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井手茂太最新作『麻痺 引き出し 嫉妬』インタビュー!

コンテンポラリーダンス界の異彩・井手茂太さん率いるイデビアン・クルーが、この秋一年ぶりに舞台に登場! 最新作『麻痺 引き出し 嫉妬』を引っさげ、北九州と横浜の地を巡ります。ここでは、演出振付家であり、ダンサーの井手さんにインタビュー! 新作の行方と、その意気込みをお聞きしました。

小野寺 悦子

執筆者:小野寺 悦子

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Q.この秋、北九州と神奈川で上演を迎える『麻痺 引き出し 嫉妬』。
ファンにとっては待望の新作になりますね。

井手>前回の公演は9月なので、約一年ぶりの新作になります。去年もやはり同じ横浜で上演したんですけど、新しくできたギャラリーのようなスタジオで、一か月間のロングランというスタイルを初めてやらせてもらいました。その時は三人だけのトリオ作品だったので、今回はいつもの大人数のキャスティングで、いつも通りにやろうと思っていて。なので、新作としては一年ぶりですが、通常のイデビアンのスタイルだと二年ぶり近くになりますね。


Q.タイトル『麻痺 引き出し 嫉妬』の意味、発想の由来とは?

井手>去年トリオ作品のリハーサルをしている最中に、まず“麻痺”っていう漢字二文字がイメージとして浮かんできて。というのも、群舞とはまた違って、トリオという少人数のメンバー構成で動きをつくっていると、どこか隙間ができてしまう。自分の引き出しから出てくるものが、非常に少ないのを感じたんです。“キミはこういう動きで……”なんて振付けていても、“それ前にもやったよ。井手ちゃん、その振り麻痺してるよ”なんて言われることがままあった。だから、麻痺といっても病的な意味とは違って、動きに対するもの。自分の行動に対して、麻痺してるということが何だか面白いなって思ったんですよね。そこで、最新作は“麻痺”をコンセプトにつくっていこうと……。

振付家によって、やっぱりパターンってあるじゃないですか。昔こういう風に動いてたなとか、いろいろ思い出してやってみたいなと。でも実際に過去の作品の映像を見ながら動いてみると、今の自分にしっくりこない。やっぱり歳を取ったというのもあるし、その時代に振付けたダンサーの、その時々の新鮮さというものがある。今やってみると、またちょっと違う形にみえるんじゃないかって、今度はそこに面白みを感じてきた。

その一方で、当時どうしてこの振付けをしたんだろうって思う部分も多くて、自分の中の引き出し観みたいなものがわからなくなってしまったんです。どれも僕自身が発想してきたものなんだけど、昔はパッとできてたものが、なんで最近できないんだろうって考えた時に、必然的に“ちくしょー!”って、自分に対する嫉妬がこみ上げてきた。それで、“麻痺、引き出し、嫉妬”にしようと。この三つをつなげてみると、たまたま“しりとり”になってる。それも可笑しいなと思って(笑)。

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Q.昔の自分への嫉妬心とは、新鮮さに対する渇望? 経験値が増えすぎて、求める基準が高くなっているということでしょうか?

井手>そうなんですよね。青いながらも強いものって、やっぱりあるじゃないですか。僕はデビューが早くて、24~25歳くらいから振付けをはじめたんですけど、当時は一年に二~三本くらいボンボン余裕でつくってた。でも歳を取ったせいか、最近はそういう勢いがなくなって。何かしようと思っても、行動までいかないというか、頭の中で解決しちゃう。ヘンなところで利口になった自分がいるんです。なんか、イヤな大人になっちゃったなと(笑)。

あと昔と比べて、言葉のボキャブラリーが少なくなっているのも感じます。例えば振りを説明するときに、“こう粘土をこねて、ろくろを回してるようなイメージで……”なんて言葉を使って表現していたものが、自分の中のセリフのバリエーションが減ってきた。いい大人になっちゃって、“こうきて、こんな感じ。こうね、もうわかるでしょ?”で済ませたり(笑)。

イデビアンのメンバーはそれでもいいけど、外部に振付けるステージ、特に役者さんに対してそういう接し方は通じない。やっぱり役者さんとダンサーではテキストが違うから、“ここはどういう意味ですか??”ってとことん追求されちゃう(笑)。それでも昔は頑張って言葉で説明してたんですけど、近頃はもう“取りあえずこうやってください! いいですから、意味は追求しない!”なんて言ったりしてる(笑)。でもやっぱり気持ちから入らないとできないという役者さんもいて、そのひとに対してどうやって伝えたらいいかわからなくて……。まぁ、もともと言葉が苦手だったので、こういうことをやってるのかなとも思うんですけど。


Q.今回のメンバーは、逐一説明しなくても理解してくれそうですね。

井手>10年以上一緒にやってるメンバーですからね。すぐできちゃう。“こうやってこう”って、ちょっとやってみせるだけで理解してくれるんですよ(笑)。


Q.できてしまうものを、あえて壊してみたい、という意識はありますか?

井手>それはありますね。どっちみち、最終的には壊すんです。ダーッと色を付けておいて、そこからまたグチャグチャーッてしちゃう(笑)。変えるとしたら、小さなものですよね。照明や衣装との絡みもあるし、各ポジションのひとに迷惑をかけない程度のこと、楽屋でできることはギリギリまで変更します。

ウチのメンバーはもうそれがわかっているので、最初から振りもラフに覚えてる。だから、外から見ると“イデビアンのダンサー、やる気ないな”って感じるかもしれません(笑)。みんなはじめはうっすら覚えておいて、最終的に“あ、これイキてるのね”“これはナシなんだ”っていうのを、ひとりひとりがコントロールしていくんです。よくついて来てもらってますよね。みんなに感謝です(笑)。


Q.イデビアンのメンバーは、井手さんにとってどんな存在ですか? 
家族? それとも仲間?

井手>ウチはクルーと言いつつ、いい大人の拠り所みたいな感じ(笑)。普段は個々に活動してて、何かある時だけ集まるといった、家族的な付き合いですね。仲間でもあるけど、普段はめったに合わない。だけどこうやって、公演の時にはパッと集まる。なので、がじがらめで“仲間だ!”とか、“やるぞーっ!!”ていうのはあまりなくて。

僕自身、基本的に個人主義者なので、そんなにベッタリ人といたくないというか(笑)。あまり飲みに行くこともないし、たまに行ったとしても2、3人欠けていたりと、全員は集まらない(笑)。ツアーに行っても、現地の行動はみんなバラバラだったり。全員集まるのは、舞台の上だけ。みんないい加減大人なので、まぁラクと言えばラクですよね(笑)。

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    井手 茂太 さん



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