住宅履歴情報は、自宅の「使用価値を証明する資料」として活用できる
たとえばキッチンをリフォームした場合、その改修記録を残しておくことで、売却時に有益な情報ツールとしての活用が期待できる。
まず、専有部分を維持管理する主体者は区分所有者ですので、区分所有者が住宅履歴情報を自ら一元管理しなければなりません。具体的には次のような情報が該当します。
<住宅履歴として蓄積すべき情報の例/専有部分の場合>
- マンションのパンフレット
- 売買契約時の重要事項説明書、売買契約書
- 居室内にある住宅設備の取扱い説明書
- マンション管理規約・使用細則
- マンションの長期修繕計画
- 定期総会の議案書と議事録
- 管理組合から発行される「組合だより」といった組合活動についての報告書
- 室内の給湯器や水回りなど住宅設備に故障があった場合は、その故障内容および修繕の履歴
- 区分所有者が専有部分をリフォームした際は、その工事内容についての情報
ここで改めて、なぜ、こうした住宅履歴情報の蓄積が必要になるのか補足しておくと、その部屋の管理状態や使用状況が丹念に記録されていれば、その部屋を「売りたい」「貸したい」と思った際に、自宅の使用価値を証明する資料として活用できます。
誰しも、どのように使われてきたか分からない部屋に、好んで住みたいとは思いません。克明に住宅履歴情報が一元管理されていれば、その部屋を「買いたい」「借りたい」と考えている人に有益な判断材料を提供することができます。買いたい・借りたい人に安心感を与える情報ツールとして役立ちます。
大げさな表現をすれば、自動車の安全基準に適合していることを証明する「車検証」同様に、マイホームの“生い立ち”を証明するのが住宅履歴情報(=家検証)です。
共用部分の履歴情報は、管理組合と管理会社が協力しながら一元管理する
共用部分に関する履歴情報を作成・蓄積する理由もまったく同じです。専有部分と共用部分は不可分の関係ですので、専有部分だけの住宅履歴情報では不十分です。共用部分の住宅履歴情報もそろって初めて、分譲マンションとしての評価価値を証明できます。具体的には以下のような情報を、管理組合が管理会社と協力しながら一元管理しなければなりません。<住宅履歴として蓄積すべき情報の例/共用部分の場合>
- マンション分譲時のパンフレット、設計図書、竣工図書
- 業務を委託している管理会社の会社案内や業績などの資料
- 共用部分内にある各種共用設備の取扱い説明書
- マンション管理規約・使用細則(内容を改正した場合は、その改正内容の履歴も含む)
- マンションの長期修繕計画
- 居住者名簿(世帯主年齢や家族構成の変化、賃貸化率の変遷などの確認・記録)
- 理事会の議事録
- 定期総会や臨時総会の議案書と議事録
- 管理組合が発行する「組合だより」といった組合活動についての報告書
- 共用施設の定期点検の記録
- 共用施設の計画修繕の実施記録
- 共用設備に不具合があった場合は、その故障内容および修繕の履歴
- 区分所有者による管理費や修繕積立金の滞納状況
- 管理組合が金融機関から借入(借金)している場合は融資金額や残高、返済計画表
- 管理会社を変更した経歴があれば、その記録
「資産価値」を意識した管理組合運営が、これからは重要な意味を持つ
前ページで、「今こそ住宅選びの本質を思い出す時期である」と申し上げました。アベノミクスの効果により、デフレ脱却への糸口が見え始めてきたとはいえ、現状、バブル期のような住宅価格の上昇(=売却益の期待)は見込めません。自由な住み替えは容易ではありません。そこで、こうした過去の失敗(バブル崩壊や不良債権処理)を反面教師に、マイホーム検討者は「資産価値」を意識した物件選びをするようになりました。資産価値とは「売りやすさ」「貸しやすさ」と換言できます。
売ったり貸したりするには、その取引相手となる「買いたい」「借りたい」という人が存在しなければなりません。つまり、「買いたい・借りたいという人が多く存在する」=「人気がある」=「不動産マーケットでの評価が高い」――。こうしたマーケットでの高評価こそが資産価値向上の源泉となるのです。
分譲マンション市場において、人気の高さをバロメーターとした物件評価はさらに顕著になるでしょう。それだけに、マンション住民にとっても自宅マンションの資産価値を意識した管理組合運営が欠かせなくなります。資産価値を高める一法として、住宅履歴情報の作成・蓄積は有効な手段です。手付かずの管理組合は本稿をきっかけに、さっそく履歴情報の作成・蓄積に取り掛かってほしいと思います。