現代のヘルシンキの街並みに、カウリスマキ映画の面影は残っている?

ドブロブニク

コロナ・バーの地下に佇む雰囲気満点のバーラウンジ、ドブロブニク。近年、日本の某アパレルブランドのCMで、女優の宮崎あおいがここでカウリスマキ映画の世界観の再現ショートドラマを披露したことでも話題に

フィンランドといえば、すっきりと洗練されたデザインの国、あるいはオーロラがたゆたいムーミンやサンタクロースの住んでいるファンタジックな国……というイメージを抱いている人が多いとは思います。けれど中には、『過去のない男』や『レニングラード・カウボーイズ』に代表される、フィンランド人のアキ・アウリスマキ監督(Aki Kaurismäki / 1957-)の映画世界に魅せられて、陰湿で淀んだ空気を漂わせるノスタルジックなヘルシンキの街並みや、すぐにタバコに火をつけて酒に溺れる無愛想な人々のイメージを、密かに期待している人だっているのではないでしょうか。

埠頭

今も昔も大きく変わらない湾岸の埠頭の光景は、今日でもどことなくカウリスマキ映画の哀愁が漂う

カウリスマキ映画で描写されているヘルシンキは、一昔前ならたわいないリアルな街の一風景と捉えられたかもしれません。けれど今日では、当然ながらヘルシンキの街並みも近代化が進み、人々の生活水準や公衆秩序も向上し、古い街並みが残るエリアであっても景観は美しく整備されて、貧しく陰気臭い雰囲気が支配するような場所は、あいにくほとんど見られなくなってしまいました。

また今日では室内での喫煙も禁止され、映画でお馴染みの愛すべきヘビースモーカーたちは皆、隔離された専用ルームか寒空の下での一服を余儀なくされています。強いて言えば、夜にバーや繁華街を通りがかれば、むすっとした顔で強い酒をあおる、カウリスマキ映画さながらの呑んだくれおじさんには結構頻繁に出くわすとは思いますが……(トラブル回避のために、話しかけられてもまともに相手をしないこと!)。もしカウリスマキ映画のうら寂しい雰囲気を期待してヘルシンキ旅行を計画するなら、少なくとも夏よりも秋や冬のほうが断然趣きが増すのでおすすめです。

ヘルシンキの中心街で夜な夜な賑わう、
カウリスマキ兄弟がプロデュースしたディープなナイトスポット

コロナ外観

夜な夜な老若男女が集い、他のバーでは味わえないレトロな雰囲気の中で酒を片手にくつろぐビリヤードバー、コロナの表玄関

けれど今なおヘルシンキの中心街で、そんな哀愁ただよう街の記憶を留めているディープな界隈があります。それが、カンッピ地区から少し南下したエリアを東西に貫くエーリッキ通り(Eerikinkatu)の一角に集まった、アンドラ(Andorra)と呼ばれるカルチャー&エンターテイメント複合施設です。

マッティ

バーの壁には、カウリスマキ映画の常連俳優であり90年代に若くしてなくなったマッティ・ペッロンパーの肖像が飾ってある

アンドラはエンタメ複合施設といっても、いわゆる観光用のテーマパークというわけではなく、実際訪れるとカウリスマキ映画ファンならにやっとほくそ笑んでしまいそうな、とても土着的な匂いがします。というのも実は、90年代にこの複合施設の中核をなすビリヤードバー「コロナ」やカフェバー「モスクワ」のプロデュースや設立をおこなったのは、他でもないミカ&アキ・カウリスマキ兄弟だったのです!

共に世界的な映画監督であるカウリスマキ兄弟が、ある日通りがかりにエーリッキ通りの空き物件を見つけ、仲間とともに半ば思いつきで、まさに彼らの映画に出てきてもおかしくないレトロバーの開業を計画したのがその始まりなのだそう。やがて建物の地下階や同じ並びに、古き良き時代の大衆飲食文化を語り継いでいく場として、劇場やラウンジ、カフェバーが相次いで作られました。カウリスマキ兄弟がバーカウンターに立っているというわけではありませんが、これらの店舗が今日ではアンドラという名の複合娯楽施設として、開業当時の雰囲気やカウリスマキ兄弟のこだわりを保ち続けながら、それぞれ運営を続けているというわけです。

■カルチャー&エンターテイメント複合施設アンドラ(Andorra)の公式サイト

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