ジャズ/シチュエーション別おすすめジャズ

秋の長雨にじっくりと聴きたいジャズおススメ3選

夏は、とにかく開放的な気分で、レジャーに仕事にすべてが忙しく、気がつくとついつい無理をしがちです。夏の間にたまった心と体の疲労を、初秋に続く秋の長雨は静かに押し流してくれるかのようです。そんな時こそ、少し外出は控えて、じっくりと好きなジャズに浸るのはいかがですか。今回は秋の長雨の季節に、じっくり聴きたいジャズ(JAZZ)をご紹介いたします。

大須賀 進

執筆者:大須賀 進

ジャズガイド

今や真夏の風物詩のようになった七、八月の「ゲリラ豪雨」とは違い、この九月には「秋の長雨」と呼ばれる風流な雨があります。特に関東より北の地方は梅雨よりも降雨量が多いそうです。

この時期、夏の疲労がたまった心と体をいたわるように、たまにはひっそりと部屋にこもってみるのも良いでしょう。雰囲気のあるジャズでも聴きながら、自分の内面と対話するのも良いかもしれません。今回はそんな秋の長雨にじっくり聴きたいジャズ(JAZZ)をご紹介します。
 

ジョージ・シアリング 「九月の雨」より「九月の雨」

 
九月の雨

九月の雨

ヴィブラフォンとピアノのユニゾンで奏でられるロマンチックなテーマから、サビに入るとピアノ奏者ジョージ・シアリングのピアノソロになります。そのピアノの音が、まるで雨どいを忙しくたたく雨のように聴こえます。

ジョージ・シアリングはナイトの位を持つ盲目のピアニスト。イギリスに生まれた彼は大西洋を渡り遠くアメリカの地で大成功をおさめます。

そのせいか彼の音楽はロマンチックなだけでなく、大胆な激しさも持ち合わせています。その上、彼は有名なジャズスタンダード「バードランドの子守唄」(ララバイ・オブ・バードランド)の作曲者でもあります。

盲目と言うハンデを背負いながらも勇気をふるいアメリカに渡り成功した彼に、生まれ故郷のイギリスは大英帝国勲章の将校の位(オフィサー)とナイトに任命しました。

そんなジョージの演奏は、甘さと厳しさが絶妙にブレンドされた、ナイトにふさわしい颯爽たる趣があります。体調とともに落ち込んだ気持ちをやさしく奮い立たせてくれる演奏です。

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西條孝之介 「リザレクション」より「ヒアズ・ザット・レイニー・デイ」

 
リザレクション

リザレクション

この曲「ヒアズ・ザット・レイニー・デイ」は雨の日の失恋を歌った1953年のスタンダードソングです。フランク・シナトラの十八番だったこの曲ですが、ここでは日本を代表するクールテナーサックス奏者、西條孝之介を聴いてみましょう。

この「リザレクション」というCDは、「日本のスタン・ゲッツ」と言われ、オーソドックスなサックスプレイに定評がある西條が、前衛的ともとれる表現に迫った異色作です。

この録音当時1974年のジャズ界に現れてきた「フュージョン」という新しい流れ。60年代のフリー・ジャズを経て、聴きやすい音楽に流れていったジャズ界の風潮にあえて逆らう様に、ここでの西條のプレイはラジカルにすら響きます。

レコード会社からの指示は「バラード中心で聴きやすいもの」と言う事だったとされていますが、西條他メンバーの方向性は、聴きやすいと言うよりもむしろ自分たちの当時の表現したい音楽に向かったものです。

リーダーの西條はもちろん、ピアノ奏者の前田憲男などスタジオワークもこなす腕達者ぞろいのメンバーですので、聴きやすさを追求すれば容易に出来たはず。そこをあえてこの方向へ向かったのが、快演を生みだす結果となりました。

それだけに、正直曲によっては、その意気込みが少し空回りしている演奏もあり、全曲オススメとはいきませんが、この一曲目の「ヒアズ・ザット・レイニー・デイ」は、異様な迫力のある名演です。

まるでビルの高層階のギリギリのところに立っているかのようなスリル。落ちそうで落ちない、切れそうで切れない、でもこの先どうなるかわからない行き詰るような切迫感を感じさせます。

これは、ひとえに当時の西條及びメンバーの音楽に対する真摯さからゆえ。その武骨さ、ある種の真面目さには、聴く側も襟を正して、向き合わなければいけない気がしてきます。

冬枯れになってしまう前の初秋の雨の日に、我が身を振り返って、自分の人生について考えてみる。そんな大切な時間にじっくり聴きたい。そう思わせるような緊張感にあふれた演奏です。

そういう目で見ると、ジャケットも、現状から何とかして飛び立たんとしている自分の姿に投影でき、秀逸。

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バルネ・ウィラン 「French Movie Story」より「シェルプールの雨傘」

 
French Movie Story

French Movie Story

この「シェルプールの雨傘」を作曲したのが、フランスにおいて映画音楽の巨匠としてゆるぎない地位を誇るミッシェル・ルグランです。

彼は、その巨匠としての顔の他にジャズの分野でピアノやアレンジャーとしても活躍、1958年にはジョン・コルトレーンなどを配したマイルス・デイヴィスとの「ルグラン・ジャズ」を発表しているほど、本格的にジャズと関わっています。

そのミッシェルと同じフランス人のテナー奏者バルネ・ウィランは、ここでは甘いこの曲をあえて突き放したビターなサウンドで演奏しています。その感情移入を廃したそっけなさが、むしろ強烈にフランスの匂いを感じさせる事になり、終わった後にまたかけ直して、幾度となく聴いてしまう不思議な魅力をこの演奏にもたらしました。

聴きこむほどにドラムのエディ・ムーアのトップシンバルの音が雨音のように聴こえてきます。さらにピアノのマル・ウォルドロンのソロが、決して流暢とは言えない独自のスタイルで、雨の日の少し憂鬱な気分を表しているかのようです。

そこは酸いも甘いも噛み分けた、人生の滋味を思わせる世界。この魅力に囚われたのならば、あなたはきっと、この曲とバルネ・ウィランが好きになるはずです。

さあ秋の長雨のシーズン、我が身を振り返る自分の内面への探求の旅はいかがでしたか。あなたの心に、ご紹介したジャズが届く事を祈ります。それではまた、次回お会いしましょう!

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