ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.5『デスノート』作曲F・ワイルドホーン(4ページ目)

今年最も話題の新作の一つ『デスノートThe Musical』。作曲を担当したフランク・ワイルドホーンさんは、『ジキル&ハイド』以降『ドラキュラ』『モンテ・クリスト伯』等、多数の作品を発表してきました。最も成功した作曲家の一人である彼に、開幕間近の『デスノートThe Musical』、そして充実の“今”と“これまで”をうかがいます!*観劇レポートを掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

『デスノート THE MUSICAL』ゲネプロ(最終舞台稽古)観劇レポート
人間の愚かしさ、愛おしさを描く
現代の“神話”ミュージカル

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

本作のミュージカル化が発表された時、それがいったいどのような舞台になるのか、想像のつかなかった人がほとんどではないでしょうか。もっと言えば「ミュージカル化などということが可能なのか」と疑問に思った方もいるかもしれません。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

「人は“神”になりうるのか?」「“正義”は何によって決められるのか」といったシリアスなテーマを、夜神月(ライト)とL(エル)という二人の若者たちの攻防を通して描くダークな原作は、およそミュージカルという表現には似つかわしくないものだったからです。しかしこの春『デスノート THE MUSICAL』は、そうした大方の予想を裏切る形で、その全貌をあらわしました。間違いなく、ミュージカルの新時代を切り開く作品の誕生です。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

固有の文化を反映していながら、普遍的である。それは近年、世界的に成功している新作ミュージカルの共通項ですが、本作も2.5次元的アイドルやスマホ依存の若者たち、渋谷ハチ公といった“今”の日本のアイコンを取り入れつつ、装飾性を一切そぎ落とし、回り舞台に後方の2階部分、スクリーンといった要素にとどめた二村周作さんのミニマルな舞台美術により、無国籍風の色合いの強いものに。死神のノートを拾った高校生、夜神月がそのパワーに気付き、とまどいながらも社会正義のために行動を起こそうと心に決めるナンバー「デスノート」で、広々とした舞台で孤独に歌うその姿は、文化圏を問わず観る者の共感を呼び、観客は容易に物語世界に引き込まれてゆきます。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

またポップ・ミュージック界の出身で、幅広い音楽的ボキャブラリーを持つ作曲家フランク・ワイルドホーンの起用も、本作にとっては幸運でした。アイドル歌手、ミサミサのナンバーはもちろん、若者たちの心情を反映したナンバーを、ワイルドホーンはどれもシングル・カットできるのではと思われるクオリティで仕上げ、同時にダイナミックなメロディも差し挟んで舞台に壮大なスケール感を加えています。ともすれば彼の力強い音楽に全体が牽引されてゆくところを、緊密で目の離せない芝居部分と音楽が絶妙に絡み合っているのは演出、栗山民也さんのバランス感覚によるものでしょう。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

出演者たちの入魂の演技も本作に大きく寄与しています。この日の夜神月役、柿澤勇人さんはふつうの優秀な高校生がふとしたことから「神になる」という使命に目覚め、迷いながらもやがてダークな側面を持つにいたる様を、瑞々しく体現。ダブルキャストの浦井健治さんが、そののびのびとした持ち味によって、迷いなく行動してゆくように見えるのとは若干異なり、ぜひ見比べたい二バージョンです。月に対抗する天才、L役の小池徹平さんは、原作漫画の世界から抜け出してきたかのようなキャラの作りこみようで、舞台には足を曲げて座り、背は常に丸め、目の周りはクマ(のメイク)。いかにも“異形”の彼が外見的には「正」を体現する月を追及するという一見“逆”のドラマを、背を丸めたままワイルドホーンのパワフルなナンバーを歌いこなすという離れ業をやってのけつつ、独特のオーラで見せてくれます。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

刑事として事件を捜査する夜神総一郎役で、抑えた演技の中に苦悩をにじませる鹿賀丈史さん、純粋で一途なミサミサを体当たりで演じる唯月ふうかさんも好演ですが、本作をとりわけ興味深いものにしているのが、吉田鋼太郎さん演じるリュークと濱田めぐみさん演じるレムという、二人の死神。吉田さん演じるリュークは口では「退屈だ」を連発しますが、落としたノートを月が拾ってからはその一挙手一投足に反応し、面白がったりちゃちゃを入れたりと、死神と言いながら劇中、登場する誰よりも生き生きしています。吉田さんはシェイクスピア劇やギリシャ悲劇を多数演じてこられた方で、ミュージカル俳優のような歌唱スタイルではありませんが、言葉の立たせ方、台詞から“音符”への移行が絶妙。唯一無二の存在感で、リュークのスピン・オフドラマは作られないのかな?などという期待さえよぎります。
『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

『デスノートTHE MUSICAL』(C)ホリプロ

この“動”のリュークに対して、濱田さん演じるレムは徹底的な“静”。ごくスロウな、最小限の動きで体温さえ無いように見えますが、その彼女がミサミサに出会うことで、徐々に“愛”を知り、人間的な情を得てゆく様を丁寧に演じています。“愛とは人間と愚か者が抱くもの”とレムとミサミサが歌うナンバー「残酷な夢」はしみじみとした憂いと情感が漂い、本作で一、二を争う聴きどころ。“正義の味方”の登場に熱狂する人々、スマホを通して目先の現象にしか反応しない若者たち等を演じるアンサンブルも終始緊張感を持続し、手堅い演技です。彼らが時折見せるやはりミニマルなダンス(振付・田井中智子さん)も効果的。

人間の愚かしさ卑小さ、そして愛おしさを、今日的な設定のもと描く本作には、二人の死神とは別に何か俯瞰的な視点が感じられ、そのため舞台には「神話」的なダイナミズムがあらわれています。スリリングでドラマティック、そしてメロディアスな現代の神話。ワイルドホーンも期待している“ブロードウェイ版の上演”は、思いのほか間近なのではないでしょうか。

(本作ご出演者の過去のインタビューはこちら。浦井健治さん柿澤勇人さん濱田めぐみさん鹿賀丈史さん



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