歌舞伎/歌舞伎関連情報

スーパー歌舞伎「ワンピース」観劇レポート(2ページ目)

世界中で3億2000万部以上売れたという漫画「ワンピース」が、歌舞伎化されました。一見、対極にあるような「ワンピース」と「歌舞伎」。一体どんな舞台となったのでしょうか。歌舞伎界は新たな客層を呼び込むことができるのでしょうか。

宗像 陽子

執筆者:宗像 陽子

歌舞伎ガイド

二役同時に演じるスーパー早変わり

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緞帳もワンピースファンにはたまりません

言葉は現代語だからわかりやすい。仕掛けは大掛かりです。滝のように水は流れ、火炎放射器のように火が燃えさかります。海賊は空を飛び、刺客は宙に舞い、客席に紙吹雪が降りしきります。

何よりガイドが驚いたのは、猿之助の早変わりです。歌舞伎で早変わりは見ますが、それにしても早い。

猿之助は、ルフィー・ハンコック・シャンクスの3役を演じ分けます。そのうち、ルフィーとハンコックは、同じ舞台上で会話をしていますから! その早業ぶりは……とにかく劇場でご覧下さい!


見えないところに歌舞伎を見る

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ルフィーのフィギュアも見得が決まっている!

ガイドは、この「ワンピース」のなかのツケ・見得・早変わりといった見えやすい「歌舞伎らしさ」のほか、もっと深いところに歌舞伎を感じました。それは、歌舞伎俳優たちの演技の中にありました。立ち回りのときの腰が非常にしっかりしており、演技の基礎ができていることを実感させられます。なおかつ、リズミカルで軽やか。

また、俳優たちは、漫画のキャラの役作りを、先人の教え、つまり歌舞伎の中からヒントを見出そうとしています。

つるというおばあさんを演じる市川門之助は、つるを演じるにあたり「近江源氏先陣館」の微妙からヒントを得たということです。

「昔はかなりの美女、今もキリッと芯の通った佇まいをしている。しかし、劇中でほぼ何もしないので、出てきただけで皆を収めるような貫禄を見せなければいけない」というつるを武家のしっかりしたおばあさんの型で、演じてみせたのです。

白ひげの市川右近もまた、圧巻でした。その圧倒的な存在感は、勧進帳の弁慶のよう(実際、「最後は弁慶の立ち往生のような感じで」とレクチャーされたそう)。


若い俳優陣に、実力と可能性を見た

市川門之助や市川右近は、漫画「ワンピース」を知らなかった人たち。一方で、小さい頃からワンピースに親しんできた若い俳優たちも、自分ならこうしよう、ああもしようと積極的に役柄に挑戦していました。

特に中村隼人の滝の水が流れ落ちるなかでの立ち回り。また、エキセントリックなボン・クレーという役を見事に演じきった坂東巳之助(彼は、ボン・クレーのほかロロノア・ゾロ、スクアードも演じています)は、歌舞伎俳優のすばらしい実力と可能性を感じさせてくれました。

さらに、歌舞伎俳優以外では、エースを演じた福士誠治が観衆の拍手をかっさらっていました。歌舞伎界と歌舞伎以外の役者との融合という点でも、うまく成功していたと思います。

歌舞伎が長く続いた原動力とは、まさにこういった生きた変化、新しいものを常に取り入れ吸収し、進化していくところにあるのでしょう。

今回のスーパー歌舞伎を観て、「ワンピース」と「歌舞伎」という異質なものがぶつかったものではなく、もしかしたらワンピースの土壌にはかぶくものたちの「歌舞伎」があって、今またあるべきところに戻っただけなのかもしれないと感じました。

歌舞伎のエネルギーの計り知れない力強さを見せつけられたような気がします。

次のページでは、会場のみなさんに感想を聞いてみました。
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