「山信食産」の「江戸久寿餅(えどくずもち)」
東京、神奈川、千葉の寺社門前名物、「くず餅」。しっとりとした弾力と、ふくよかな風味は、乳酸発酵の賜物です。今、くず餅に改めて注目が集まり、魅了される人がじわじわ増加。その動きを起こすのは、伝統の味を陰で支えてきた「山信食産(やましんしょくさん)」3代目、小山信太郎さん。さながら、くず餅の伝道師です。発酵食品「くず餅」
「山信食産」の「江戸久寿餅(板状)」310円~(税込)※工場直売価格(写真提供:山信食産)
「山信食産」目印は、ピンク色の壁。(写真提供:山信食産)
毎週火曜日、12時から工場直売(写真提供:山信食産)
「くず餅」の起源は精進料理?
東京・亀戸天神や池上本門寺、川崎大師など、寺社門前の名物として知られる「くず餅」。由来は諸説ありますが、小山さんが有力と考えるのは、精進料理に関わるもの。水で練った小麦粉を水中でもむと、グルテンとでん粉に分かれます。小山さんが不定期で発行する『くずもち新聞』第15号(平成27年5月3日付)によれば、グルテンは、肉食を避けた僧侶たちのタンパク源として「麩(ふ)」に、でん粉は、発酵させて「障子のり」にしたのだそう。ある年、江戸の町が大火で焼かれ、障子のりも焼かれて餅になったというのです。
飢饉の町にふるまわれたその餅は、「久しい寿」を願い「久寿餅」と名付けられたとされ、同店でも「久寿」の字を使っています。
「クズクズシェイク」とハートの「江戸久寿餅」
火曜日の工場直売に並ぶ「江戸久寿餅」は、伝統的な板状と、お客さんの声を映したハート型。まずは、きな粉と自家製の黒蜜をかけて、伝統の三位一体を堪能。しっとりとしなやかで、もっちりプルリ。コクのある黒蜜と香ばしいきな粉が、味わいを高めます。食感はくず餅の最大の魅力。職人さんが仕上げた絶妙の食感を損なわないよう、冷やし過ぎにはご注意を。これをそのままドリンクにした「クズクズシェイク」は、ぜひ試して欲しい逸品。ふくゆたか大豆100%の豆乳をベースに、黒蜜・きなこ・粒々に刻んだくず餅を入れたもので、くず餅メニューの傑作だと感動。甘くまろやかな豆乳と、コクのある黒蜜を追いかけるように、口の中にプルリとくず餅が飛び込んできます。
続いて、ここでしか味わえない特別な味を。たとえば、カラフルな「江戸久寿餅」の詰め合わせ「花火」には、自然な甘さの「甘酒豆乳ソース」を添えて、「アーモンド」をパラリ。
アールグレイが香る「紅茶」味には、本和香糖やココナッツミルク入りの「バニラ豆乳ソース」と「アーモンド」。ほろ苦く爽やかな宇治の「抹茶」味には、北海道産小豆のまったりとした「粒餡」など、多彩な味が広がります。
素材の色と香りをそのまま生かした、優しい風味の「江戸久寿餅」は、パティシエと共同開発した、香り高いソースと好相性。くず餅と関係の深い「精進料理」の考え方や、「発酵食品」を取り入れるなど、身体に優しく、由来も楽しいのです。小山さんの目下の目標は、「江戸久寿餅」が主役の、同コンセプトのカフェを船堀に開くこと。期待が高まります。
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