マーケティング/マーケティング事例

大島優子卒業コンサート生放送になぜCMが入ったのか?

AKB48を支えて来た大島優子さんの卒業ライブが生中継で放映されました。しかし途中でCMが入ってしまったことで、ソーシャルメディアを中心に、テレビ局への批判も多く見受けられます。なぜ、このような事態が起きたのかを、テレビ局の表裏から迫ります。

新井 庸志

執筆者:新井 庸志

マーケティングガイド

引退ではなく卒業を生中継するフジテレビの台所事情

 AKB48の大島優子さんの卒業コンサートがフジテレビで生中継で行われた。前田敦子さんと二人でAKBを引っ張って来た彼女の引退は、テレビ局にとっても大きなニュースということだろう。本来ならば芸能界引退でもなく、ただのグループ卒業というニュースにそれほどまでの放映価値はないはずなのだが、フジテレビはあえて卒業コンサートを放映した。
フジテレビ

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最近のフジテレビは右往左往している感がある。テレビと言えばフジテレビという1990年前後の黄金期を牽引した亀山千広さんが社長になった。その後、ダウンタウンの歌番組は消え、かつてのトレンディドラマの現代版ドラマが製作され、そして「笑っていいとも!」がなくなった。

テレビ番組だけではない。昨年まで「お台場合衆国」だった夏のイベントは「お台場新大陸」と名称を変更した。「笑っていいとも!」の後番組として苦戦している「バイキング」をイメージさせたのは、新生フジテレビを社内外に印象づける狙いもあるのだろう。しかし他局も攻勢を強めようとしている。今では視聴率でフジテレビの先を行くテレビ朝日も、六本木ヒルズで夏のイベントを開催する。まさにテレビ番組だけでなくイベントにおいてもフジテレビを圧倒しようとする勢いだ。

アナウンサー人気も徐々に変わって来た。かつて女子アナと言えばフジテレビのアナウンサーが人気上位に来た。今も人気の上位にはいるのだが、最も人気があるのは日本テレビの水卜アナだ。フジテレビのようにアイドルやタレントのようなキャラクターではなく、自分の隣にいる同僚や後輩、近所のお姉さんと言った雰囲気が視聴者に受けている。

番組においても、イベントにおいても、アナウンサーという面においても、最近のフジテレビはどうも世の中の流れを掴み損ねている。

広告主に配慮するテレビ局の本音

さて、先日の大島優子さんの卒業コンサート。生放送するのならば、生放送に対応したCMの入れ方、演出を徹底して欲しかった。ライブの生放送ならば臨機応変に対応しなければならないことがあるのも事前にわかっていたはずだ。

広告主がCM枠を買う際には、番組スポンサーとして買うタイムという買い方と、番組中や番組と番組の間の枠を買うスポットという買い方がある。タイムの場合には、ある特定の番組内でCMを流すため、番組の冒頭や終わりに「この番組の提供は○○がお送りします(しました)」というようになる。一方、スポットの場合には、どの番組の中でCMを流すのか、どの番組と番組の間にCMを入れるのかなどを決めて広告発注する。

タイムの料金は、番組提供金額を提示され交渉によって決まる。曜日時間帯という要素もさることながら、ドラマであれば誰が出るとか、話題性がどれだけあるとかという要素を加味して、相場金額と照らし合わせながら決まることが多い。一方、スポットの料金の決まり方は、過去の視聴率データに基づいて決まる。視聴率データを提供するビデオリサーチのある発行号の視聴率が参考になるため、料金は「オンエアしたい曜日時間の過去視聴率に、単価を掛ける」というものだ。単価とは東京、大阪、名古屋でも異なるし、放送局によっても異なる。

少し専門的な話になったが、言いたいことはこういうことだ。ある時間帯に流すべきCMを流さないということは、放送局が広告代理店と広告主との契約を無しにしてしまうということだ。広告主側からすれば、仮に10%の視聴率を見込んでいた曜日時間帯でのCMがオンエアされないということは、単純計算で1200万人の人に届くはずだったCMが届かないという計算になるのだ。こうなると、広告主は次回からオンエアする放送局を見直すようになる。そのテレビ局でオンエアしていたものを他のテレビ局に回すということも十分にある。テレビ局同士は広告主から出来るだけ多くのCM出稿をもらうことで必死だ。自局のCM扱いが減らされ、他局に回されるのは、何が何でも避けたいのが本音なのだ。

テレビ局の利益の源泉は、CM収入だ。だからこそ、視聴者に多少の批判が出ることをわかっていても、生中継の途中にCMを入れざるを得なかったのだ。今回の件は、テレビ局側が生放送で起きうる事態を想定し綿密に事前準備を整えておけば起きることのない事態だった。そうすれば、不必要な批判を受けることもなく、広告主からも視聴者からも高く評価されていたはずなのだ。
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