マーケティング/家電マーケティングのプロが語るお得な家電との付き合い方

ヤマダ電機とイオンはなぜ同時に苦境に陥ったのか?

家電最大手のヤマダ電機が地方や郊外店を中心にの46店舗の閉鎖を発表した。一方、小売最大手のイオンも苦戦を強いられている。両者に共通する課題とはなにか。マーケティング目線で解説します。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

ヤマダ電機とイオンの現在

苦境を脱することはできるか

苦境を脱することはできるか

家電最大手のヤマダ電機が地方や郊外店を中心に46店舗の閉鎖を発表した。一部は改装に伴う一時閉店、他業態への変更もあるが37店は完全閉店となる。ヤマダ電機は地方や郊外を中心に積極出店を進める他、2012年にベスト電器を子会社化するなどして約1000店舗を全国に持つが、そのビジネスモデルを変更せざるを得ない状況になったということだ。売り上げもピーク時には約2兆円あったが、2015年3月期には1兆6000億円まで減少している。

一方、小売最大手のイオンも苦戦をしている。イオンには、規模の違いはあれど、どの土地にいっても、同じようなテナント、同じような品物が揃っている。そしてイオンが出店すると、その街の商店街が廃れると言われるほど街の生態系を変えてしまう力を持っていた。例えば、沿岸部から遠い石巻のイオンは、その便利さゆえに地域で今もっとも人気のエリアになっていると言う。石和温泉のイオンはほとんど店のない駅前に立っている。幕張新都心のイオンモールの巨大さは、あのコストコがとても小さく見えるほどの存在感がある。日の出町(西多摩)のイオンモールも、周りには低層の住宅ばかりの場所に存在感たっぷりに構えている。だが、そのイオンの成長にも陰りが見え始めているというのだ。

ヤマダとイオンが苦戦する4つの理由

ヤマダ電機も、イオンもほんの2、3年前までは飛ぶ鳥を落とす勢いだった。それが今、苦境に追い込まれている理由は4つに集約される。

まず1つ目は”グロスメリットが出せなくなってきたこと”だ。ヤマダもイオンも拡大戦略を取ることで、より多くの販売量を達成することに力を入れてきた。大量の商品を作ったり納入したりするので、それが低価格というメリットを生み出してきた。ところがヤマダ電機の山田昇社長も発言しているように、ヤマダ電機は出店余地がないほど店舗拡大をしてしまった。これ以上、拡大しようがないのだからグロスメリットも出しにくくなってきたのだ。

2つ目は”地方の不振”だ。ヤマダ電機やイオンは地方や郊外店を重視した戦略を取ってきた。しかし、今は都市部のほうが好調だ。例えばヤマダ電機のライバルであるヨドバシカメラやビックカメラなどは都心部の駅近に店舗を構えている。イオンのライバルとは言えないが、都心部ではJRも地下鉄も駅ナカの施設を充実させ好調だ。駅ナカは安いものばかりではないが、カフェもレストランも食品も化粧品も好調のようだ。

家電量販店の売り上げを見ても2015年の1~3月は前年比25%マイナスだが、都心部だけ見れば中国人観光客を中心に売り上げはプラスのようだ。私もヨドバシカメラ、ビックカメラ、銀座のラオックスなどを視察したが、近くを歩くほぼすべての観光客が購入した電化製品を両手に抱えている光景を目の当たりにした。また、レジに行列を作り数十万円を次々に支払っている様子も見られた。地方・郊外を中心に46店舗の閉鎖を発表したヤマダ電機も、外国人観光客向けに都心部の店舗を強化する方針を一方で打ち出している。

3つ目は”品質面での改良スピードの遅さ”だ。ヤマダ電機もイオンの場合、大規模集客力による低価格が売りだが、商品やサービスがライバルと比べて優れているとは言い切れない。消費者にヒアリングをすると、オープン当初や安く買いたい場合は行くが、それ以外の場合には競合店に行くという人が少なくない。

4つ目は”消費者から飽きられてしまったということ”だ。消費者の趣味嗜好は多様化している。流行りすたりのサイクルも短期化している。商品やサービスが話題になっても、そのブームはすぐに去っていってしまう。

以上の4つがヤマダ電機とイオンに共通する不振の理由なのだ。

【参考】完全閉鎖の37店舗の地域別内訳 北海道 2店舗、東北9店舗、茨城7店舗、埼玉1店舗、東京2店舗(多摩センター、江東潮見)、北陸2店舗、中部4店舗、近畿6店舗、中国3店舗、四国1店舗

>>>次のページに続く

(※2015年6月2日【訂正】 2012年にヤマダ電機が子会社化したのはベスト電器でした。訂正いたします。)
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