好きなお酒を片手に、好きなジャズ楽しむ
お酒とジャズの関係
ポール・デスモンドの「ピュア・デスモンド」より「ジャスト・スクイーズ・ミー」
Pure Desmond
この曲は、ハーレムのスウィング王「デューク・エリントン」が自分の楽団のために作った曲ですが、モダンに入ってからもしばしば取り上げられ、マイルス・デイヴィスの名演などもあります。
ここでは、そのジャズスタンダードのこの曲が、まるでアルト奏者ポール・デスモンドのために書かれた曲かの様に聴こえるハマった演奏を聴くことが出来ます。
それにしても、ジャズのサックスほど、演奏者によって音色の印象がまったく違う楽器もありません。ポール・デスモンドとチャーリー・パーカー、デヴィッド・サンボーンでは、同じ楽器とは思えないほど違う音色です。
それでは、そのサックスの音色はどのように作られるのでしょうか。サックスは、金属の固まりの様ですが、分類は木管楽器です。人間の声に一番近いとも言われる音が作られる要素の中で、一番比重が大きいのが、マウスピースと呼ばれる先端の息を吹き込む部分です。
マウスピースは、サックスに装着させて使用し、キャップの部分は別として、マウスピース本体、リード(葦で出来た振動させる部分)、リガチャー(マウスピース本体とリードを固定させる金属部分)の三つに分かれます。
そのマウスピースのリードに、息を吹き込む事で、空気が振動しサックス本体を通り、いわゆるサックスの音色になります。音の要素に大きく影響するのは、マウスピース本体とリード、厳密にいえば本体とリードの間の開きと、リードの硬さによります。
特に、リードの硬さは、音色に直結します。一般的には、薄くて柔らかいリードの方が、よく鳴り、太いファットな音になり、厚くて硬いリードの方が、小さめのクリアでクールな音色になります。
このポール・デスモンドの特徴のある音は、硬いリードによって得られます。硬いリードを振動させるために沢山の息を吹きこむことによって、硬質でクリアな音色になるのです。
簡単に吹いているのではなく、むしろ懸命に音を作った結果が、このピュアなサウンドを生んでいる事を知れば、ショートグラスの強めのカクテル「ドライマティーニ」のようだと称された意味も理解できる気がします。
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チャーリー・パーカー「スウェディッシュ・シュナップス」より「スウェディッシュ・シュナップス」
スウェディッシュ・シュナップス+4
チャーリー・パーカーの絶頂期を録音した事でも有名な「ダイアルレコード」の創設者、ロス・ラッセルには労作、チャーリー・パーカーの伝記「バード・リヴス」があります。
そこには、胃潰瘍で入院したバード(チャーリー・パーカーの愛称)が、病院を抜け出し、寝巻のまま、彼の名を冠したライブハウス「バードランド」で、ついさっき発明したスコッチウイスキーのミルク割りをガツガツ飲んでいた、という話があります。
身体を壊して入院していたのにもかかわらず、バードのエピソードとしては、さもありなんと言ったものです。
ノルウェーの地元料理、ニシンのクリーム煮にピッタリのシュナップスは、アクアヴィットとも言い、アルコール度が高く、ボトルを凍らせておいても中身はドロリとしたホワイトスピリッツです。その刺激的な美味しさにハマッたバードが自分の曲名に用いないわけがありません。
この他にもバードの曲には、人や物の名前のついた題名が少なくありません。よほどヨーロッパ楽旅が嬉しかったのか、このCDと同じ頃の録音で「ビザ」や「パスポート」という題名の曲があります。その他にも「ムース・ザ・ムーチェ」(ムースと言う名の麻薬の売人)、「チチ」(知りあいのガールフレンド)、「バルバドス」(地名)など沢山あります。
そして晩年の代表作と言われる「ナウズ・ザ・タイム」では、「レアード・ベアード」(息子のベアード)、「キム」(義理の娘のキム)など、自分の子供の名前を曲名にしました。
麻薬と大量のお酒を常用し、人によって良くも悪くも自分の態度を変えていたと言われるバードですが、子供には愛情たっぷりだったというのは、素敵なエピソードの一つですね。
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ハンク・モブレー 「ハンク・モブレー・カルテット」より「アヴィラ・アンド・テキーラ」
ハンク・モブレー・カルテット
題名にあるアヴィラは、スペインの都市の名前。そして、テキーラはご存じメキシコの代表的な蒸留酒です。これはスペイン人から製造法が伝わったとされているスピリッツ。その因果関係にある都市とお酒の2つが題名になったこの曲は、ラテンタッチと4ビートがほど良くブレンドされた佳曲です。作曲したのはハンク・モブレーその人。
それでなくとも、どことなく臭味のあるテキーラとハンクのテナーは相性がぴったり。透明感のあるスッキリとしたポール・デスモンドとは対照的なコクがあり、パンチもあるハンクのテナーは、まさに情熱の酒テキーラ。このCDはハンクの記念すべきブルーノートデビュー第一弾。気のせいか、普段よりもバリッとした硬めの音で鳴るハンクのテナーが特徴的。
もしかしたら、大好きなテキーラを控えて、張り切って吹きこんだのかもしれませんね。そんな、想像が楽しい、初々しいハンクのテナーが楽しめます。
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オスカー・ピーターソン「ウイ・ゲット・リクエスツ」より「酒とバラの日々」
We Get Requests
この曲は「ザ・デイ・オブ・ワイン・アンド・ローゼズ」という原題で、夫婦そろってアルコール依存症に苦しむお酒の持つ残酷な一面を描いた映画の主題歌です。
その割には、明るい曲調で、ここでのオスカー・ピーターソンの演奏からも、その悲惨さは微塵も感じられません。テクニカルに軽快に演奏する事で、むしろ人間の弱さや小ささを表現しているかのようです。
「酒とバラの日々」は、ワインの種類くらい演奏されているスタンダードですので、深刻な内容の歌を小粋に呑みやすく、聴きやすく演奏する、このオスカー・ピーターソンから入って行くのが良い方法かもしれません。
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ワインで思い出すのが…
ワインで思い出すのが、テナーサックス奏者デクスター・ゴードンが自ら出演し、アカデミー助演男優賞の候補にまでなった映画 「ラウンド・ミッドナイト」です。ラウンド・ミッドナイト
もちろん役柄デイルの体を気遣っての事ですが、そこでのデクスターの演技とは思えないしぶい表情が印象的です。
この映画に出演する少し前の81年頃に来日したデクスターの演奏を郷里の会津若松で見ました。小さなコンサートホールでしたが、最初の三曲位をトリオで演奏して、随分たってからようやくあの映画通りのゆらーっとした足取りで袖から出てきたデクスターは、自らのMCで曲を紹介しながら吹き始めました。
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その時の曲が彼の代表作の「ゴー」よりの「チーズケーキ」。
ゴー!
どう見ても大酒飲みで、この時もおそらくはステージの袖で一杯やっていたであろうデクスターの代表作が「チーズケーキ」というのも可笑しいところです。
その時の演奏の出来がどうだったかは、正直あまり覚えていませんが、初めてみたジャズジャイアントの勇姿に、目の前のデクスターが現実とは思えない様な、不思議な感覚に囚われたのを憶えています。もしかしたら、大きなデクスターの大きなサックスからもれ出す、お酒の香りに、まだ未成年の私が酔ってしまったのかもしれませんね。
ジャズはお酒と同じ、覚えるまでに時間がかかるもの。たとえばビールのように、最初はこんな苦いものどこが美味しいのだろうかと思えたものが、今では、いつの間にか水よりも大事な存在に。もしかしたら、一筋縄ではいかないタフさが、ジャズとお酒に共通した大人の愉しみなのかもしれません。
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