄荷の香りが感じられる、とてもユニークなお茶なんです。薄荷の香りと言ってもミントティーのように香るわけではなく、飲んでいると「あれ?」と思うような奥ゆかしい香りです。でも飲んだ後に爽やかに香るんです。とても不思議なお茶です。鮮やかな紅色がとても綺麗なお茶。華やかな器で淹れるのも楽しみです。
せっかくのめずらしい香りですから、香りを際立たせる為の淹れ方のコツをお伝えしますね。まず、器は素焼きの茶壺よりも磁器の蓋碗(がいわん)で淹れることをお勧めします。素焼きの器は香りを吸着する傾向がありますが、磁器は香りをストレートに返してくれるので、そのお茶の香りを感じたい時にはお勧めの器です。
また、高温のお湯で淹れるのもコツの一つです。高い温度のお湯でお茶を淹れると、香りが立ち上がってきやすいのです。覚えておかれると良いと思います。お湯の色は透き通る鮮やかな紅色になっていればOKです。良い茶葉なら、紅茶らしい深みとふくよかな甘味の後に微かな薄荷の香りを感じることができると思います。ぜひ試してみてくださいね。
やさしい味わいの紅茶にはまるごとリンゴのパイがお勧めです!
大きく切られた沢山のリンゴが贅沢。見ているだけでも楽しくなります。
最後に、紅玉紅茶にお勧めのアップルパイをご紹介したいと思います。
ヨックモックが東京日本橋三越限定で出している「キャラメルアップルパイ」です。リンゴのジューシーな様子が写真からもわかる一品です。中国や台湾の紅茶はまろやかでやさしい味わいのものが多いので、甘味や酸味の強いものやシナモン等のスパイスが効いたものよりもナチュラルなものが良いようです。
実は今回、お茶の名前が「紅玉」なので、紅玉リンゴで作られた爽やかな酸味が絶品のタルトタタンも試してみたのですが、バランスがとれませんでした。美味しいお菓子と美味しいお茶なのに必ずしも合うとは限らないのもペアリングの面白いところですよね。
このヨックモックのパイは一台に5つのリンゴが使われているそうです。大きなリンゴにふくよかな紅茶と微かな薄荷のマリアージュ、贅沢ですね。秋のひと時にお勧めです。