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2014年新登録の世界遺産(4ページ目)

2014年6月、カタールのドーハで行われた第38回世界遺産委員会で新たに26件の世界遺産が誕生し、世界遺産総数はついに千件を突破して1007件となった。日本の物件では「富岡製糸場と絹産業遺産群」の登録が決定し、日本で18件目の世界遺産となった。今回は新登録の世界遺産全リスト(解説付き)、拡大された世界遺産、危機遺産リストの変更点等、第38回世界遺産委員会の概要を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

2014年新登録の世界遺産全リスト 文化遺産 後編

玉門関

漢の時代、中国から中央アジアへと続く河西回廊の要衝に防衛拠点として置かれた玉門関。これより西は死の砂漠タクラマカンが広がっている。写真は唐代に築かれた関跡。「シルクロード:シルクロードの始点、天山回廊の道路網」構成資産 ©牧哲雄

■エルビル城砦
Erbil Citadel
イラク、文化遺産(iv)
エルビル(アルビル)はイランとトルコ国境に位置する街で、クルド自治区の首都。メソポタミア文明の都市国家で、一説によると成立は紀元前5000~前3000年に遡る。中心には古代の塚を利用した城砦があり、アッシリアの統治下で宗教的中心地として繁栄した。シルクロードの要衝であることからアレクサンドロス帝国やペルシア、イスラム帝国、オスマン帝国など時代時代の大国の支配を受け、数々の戦場となりながら、多彩な文化の影響を受けた。

■シャフリ・ソフタ
Sharhr-I Sokhta
イラン、文化遺産(ii)(iii)(iv)
イラン高原の砂漠地帯に位置する都市遺跡で、紀元前3200~前2300年のものと見られている。日干しレンガで築かれた都市は長さ2.2km、幅1.1kmに及び、数千の住居や数万に及ぶ墓地からは人間や動物を象った多数のテラコッタや粘土細工、ラピスラズリをはじめとした貴金属のアクセサリーが出土している。インダス文明とメソポタミア文明の間に位置し、両者の文化の影響が見られ、文化の交差路として繁栄していたことがうかがえる。

■グジャラート州パタンにあるラーニ・キ・ヴァヴ[女王の階段井戸]
Rani-ki-Vav (The Queen's Stepwell) at Patan, Gujarat
インド、文化遺産(i)(iv)
インドに多数存在する階段井戸のひとつ、ラーニ・キ・ヴァヴ。11世紀に造られたもので、7層の階段によって井戸に接続し、水の管理を行っている。それだけでなく、ヒンドゥー教徒は沐浴によってけがれを落とすように、井戸は神聖なる施設。井戸の側面は美しいレリーフによって装飾され、寺院のような役割も担っている。13世紀に泥土によって覆われたこともあって保存状態はきわめて良好で、数ある階段井戸の中でも特に貴重なものとされている。

■シルクロード:シルクロードの始点、天山回廊の道路網
Silk Roads: Initial Section of the Silk Roads, the Routes Network of Tian-shan Corridor
カザフスタン/キルギス/中国、文化遺産(ii)(iii)(v)(vi)
紀元前2~前1世紀、洛陽や長安とローマは8700kmに及ぶシルクロードによって結ばれており、絹をはじめとする特産物が交換され、文化の交流によって文明の発展に大きく寄与した。今回登録されたのは洛陽・長安からタクラマカン砂漠の入口となる敦煌を抜けてキルギスタンに入り、天山山脈の南北を通ってカザフスタンに入るルート上に点在する33の遺跡群。大雁塔や玉門関、キジル千仏洞、ブラナの塔、アク・ベシムなどが含まれている。

■歴史都市ジッダ、メッカへのゲート
Historic Jeddah, the Gate to Makkah
サウジアラビア、文化遺産(ii)(iv)(vi)
ジッダは紅海に面する港湾都市。聖地メッカの西70kmほどの位置にあり、イスラム教の五つの義務(五行)のひとつ、ハジ(メッカ巡礼)を行うムスリムでにぎわっている。もともと東アフリカと、中東やインドといった西・南アジアを結ぶインド洋交易で栄えた街で、7世紀に巡礼の拠点として整備されると世界各地から巡礼者が押し寄せた。古代から伝わる港や宿泊施設、モスクがあるだけでなく、スーク(市場)では中東の産物はもちろん世界各地の商品が扱われており、活気に満ちている。

■南漢山城
Namhansanseong
韓国、文化遺産(ii)(iv)
ソウル郊外に位置する山城で、7世紀、新羅が唐との国境に築いた長城がベースであるといわれる。以来時代時代に改築を重ね、特にソウルに首都を遷した李氏朝鮮の時代、首都防衛線として城塞都市が建設された。17世紀、明の滅亡に伴って中国からの完全独立を図るが、これに怒った清のホンタイジが1636年に朝鮮半島へ侵攻。南漢山城で迎え撃つが、翌年降伏して清の支配下に入った(丙子胡乱)。内部には宮殿や寺も整備され、一時は城塞・王宮・寺院の役割を兼ね備えた。

■大運河
大運河

現在も使用されている揚州の大運河。唐以降の政権は東西の物流を黄河と長江、南北の物流を大運河で行い、中央集権を強めた

The Grand Canal
中国、文化遺産(i)(iii)(iv)(vi)
一般に京杭大運河と呼ばれる運河で、万里の長城と並ぶ中国史上最大級のプロジェクト。総延長は2500kmに及ぶ。古くは紀元前4~前3世紀の戦国時代に建設がはじまり、時代時代に増改築が進められたが、特に7世紀、隋の文帝や煬帝はこれらを接続・延長して黄河と長江、北京と杭州をつなぐ大運河を造り上げた。これにより中国の南北を政治的・経済的に統一し、唐の長期政権を可能にした。その後も元のフビライや清の乾隆帝らによって整備が進められ、各国の重要なネットワークとして利用され、一部は現在も使用されている。

 

■富岡製糸場と絹産業遺産群
富岡製糸場、繰糸場内部

繰糸場内部。天井は三角形を組み合わせたトラス構造で、周囲にはガラスをはめ込んで採光した

Tomioka Silk Mill and Related Sites
日本、文化遺産(ii)(iv)
明治初期、近代化を急ピッチで進める政府は新産業を育成するために1872年に官営工場である富岡製糸場を開業させる。富岡はもともと養蚕や生糸生産が盛んな土地で、フランスの機械や生産システムを導入して高品質の生糸の大量生産に成功。生糸は日本の主要輸出品となっただけでなく、日本製の機械やシステムが欧米に逆輸入されるほどに成長した。こうして日本の近代化に大いに貢献しただけでなく、生糸から生産される絹の価格は世界的に下落し、ファションをはじめ人々の生活習慣に大きな変化をもたらした。

■ピュー王朝の古代都市
Pyu Ancient Cities
ミャンマー、文化遺産(ii)(iii)(iv)
ミャンマー初の世界遺産。エーヤワディー川沿いに栄えた3つの古代都市、ハリン、ベイタノ、クシェトラを構成資産としている。大河が築き上げた肥沃な大地と、運河や貯水施設で確保された豊富な水資源によって繁栄した都市群で、東南アジア特有の木工技術に、乾燥地帯で生まれたレンガやテラコッタを組み合わせて、堅牢な城塞都市を築き上げた。インドやスリランカからもたらされた上座部仏教が信仰されると数々のストゥーパや寺院が建設され、東南アジアに広がる仏教文化に大きな影響を与えた。

 

■ポバティー・ポイントの土木記念物
Monumental Earthworks of Poverty Point
アメリカ、文化遺産(iii)
紀元前千数百年に遡ると見られる先住民の都市遺跡。半楕円形のセントラルプラザを同心円状の六重の尾根が取り囲んでおり、その外側にピラミッド状の五つの土塁が設けられている。周囲には森林や湿地が存在し、これらの自然を巧みに利用しながら大規模な都市構造を造り上げと見られるが、尾根や塚の目的は明らかにされていない。石器なども出土しているが、近隣に採石場がないため、遠方との文化交流が示唆されている。

■アンデス道路網、カパック・ニャン
Qhapaq Nan, Andean Road System
アルゼンチン/エクアドル/コロンビア/チリ/ペルー/ボリビア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
南北4200kmに及ぶ大帝国を築き上げたインカ帝国。これを可能にした一因と考えられているのが、首都クスコを中心とした3万kmに及ぶ道路網カパック・ニャン(インカ道)だ。地方の情報や税となる特産物・財宝はこの道を通ってクスコに集められ、謀反が起これば軍を送り、天災等が発生すると支援部隊と物資を派遣し、中央集権化を進めた。道路には橋や階段、石畳、側溝など当時最先端の建築技術が導入されており、高山や森林、砂漠、ジャングルといった多彩な環境をつないでいる。

■ディキスの石球のあるプレ・コロンビア期の首長制集落群
Precolumbian chiefdom settlements with stone spheres of the Diquis
コスタリカ、文化遺産(iii)
20世紀はじめ、コスタリカの森林地帯で真球に近い石の球体、数百個が発見された。発見当時は「石をこんなに丸く切り出すのは不可能」とされ、ロスト・テクノロジー(現代でも再現できない失われた技術)といわれて話題になった。世界遺産に登録された4つの構成資産は、6~16世紀のプレ・コロンビア期に栄えたディキス文化の遺跡群で、当時の首長制社会の様子をよく示している。石球の目的は謎だが、最大のものは直径2.57m、重さ25tに及ぶ。
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