歌舞伎/歌舞伎関連情報

スーパー歌舞伎「ワンピース」観劇レポート

世界中で3億2000万部以上売れたという漫画「ワンピース」が、歌舞伎化されました。一見、対極にあるような「ワンピース」と「歌舞伎」。一体どんな舞台となったのでしょうか。歌舞伎界は新たな客層を呼び込むことができるのでしょうか。

宗像 陽子

執筆者:宗像 陽子

歌舞伎ガイド

尾田栄一郎原作の「ワンピース」は、秘宝を目指す海賊たちの物語です。1997年から「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載を開始し、単行本は79巻まで刊行(2015年10月現在)され、今もなお連載中。今回の歌舞伎ではこのうち“頂上戦争編”と呼ばれるエピソードをピックアップして、5時間の歌舞伎としています。
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新橋演舞場の前は幅広い年齢層でいっぱい

「5時間は長い!」と感じるかもしれませんが、2回ある休憩はどちらも30分と十分あり、1幕は1時間強ずつ。1~3幕まで迫力のある舞台は目が離せず、まったく長いと感じることはありませんでした。


見得、大立ち回りにスピーディな変身

タタン、タタンとツケは随所で使われる。見得は切る。ヒーローたちがひとりずつポーズをとりながら名乗りをあげる白浪五人男のような演出もある。大立ち回りもある。スピーディーな変身もある。

一方で、下座音楽もない、CGでの映像処理もちりばめられ、ゴム人間にパンチをされた悪役のゆがんだ顔がスクリーンに大写しとなる。ゆずの音楽が鳴り響く。これは歌舞伎と言えるのだろうか? という疑問も湧いてきます。

また、花道のスッポンからの登場や退場もどんどん利用していますが、スッポンから出てくるのは妖怪変化というのが歌舞伎の中のお約束のはず。

「しかしルフィーだってゴム人間なのだもの。妖怪のようなもの。いや待てよ。ルフィーは人間のはず」

などと考えていたら、目の前の芝居がどんどん先に行ってしまいます。もうそんな「お決まり」を気にするのは意味のないことなのでしょう。

当初「『見得などの歌舞伎寄りの演出手法も入れた演劇』に近いのではないか」と思っていたガイドですが、徐々に印象は変わっていきました。


大掛かりな舞台演出はスーパー歌舞伎ならでは

さて、歌舞伎と言えるのか言えないのかすらわからないという読者のために、歌舞伎の新ジャンルである“スーパー歌舞伎”の定義を、確認してみましょう。
明治以降の近代の新歌舞伎があまり顧みようとしなかった江戸歌舞伎の演技・演出上の諸要素{踊り・立ち回り・ツケ・見得・ケレン・隈取・科白の合方としての音楽・正面芝居・誇張された豪華な衣装などなど}を意識的に取り入れ、なおかつ現代語で現代人に感動を与えるストーリーを持った芝居を創ろうと始めたもの」といいます(二代市川猿翁。ワンピースパンフレットより)
 
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ワンピースパンフレット

「先人たちが、好きなようにやってくれたおかげで、自分たちも自由にできた」といったことを猿之助自身、テレビ取材の中で語っています。先人とは言うまでもなく、スーパー歌舞伎を始めた二代市川猿翁のことです。

今回の「ワンピース」は、「歌舞伎寄りの演出」どころか、「ヤマトタケル」「新・三国志」と続いてきた、スーパー歌舞伎の総決算と言えるのはまちがいありません。そして、三国志にも並ぶような壮大なストーリーが漫画にもある、それを歌舞伎で観せるとこうなるのだと、改めて知らしめる作品になったと思います。

次のページでは、さらに詳しくご紹介します。
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