ベトナム唯一の複合遺産「チャンアン複合景観」

タムコックの水田とタワー・カルスト

タムコックの絶景。パッチワークのように広がる黄と緑の水田からタワー・カルストの奇岩群が立ち上がっている

タムコック、チャンアン、ビックドン、ホアルーをはじめ数多くの名所を抱えるベトナム北部の省、ニンビン。大地からボコボコと立ち上がる奇岩・奇峰ばかりでなく、数億年前の地層や3万年前の人類の住居跡、ベトナム王朝の都市遺跡、歴史ある仏教寺院群と、自然遺産から文化遺産までその見所は尽きることがない。

今回はこれらの名所を構成資産に含むベトナムの世界遺産「チャンアン複合景観」を紹介する。

カルストの絶景「ハロン湾」と「チャンアン複合景観」

ハンムア寺の山頂から眺めたタムコック

ハンムア寺の山頂から眺めたタムコック。ハンムア村に行く人は多くはないが、この絶景と農村風景はオススメだ

ベトナムの世界遺産といったらすぐに思い浮かぶのが「ハロン湾」だ。海の中から1600もの奇岩・奇峰が林立する絶景は息を飲むほど美しい。そしてその南西約140kmに位置するのが「チャンアン複合景観」だ。

実はこの辺りの土地は広大なカルスト地形。2億5千万年前には海底にあり、生物の死骸が積もって1kmにも及ぶ分厚い石灰層を生み出した。これが隆起してインドシナ半島の一部となったわけだが、水に溶けやすい石灰岩は川の流れや風雨の浸食を受け、数百万年をかけて深い渓谷や奇岩・奇峰を生み出し、また地下水の流れが無数の洞窟を掘り出した。 
タムコックの絶景

どこか懐かしいタムコックの絶景

そしてハロン湾周辺では11~12万年前から土地が沈降して海に飲まれ、一方ニンビン周辺はそのまま山の中にあり続けた。

このふたつの世界遺産はもともと同じ地形を持つ兄弟のようなもの。しかし、海にたたずむハロン湾と、川と緑に覆われたチャンアン複合景観ではまったく異なる趣を持つ。
ハンムア村のウシと奇岩群

ハンムア村のウシと、背景には奇岩群。生活と自然が一体化した景観が美しい

ハノイに行く機会があったらぜひこのふたつの世界遺産を訪れて、海と陸のカルストを楽しんでいただきたい。以下では「チャンアン複合景観」の主な見所を順番に紹介しよう。 

陸のハロン湾、タムコック

タムコックのクルーズ

タムコックのクルーズはおよそ2時間の行程。参加する際は、日焼け止めや日傘、水、洞窟を照らす懐中電灯を持っていこう

ハノイからの日帰りツアーの目玉となっているのがハロン湾とタムコックだ。タムコックの方がマイナーであるためか、こちらは「陸のハロン湾」の異名を持つ。タムコックのハイライトはなんといっても足漕ぎ船によるクルーズだ。

船着き場で船に乗ると水面のあまりの近さに少し驚く。比較的大きな船でクルーズするハロン湾よりもはるかに水面が近く、エンジン音もないので水がとても身近に感じられる。船頭が足でオールを漕ぐと、聞こえてくるのはギシッ、ポチャっという船の音、水の音と風の音のみ。とても心地がいい。
足で器用に漕ぐタムコックの船頭さん

足で器用に漕ぐタムコックの船頭さん

船は村の中をするすると抜け、橋や干された洗濯物の下をくぐり、子どもたちの笑顔に歓迎され、すれ違う船と挨拶を交わしながら進んでいく。やがて家々は姿を消し、変わって大地からボコボコと突き出すタワー・カルスト(山のような塔状のカルスト地形)が眼前を覆う。

断崖絶壁からなる奇岩・奇峰はなんとも雄大で、黄緑色の稲穂や水草が生い茂る川のやさしい流れはなんとも優雅。これこそ日本ではまず見られない大陸ならではの山水風景だ。
タムコックの洞窟を抜ける

タムコックの洞窟を抜ける。クルーズで訪れる最大の洞窟は長さは127m、幅20mに達する

のんびり景色を楽しんでいると、船はぽっかりと口を開けたタワー・カルストの中へと進む。タムコックの「タム」は3、「コック」は洞窟の意味。これらの洞窟の中には無数の鍾乳石が垂れ下がっており、石柱や石筍が林立している。頭の高さギリギリの場所もあるため、そのたびに頭を下げつつ先へと進む。ちょっとした冒険だ。