「大和郷(やまとむら)」という地域
都心6区(千代田区、港区、中央区、文京区、新宿区、渋谷区)の山手線内側において、閑静な住宅街を代表する地域地区「第一種低層住居専用地域」は3地区ほどしか存在しない。ひとつは、渋谷区広尾「日赤通り」をはさむ両側。次に、同じく恵比寿の通称「白金長者丸」の北あたり。そして、文京区本駒込の「大和郷(やまとむら)」である。大名屋敷の特徴でもあった巨大庭園(現「六義園」)を今に継承し、広大な低層街区とともに景観形成をなしているという点で、江戸東京の魅力を最も象徴するエリアのひとつといえよう。明治時代に別邸とした後、庭園ゾーンを東京市に寄贈したのは三菱財閥の祖、岩崎弥太郎である。
「六義園」は面積約8.8ヘクタール。紀州(和歌山)の景色をモチーフとする。幾多の築山を縫うように川を流し、橋を架けた。最も高い藤代峠は標高35メートル。築園した川越藩主柳沢吉保は構想に7年もの歳月を費やしたという。
「ブランズ六義園アヴェニュー」の魅力
さて、今回のレポート対象「ブランズ六義園アヴェニュー」は地上11階建て、総戸数40戸の分譲マンションである。「六義園」を取り囲むようにめぐっている商業地域内にあたる。よって、良好な環境を保ちながらも、高さ制限10メートルの第一種低層住居専用地域では叶わない眺望が手に入るというわけだ。希少なポジションである。恵まれた条件はそれだけではなかった。敷地の面積と形状である。公園沿いには数棟のマンションが立ち並んでいるが、なかでも面積が大きく、不忍通りとも接することでゆとりを持った配棟が実現。道路から10メートルの引き(間隔)を取り、緑と水盤を配し、塀(壁面)の高さを下げることでプライバシーを保ちながらも景色の一体感を図った(画像参照)。
公園を取り囲む煉瓦塀との連続性を、エントランスホールニッチの装飾に掛け合わせるあたりは立地特性を十分に取り込もうとする意図がうかがえる。さらに、住まいに求める「静(プライベート)と動(パブリック)の切り替え」を「この僅かな」とも言えるほどの限られたエントランススペースで見事に演出しているのだが、内から外に出る瞬間には「六義園」の渡月橋を連想させ、設計コンセプトの一貫性を比較的容易に実感することができる。「過ぎない」シンプルな演出がいい。
坪単価は@391万円
昨今、マンション業界は原価高騰の話で持ち切りだ。土地代以上に、工事費の値上がりが著しい。ところが「ブランズ六義園アヴェニュー」はそうした趨勢の前に、請負契約を済ませたという。効用は専有内部の仕様に端的に発見することができる。例えば、玄関ならびにシューズインクロークの床は天然石なのだが、廊下まで同仕様が標準だ。収納扉材は突板である。ゆとりを持ったキッチンスペース、廊下のニッチ(標準)など高級マンションを意識した空間づくりは見る人にわかりやすい。室内の柱梁は目立ちにくく、外観デザインとの両立が図られている。必見はバルコニーである。ここでしか手に入らない見事なまでの美しい景色を低減させることなく、普段の(くつろいだ)姿勢から広大な緑を楽しむことができる。
昨年から販売活動をはじめ、現在販売対象戸数は3住戸のみ。11階1億2930万円、9階1億1380万円、8階1億780万円。すべて公園ビュー。マンション全体の分譲平均単価は@391万円。驚きの価格が散見される最近の新築マンション市場だが、この物件については該当しないようだ。
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