こだわって作っているだけでは作りたいものが作れなくなっていく
―― フランスから帰って数軒でシェフをした後、「デュヌラルテ」を任されましたね。既存の考えにとらわれない斬新な製法が話題になりました。厳しいことも言うが、同時に惹きつける
年商5千万で赤字だった店を立て直して年商2億にしました。本当はシェフはそんなことしなくてもいいんだけど、立て直すには収支表を作って全部自分でやる。税金のこととかも税理士さんと相談しながらすべて自分でやりました。
みんな、どうしても作り手だから、自分が作るもののことばかり考えるでしょ?でもお客さんはそうではないからね。食べ歩きしたほうがいいというのは、お菓子やパンだけを見ることではないから。店の外観、内装、プライスカード、客単価、営業時間、座席数、スタッフの人数……500円のケーキ3個買うのと同時に、それを全部見て勉強するんです。
―― そういう経営的な部分もするのが、プロの職人ということ?
そうですね。こだわって作っているだけでは、だんだんと自分の作りたいものが作れなくなっていってしまいます。
店を持ちたいのなら同時にしなければいけないことがある
―― 学習適齢期ってあるじゃないですか。そのときに学ばなければならないこと。今は技術だけでも、いつかは早いうちから経営も勉強しなさいということですか。
将来店をやりたいんだったら作ることと経営と人材育成はセットだから、同時に考えなくちゃいけない。これを1年目から全部考えてやるんです。
10年やって技術が身に付かない人はいない
プロの職人になるために学生に必要なことは何か
―― ところでなぜ、製菓から製パンに移ったのですか?
フランスのパティスリーにはパン、お菓子、総菜が並んでいると知って、パティシエは全部できなきゃいけないんだと思ったんです。実際にはそこにはパン職人や料理人がいたのですが。でも、じゃあ日本でそれができるかといったら雇えないでしょう。だから日本でフランス風パティスリーをするなら全部自分でできないと、と思ったんです。
料理もお菓子もパンも同じことです。おいしいものを作るということ。化学変化を起こすということです。ちゃんとした味覚を持って、なおかつ化学変化の理論が頭にあれば、明日からおいしいものがつくれます。味覚と理論と遂行できる技術があればね。この技術はそんなに難しくない。超簡単です。
―― 多分皆さんは技術が一番難しいと思われていると思いますが。
そうですか?そんなことないから。たとえば10年やって技術が身につかない人っていないでしょう。絶対にいない。でも味覚や理論が身につかない人は山ほどいるから。