ベトナム随一の景勝地、世界遺産「ハロン湾」

ハロン湾と観光船

ハロン湾に浮かぶ観光船。中央左の船の帆は中国から東南アジアで使われていたジャンク船の帆を象ったもの。右上は船ではなく漁師たちの水上村落

大地が浮き沈み、風雨が彫り上げた大自然の彫刻・ハロン湾。林のように連なる1600もの奇岩から成る島々がうっすらと霧やもやの中に浮かび上がる姿は息を呑むほど美しい。また、島内にぽっかり口を開ける鍾乳洞は石灰華や鍾乳石で覆い尽くされており、それはまるで宝石のよう。

こうした大自然の美観から人々はこれらの島々を「竜が吐き出した宝玉」と呼び、この湾を竜が舞い降りる湾=ハロン湾と命名した。今回は幻想的な奇観が魅力のベトナム世界遺産「ハロン湾」を紹介する。

中国~ラオス~ベトナムに広がる大奇岩地帯

連なる島々と水上家屋

連なる島々と水上家屋。奇岩は桂林と同じタワー・カルスト(塔状カルスト)と呼ばれるもので、降水量の多い地方のカルスト台地に見られる地形だ

中国・桂林、陽朔の景観

無数のタワー・カルストが大地から屹立する中国・桂林、陽朔の絶景

中国南部からベトナム、ラオスにかけての大地には数多くの奇岩や洞窟が点在している。

もっとも有名なのは世界遺産「中国南方カルスト」に登録されている名勝・桂林だろう。風光明媚な景観の中に巨大な岩山が立ち並ぶ様は「すさまじい」のひとこと。同じ「中国南方カルスト」の石林は剣状の岩(カレンフェルト)が林立する奇観で知られている。

ラオスには「ラオスの桂林」の異名を持つバンビエンがある。桂林と似たダイナミックな景観ながらメコンの川岸に広がる熱帯雨林と奇岩のコントラストには独特の味わいがある。

 

ラオス・バンビエン

ラオス・バンビエンの景色。手前はメコン川。やはりタワー・カルストが確認できる

これと似た景色を持つのが「ベトナムの桂林」あるいは「陸のハロン湾」と呼ばれる世界遺産「チャンアン複合景観」のタムコックやチャンアンだ(後述)。そしてそのはるか南にはアジア最古の鍾乳洞を有する「フォンニャ・ケバン国立公園」がある。

実はこの辺りはかつて海だった土地で、海底が隆起して誕生した巨大なカルスト台地。そのため上記の景勝地はいずれも山間部にあり、奇岩の間を川がゆったりと流れている。

ハロン湾ももともとはそんな土地のひとつ。ところがあるとき土地が沈降をはじめ、やがてその多くが海に飲み込まれてしまった。

 

大地と風雨と波が彫り上げた大自然の彫刻・ハロン湾

ティエンクン洞窟の鍾乳石

ティエンクン洞窟の巨大な鍾乳石。まるでアールヌーボーのシャンデリア。70万年ほど前に誕生した洞窟で、つらら石・石筍・石柱・石花・カーテン・ベーコン・間欠泉など、さまざまな鍾乳石を楽しむことができる

ハロン湾の歴史を振り返ってみよう。

ティエンクン洞窟

ティエンクン洞窟。ちなみに、ベトナムの世界遺産「フォンニャ-ケバン国立公園」はハロン湾以上の規模と歴史を誇る洞窟地帯だ

ハロン湾がまだ海の中にあったのは2億5千万年前のこと。この時代に生物の死骸が海底に積もり積もって厚さ1kmもの石灰の層を作り出す。その土地が長い時間をかけて隆起して、陸地となってインドシナ半島の一部を形成した。

石灰岩を中心とするカルスト地形は容易に水を通し、とても溶けやすいという性質を持つ。川が流れると川底が溶けて谷となり、山は硬い岩を残して削られてタワー状、あるいは剣状の奇岩が彫り上げられる。

一方、地中に浸透した水は長い時間をかけて洞窟を掘る。そして洞窟では水に溶けた石灰がふたたび固まって、カリフラワーのような石花や、幕のような構造を持つカーテンやベーコン、針のように飛び出す曲がり石などさまざまな鍾乳石が形成される。特に、天井からポタリポタリと落ちる水からできたつらら石、地面に落ちた水滴から盛り上がる石筍、そして両者がつながった石柱は巨大な構造物となって現れる。

こうして何百万年もの浸食を受けてインドシナ半島の各地で奇岩&洞窟地帯が誕生したわけだが、ハロン湾周辺では11~12万年前から一転して大地が沈降を開始する。やがて地面は海に沈み、タワー状の奇岩のみがぽっかり浮かぶ現在の姿が完成した。

 

こうした島々は風雨に加えて波の浸食を受けてさらにダイナミックに変貌し、いまこの瞬間も留まることなくその姿を変えている。ハロン湾は生命体のように代謝を繰り返す地球の象徴ともいえる世界遺産なのだ。