歌舞伎や時代劇では、金銭感覚はとても大事

きん

 

歌舞伎を見ていて、いまの私たちが気になることに「時間」と「お金」のことがあります。

江戸の人にとっては、ごく当たり前の感覚が、いまの私たちにはわかりません。しかし、この最も基本的な感覚がある程度直感的にわかるようになると、お芝居(特にお金がよく出てくる世話物の演目)の面白さが違ってきます。

たとえば「弁天娘男女白浪(べんてんむすめ めおのしらなみ)」という演目では、娘に化けた盗賊の一味、弁天小僧が呉服屋をゆすって百両の金を奪い取ろうとします。この百両というのが今なら幾らくらいなのか、わかるとわからないでは面白さが全然違ってしまうのはご想像頂けると思います。


お芝居の中のお金

もう少し例を挙げてみましょう。

人情噺文七元結(にんじょうばなしぶんしちもっとい)」という落語をもとにしたお芝居では、長兵衛さんという主人公が五十両のお金をめぐって悲喜こもごものドラマを演じます。

この五十両、長兵衛さんの借金を助けるために一人娘が吉原に身を売って作ってくれたお金です。そして劇中では長兵衛さんはこのお金を約一年以内に(故・勘三郎さんの場合。菊五郎さんが演じる時は四ヶ月程度の設定)返す約束をします。

髪結新三」というお芝居でもお金の話題がたくさん出てきます。新三が、材木商の娘をかどわかして身の代に取ろうとする金額が百両。これを値切りに値切られて納得した値段が三十両。芝居の中ではさらにこれを強欲な大家さんの策にだまされて最後には十三両しか手に入りません。

また劇中で初鰹(江戸っ子は初物を珍重したので常識では考えられない値段になります)を三分(さんぶ)という値段で手に入れます。同じ長屋の住人がこの値段を聞いて、自分なら新しい着物でも仕立てるところだと驚きます。

与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)」、通称切られ与三郎というお芝居では、蝙蝠安(こうもりやす)と主人公の与三郎(よさぶろう)がとある家にタカリに出かけてゆきます。ここで初めに「二朱(にしゅ)」という金額を手渡され蝙蝠安が「なめるな!」と激高します。
よさぶろう

与三郎


こうしたお芝居に出てくる金銭感覚、当時の人はすんなりと理解していたはずですよね。私たちには「円」の感覚しかありませんから、この辺り、なかなか苦労します。また、当時の物価もわかりませんから、それが「高い」のか「安い」のかも、なかなか腑に落ちないわけです。


一両の価値は?

まずは貨幣の基本的なことですが「一両=四分=十六朱」が芝居でよく登場するものです。

さて江戸時代、長屋住まいの四人家族なら一両あれば一ヶ月の暮らしが出来たともいいます。当時は殆どの町人が月給ではなく、一日単位で稼ぎを得ていたようです。長屋の住人については、居職で350文、出職で410文程度という資料がありました。一日300文の稼ぎで20日間だと月収は一両となります。毎日安定的に同じだけ稼げたわけでもないでしょうから、一ヶ月で一両というのは、かなり信憑性が高そうです。なお、芝居の書かれた時期にもよりますが、一両の価値は8万円から20万円程度の振り幅で変動しているようです。

では、先に挙げた例を計算してみましょう。一両8万円と、一番安く見積もったとして……
  • 弁天小僧がゆすろうとした金額(=百両)は800万円
  • 長兵衛さんの借金、娘の吉原に身を売った額は400万円。
  • 髪結新三は800万円を240万円に値切られて、さらに手に入れたのは104万円。
  • また新三が買った初鰹は一尾で6万円と非常に高価。
  • 蝙蝠安は5000円で追い返されそうになって腹を立てた。
ということになりますね。蝙蝠安の怒りはなんとなくわかりますが、弁天や新三のゆすろうとした金額はなかなかのものですね。


現在の価格に置き換えると?

さて、実は細かいことを調べていくと江戸の通貨制度はかなり複雑(金貨、銀貨、銭の三種類が個々に流通していて相場も変動制。高価なものは金貨・銀貨、日用品は銭と使う貨幣も違っていたらしい)で頭が大混乱してしまうので、今回はなるべくシンプルにいきましょう。

以下の物価換算は一両=18万円、銀一匁=3000円、一文=30円で換算してみました。意外なものが高価だったりしますが、流通や技術のことを考えると納得できそうです。
※換算は文化文政(1820年頃)時代を基準にしてみました

【食料品など】単位はすべて円
  • 砂糖 600g 12,000
  • 菜種油 1升 10,000
  • 煙草 18g 4,400
  • 卵 1個 300
  • 小麦 1kg 1,000
  • たくあん 500g 450
  • 米 1升 3,750
  • 味噌 1kg 1,300
  • 酒 1升 6,000
  • 塩 1升 480
  • かけそば 480
【その他いろいろ】
  • 医者 初診料 30,000
  • 飛脚(大阪⇔江戸:25日) 135,000
  • 駕籠 1里(約4キロ) 10,000
  • 歌舞伎 桟敷席 105,000
  • 奉行所 同心の年収 5,040,000
  • 大工 日当 12,000
  • 両国の芝居 960
  • あんま 1,500
  • 旅籠 1泊2食 6,000
  • 銭湯 240
  • 寄席 660
  • 髪結 男客 960
  • 髪結 女客 1,500
  • 寺子屋 1年 225,000
  • 武家下女 食事つき年収 540,000
  • 草鞋 480(旅だと1日しかもたない)
  • 番傘 7,500
  • 蛇の目傘 24,000
  • 割長屋 家賃 月30,000(3坪)
  • 江戸の一番高い土地 南伝馬町20坪 64,800,000



※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。