キャリアプラン

キャリアアンカーとは? 自分のキャリア選択に重要な理論・指針

「キャリアアンカー」とは、アメリカ合衆国の組織心理学者、マサチューセッツ工科大学経営大学院名誉教授エドガー・シャイン氏によって提唱された理論・概念。仕事そのものではなく、価値観・拠りどころをベースに自分の職業人生を選択していく考え方です。

藤田 聰

執筆者:藤田 聰

キャリアプラン・リーダーシップガイド

キャリア・アンカーとは

キャリア・アンカーとは職業選択をする上での重要な切り口であろう

キャリア・アンカーとは職業選択をする上での重要な切り口であろう


キャリア・コンサルタント資格等、キャリアについて学ぶ方にとってはとてもポピュラーな用語の一つです。「キャリア・アンカー」とは、アメリカ合衆国の組織心理学者、マサチューセッツ工科大学経営大学院、名誉教授エドガー・シャイン氏によって提唱された概念です。

シャイン氏は近著「問いかける技術」を出され、これまでの欧米流のコミュニケーション文化に一石を投じ、コミュニケーションにおける新しいリーダーシップを提唱しています(参考『リーダーに必要な謙虚さ―「問いかける技術」とは』)。

キャリア・アンカーとは、個人がキャリアを選択する際に、自分にとって最も大切で、これだけはどうしても犠牲にできないという価値観や自分の軸を指します。船の錨(アンカー:Anchor)のように、職業人生の舵取りのよりどころとなるキャリア・アンカーは、一度形成されると変化しにくく、生涯にわたってその人の重要な意思決定に影響を与え続けるとされています。また、周囲が変化しても自己の内面であまり変わらないものを示します。
 

キャリア・アンカー:8つの分類

シャイン氏は主なキャリア・アンカーを「全般管理コンピタンス」「専門・職能別コンピタンス」「保障・安定」「起業家的創造性」「自律と独立」「社会への貢献」「純粋なチャレンジ」「ワーク・ライフ・バランス」の8つに分類しました。

1.全般管理コンピタンス
組織の中で責任ある役割を担うこと:集団を統率し、権限を行使して、組織の中で責任ある役割を担うことに幸せを感じる。

2.専門・職能別コンピタンス
自分の専門性や技術が高まること:特定の分野で能力を発揮し、自分の専門性や技術が高まることに幸せを感じる。

3.保障・安定
安定的に1つの組織に属すること:一つの組織に忠誠を尽くし、社会的・経済的な安定を得ることを望む。

4.起業家的創造性
クリエイティブに新しいことを生み出すこと:リスクを恐れず、クリエイティブに新しいものを創り出すことを望む。

5.自律と独立
自分で独立すること:組織のルールや規則に縛られず、自分のやり方で仕事を進めていくことを望む。

6.社会への貢献
社会を良くしたり他人に奉仕したりすること:社会的に意義のあることを成し遂げる機会を、転職してでも求めようとする。

7.純粋なチャレンジ
解決困難な問題に挑戦すること:解決困難に見える問題の解決や手ごわいライバルとの競争にやりがいを感じる。

8.ワーク・ライフ・バランス
個人的な欲求と、家族と、仕事とのバランス調整をすること:個人的な欲求や家族の願望、自分の仕事などのバランスや調整に力をいれる。

このキャリア・アンカーを見極めて企業は人事制度を設計し、個人はキャリアを選択すべきとされています。
 

キャリア・アンカーが自分の職業人生のよりどころに

就職活動でも、キャリア開発でも、進路の選択に欠かせないのが本人の「自己分析」です。しかし、その分析の仕方というと「自分はこれまで何をしてきたか、これから何がしたいのか」の一辺倒。仕事内容に関するものばかりに偏る傾向があります。

「どんな仕事に就きたいか」という問いかけは、答えが明示的でわかりやすい反面、どうしても時流の波の影響を受けざるを得ません。市況や産業構造の変化によって希望する仕事の需要が減ったり、職種自体が無くなってしまったりすることもあるでしょう。また本人の希望そのものも、年齢によって移り変わらないとはかぎりません。

組織内で本人の立場が変われば、同じ仕事を続けたくても、会社の方針でキャリア転換を求められることがあるかもしれません。職業人生の舵取りを考えるとき、「どんな仕事をしたいか」という価値観は重要ではあるものの絶対ではありません。

むしろ長期的なキャリアのよりどころとなるのは、「何をしたいか」よりも「どういう風にしたいか」、つまり自らに「What?」ではなく「How?」と問う価値観ではないでしょうか。自分は今後、どういう風に仕事をしていきたいのか――それが「キャリア・アンカー」の考え方です。

先の8つの分類は仕事自体の内容ではなく、何を最も大切にして仕事に取り組むのか、その姿勢やポリシーを突き詰めた人生観ですから、時代の変化のあおりを受けても見失うものではありません。個人のキャリアデザインに役立つのはもちろんのこと、組織も社員一人ひとりのキャリア・アンカーを見極めることで、適材適所の人員配置や効果的な研修体系の構築に活かすことができるのです。

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