“生きている実感”を届けられる役者でありたい
『エリザベート』写真提供:東宝演劇部
「オーディションでは『闇が広がる』の高音部だけ歌ってということで、高音は苦手ではなかったのもあって合格できたんですが、稽古が始まって(劇中歌として歌って)みると、『闇が広がる』って非常にミュージカル的な、しっかり聴かせるナンバーですよね。あの曲をどう歌うか、かなり悩みました。まだ舞台経験が一度しかないから、こうしたほうがいいとかああしたほうがいいという技術なんか無いいっぽうで、とにかく人気のあるナンバーだというのは分かっていて。このナンバーに限らず、ルドルフの時には周りからの情報が多すぎて、“そんなに注目される役なのか”と思うと勝手にプレッシャーに押しつぶされそうになって、人に心が開けませんでした。
でもそれがあったからこそ、トリプルキャストで一緒だった古川雄大くんとも戦友のように仲良くなれたし、(先代ルドルフの)浦井健治さんにお電話して“きついんですけど”と打ち明けたら、“みんなそうだよ、大丈夫だよ元基だから”と言っていただけて、みんなきつい中を頑張っているんだ、これは今、僕が悩むべきことなんだからとりあえずやってみよう、と思えるようになってきたんです。以来、その姿勢でやってきた気がします」
――ロイド=ウェバーの作品で、紛争で揺れる北アイルランドの若者たちを青春を描いた『ビューティフル・ゲーム』にも出演されましたね(関連記事はこちら)。平方さんは、カソリックのサッカーチームに参加しているプロテスタントの青年役で、フランク莉奈さん演じるカソリックの少女と恋をするという設定。一人だけスタンスの違う青年の空気がとてもよく出ていました。
「あの作品も難しかったですね。演出の藤田俊太郎さんからは“他のメンバーとは違う空気感を持ってやって。君にはそういうものがあるから”と言われて、“うん?あるかな?”と思いながらやっていました(笑)。フランク莉奈ちゃんはものすごくパッションがあって若さで迫ってくるんだけど、僕自身はパッションはあっても、一度考えてから会話をするタイプ。彼女のパッションにどう応えれば演じていて違和感がないかと悩み、初めて役者同志で“腹を割って話そうぜ”と、とことんディスカッションしました。宗教という、日本にはなじみのないテーマのなかで、物語もすごく混沌としていて、みんなきつかったと思います。でもそういう中で作っていくことで、“これが演劇と言うものなのかな?”と初めて思えました。藤田さんは(演劇界の大御所)蜷川幸雄さんの演出助手をつとめている方でしたしね。自分を強く持とうと思えた作品でした」
――そして今年は『レディ・べス』のスペイン皇太子フェリペ役(関連記事はこちら)。大作ミュージカルの“世界初演”で、オリジナルキャストの責務を見事に果たされました。
『レディ・ベス』写真提供:東宝演劇部
フェリペはそれほど出番が多くなくて、稽古をしていた時はWキャストの雄大君と“この役、要るかな?”なんて言っていたんですよ(笑)。だけど実は、出てくると場を全部さらうような役だったんですよね、プレビューと初日に、僕も関係者もみんな“お客さん、こんなにフェリペ(の場面)で盛り上がってくださってる!”とびっくりしました。小池先生だけは分かってたのかな。先生も“ラッキー!”みたいな顔はされていましたけれど(笑)。
稽古から数えると、9カ月くらいフェリペと向き合いました。芝居もずいぶん変わっていったと思います。帝劇での2か月間はがむしゃらにやり、1か月空いて地方公演の前に思い出し稽古というのがあって、久しぶりに雄大の芝居を観たら「(以前の演技とは)こんなに違うんだ」と驚いたんですが、たぶん彼が僕のフェリペを観てもそう思ったでしょうね。僕の中で次第に強くなっていった思いは、フェリペは次期国王、国を背負う人物だから、ロビンとの最初の出会いなど、滑稽に書いてあるシーンでも、僕自身は奇をてらったような芝居はするべきじゃない、ということ。次期王としての心持があるからこそ、彼は(父王が望んだとおり)イングランドに行くこともいとわなかった。そういう気位の高さ、強さは持っていたいなという思いが、演じているうちにどんどん高まっていきましたね」
――この3年間、非常にいい形でキャリアを積み上げてきていらっしゃいますが、今後はどんな表現者を目指していますか?
「表現者と言えるようなかっこいいことは全然できてないし、本当は“そんなそんな……”と腰が引けてしまうくらい、自分の中では自信もないし怖さもありますけれど、最近やっと、そういう仕事をやってるんだと自覚できてきました。そういうことも受け入れながら、繊細な心を常に持ち合わせていたいなあと思います。でないと(『アリス・イン・ワンダーランド』で)アリスが帽子屋に侵されていったように、僕も“芸能人だから”(変わっていても)仕方がないねと言われるような人になってしまう。舞台の上で輝いていればそれでいいという考え方もあるけれど、僕自身は社会で普通に生活していても、人間として“ちゃんとしてるね”と言っていただけるような人でありたいです」
――挑戦したい舞台はありますか?
「この前ブロードウェイに行っていろいろ舞台を観た中で、ディズニーの『アラジン』(関連記事はこちら)がものすごく楽しかったんです。ああいう“ザッツ・エンタテインメント”的な作品って、よく考えたらこれまであまり出たことがないので、どんどん挑戦してみたいですね。舞台って、ただ技術のクオリティの高さを見せればいいものではなくて、稽古がどんなにきつくても、やっている側が心から“楽しい!”と感じていれば、それはきっとお客様にも伝わると思うんです。これからキャリアを積んでいっても、まるで“子役ちゃん”のような純粋さで、“生きてる!”という実感を届けていける役者でありたいです」
――エンターテイナーとして、ますます輝いていかれるのを楽しみにしています。
「はい、ありがとうございます!」
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筆者の中ではとりわけ『ザ・ビューティフル・ゲーム』での、激動の時代・環境をクールに生きのびるデル役が印象的だった平方さん。この役に限らず、状況を俯瞰する知的なお役で俄然、魅力を放っているのには、「普通の人の、繊細な心を大切に」という彼自身の生き方も影響しているのであろうことが、今回のインタビューでうかがえました。そんな彼の意外な(?!)“ザッツ・エンタテインメント系ミュージカル”への憧れは、今後どのような作品で叶えられるでしょうか。まずは最新作の『アリス・イン・ワンダーランド』で、キュートなウサギと滋味溢れる紳士ルイス・キャロルの二役を通し、彼がヒロインに“ちょっとした変化”を与えてゆく姿に注目しましょう!
*公演情報*
『アリス・イン・ワンダーランド』2014年11月9~30日=青山劇場、12月5~7日=梅田芸術劇場メインホール、12月19~20日=中日劇場
*次ページで『アリス・イン・ワンダーランド』観劇レポートを掲載しました!*