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井手茂太最新作『麻痺 引き出し 嫉妬』インタビュー!(3ページ目)

コンテンポラリーダンス界の異彩・井手茂太さん率いるイデビアン・クルーが、この秋一年ぶりに舞台に登場! 最新作『麻痺 引き出し 嫉妬』を引っさげ、北九州と横浜の地を巡ります。ここでは、演出振付家であり、ダンサーの井手さんにインタビュー! 新作の行方と、その意気込みをお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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Q.井手さんのクリエーション法とは?

井手>まずは、タイトルからイメージがウワーッと上がってくる感じですね。そこからステージの空間をイメージすると、人が立った状態が浮かんでくる。動きよりも、まず人と人が立ってる姿が画になって、それをもとにキャスティングしていきます。とはいえ実際にクリエーションがはじまると、そのイメージ通りにはならないですけどね(笑)。人を乗せた瞬間に僕のイメージとは全然違ったりして、またそれも面白い。振付けをやって、人を動かしている内に、だんだん自分のやりたかったビジョンが見えてくる。だから、最初とはやっぱり違ってくるんです。

いろんな振付家の方がいるけれど、基本的にイデビアンのクリエーションの場合、僕が最初に振りを出します。もちろんまだ完璧ではなくて、“こういうカクカクした動きを”とか、“角の所でちょっと回ってみて”とまず提案して、そこでキャストがやったものに対して、“そこはこういう風にしよう”と言ってみたり……。勢いついちゃったら早いですね。そこからは、たいてい一気に行っちゃいます。


Q.井手作品の醍醐味でもある絶妙な“間”。あれは、どこから生まれてくるのでしょう?

井手>動いてる最中に、“今、ちょっと振り合ったよね?”って確認し合ったり、もしくは動きの中で一瞬客観的になってる自分がいたり……。やっぱり人間だから、所々に隙間が出来るというか、それが“間”になるのかなって思います。もちろん踊りをやってるグループなので、キレイにダーッと動いてるのをみせなきゃいけないというのもある。でも結局のところ、動いてるのは人間なんですよね。僕としては、箇所箇所で隙間を入れたくて。隙間を設けて、観ているお客さんが、“これは何なんだろう?”って疑問を持たせたいというか。といっても、あまりメッセージ性は強くないんですけど……。


Q.それもある種、井手作品の特徴ですよね。
メッセージ性や物語性はあまり打ち出さない方針ですか?

井手>ある程度はありますけど、あえてそれを言い通さない。言い通しちゃうと、本当にお芝居になっちゃうから。セリフがないストーリーになっちゃう。ストーリーというよりも、モチーフのような感じで整えていけたらなって考えてます。


Q.ユニークな舞台セットも見所のひとつです。
今回のセットはどんなイメージになるのでしょう?

井手>民家が舞台で、ひとつの家の中で起こる出来事のようなイメージでやりたいと思っています。普通のダンス公演って、何かのテーマがあって、斬新な美術のセットがあって、視覚的にもコンテンポラリーなものがあったりしますよね。だけど、僕は昔からあまりそういうのが好きじゃなくて。

この作品では、小劇場演劇の日本家屋のような雰囲気のセットを作りたいなと。“イデビアン、今回はお芝居やるの!?”っていうような(笑)。家族なのか兄弟なのか、お盆の季節に実家に集まったひとたちが、民家の居間で踊ってるようなイメージですね。


Q.日本家屋が舞台というと、2008年の『排気口』を思い出します。

井手>『排気口』は旅館でしたけど、今回はその民家版。あれよりちょっとコンパクトにした感じで、下北あたりの小劇場でやるような雰囲気を出したいと思ってます。衣装は普段着ですね。みんなが家に集まって、ご飯でも食べるシーンから始まるのかなっていうような……。『排気口』もそうだけど、僕の作品って少し昔の設定にすることが多いんです。でも、今回の舞台は現代に近い。今より5、6年くらい前の、つい最近の出来事というイメージですね。

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「排気口」2008年(C)青木司


Q.井手さんの作品には、独特のユーモアやシニカルな味わいを覚えます。その発想の原点とは? 日頃から常に作品のヒントを探している感じですか?

井手>家に帰るとクリエーションのことは考えないので、割り切ってるような気もしますけど……。考えちゃうと眠れなくなるから、あえて切り替えるようにしてるんです。でもやっぱりどこかに引っかかってるものがあるのか、テレビドラマを見ていても、気づいたらセットばかり見てたりしてますね(笑)。


Q.やはり、普通の人とは視点がちょっと違っているのでは?

井手>確かに、人と違う所を見てるって言われるのは日常茶飯事ですね。街中でも、自分の連れより周りの話の方が気になったり。カフェで隣の席の会話に聞き耳を立てて、“さっきからめっちゃ、めっちゃって言ってるけど、めっちゃってそんな流行ってるの?? もう30回言ってる。僕、ずっと数えてたもん!”なんて、おばちゃんみたいなことばかり言ってたりしてる(笑)。違いっていうと、そういうことなのかな? 

あと、行動がちょっとヘンっていうのはよく言われます。僕は天然温泉に入るのが趣味で、スーパー銭湯によく行くんです。それも、遠方の都心から離れた場所の方が穴場だと思ってひとりで出かけたり。だけど、現地まで行って、あそこだなって確認してまずお茶してると、何だかもうお風呂に浸った気になって帰ってきちゃう(笑)。本当に、電車賃の無駄! そうやって、よくわからないことはしてますね(笑)。自分でも、何でだろうと思うんですけど……。

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