マネジメント/組織マネジメントとは

長期「戦略」が明暗を分けたトヨタ、日産の現況(2ページ目)

アベノミクス効果に沸く輸出産業ですが、自動車業界のツートップ、トヨタと日産の中間決算が明暗を分けています。その理由はどこにあるのか。短期長期、入りと払いという「戦略」バランスという考え方を、この実例に沿って解説します。

大関 暁夫

執筆者:大関 暁夫

組織マネジメントガイド

戦略に求められる短期、長期の両立

日産自動車の「戦略」的流れから見てみましょう。バブル経済崩壊後の90年代後半に、日産自動車は製品面での評価を落とし経営危機に陥りました。その危機を資本提携先ルノー社から乗り込んで立て直したのが、カルロス・ゴーン現CEOです。彼は「日産リバイバルプラン」をぶち上げ、主力の村山工場の閉鎖をはじめとした大胆なリストラ戦略を断行。同社は見事なV字回復を果たします。これは同社における「出を減らす戦略」でした。

短期的には爆発的な効果を発揮させることが可能なこの「出を減らす戦略」ですが、企業が長期的な成長曲線を描くためには適切な「入りを増やす戦略」の導入が不可欠になります。コストカットと並行してゴーン氏の下で描かれた同社の長期戦略は、時流を先読みしエコ路線を突き詰めたエコカー戦略「EV車(電気自動車)戦略」でした。

他方、トヨタ自動車のバブル経済崩壊以降はと言えば、お家芸とも言える無駄排除の「出を減らす戦略=トヨタかんばん方式」の徹底により一層の経費削減を進めるとともに、日産と同様にエコをキーワードにした「入りを増やす戦略」が模索されます。しかし同社の「入りを増やす戦略」は、より現実路線を歩む「ハイブリット車戦略」がその中核に据えられ、90年代後半にはいち早く主力車種プリウスが市場投入されたのです。

解説

まだまだ絶対数が不足のEVスタンド

現時点の業績面で両社の明暗を分けたのは、この長期的視点での「入りを増やす戦略」成否の違いにこそあったのです。トヨタのハイブリッド戦略はご存知のとおり絶好調であり、国内外で好調なセールスを続けています。一方の日産自動車の「EV車戦略」は国家規模での期待感こそ大きいものの、普及に向けては電源供給スタンド問題などまだまだ越えるべきハードルが多く存在しています。「17年3月世界で150万台」とした量産型EV一号車リーフの当初販売計画は、現時点で10万台にも達しない見込み違いとなり、達成期限を4年延長するという事態に陥りました。このことは同社の長期「戦略」策定ミスを如実に物語っているのです。

「戦略」策定においては、短期決戦的「出を減らす戦略」と長期的視野に立った「入りを増やす戦略」の両立が不可欠です。前者が立たなければ後者には行き着かず、前者が立っても後者が立たないなら息切れ必至です。この観点で申し上げるなら、現状の日産自動車は長期「戦略」の見直しを迫られている状況にあると言えるでしょう。
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