将棋も目と手で覚える?
学習は目と手が基本
「漢字は読むだけじゃなく、書けなきゃダメ」
厳しいお言葉である。しかし、先生は次のようなアドバイスも忘れなかった。
「漢字は、目と手で覚えるものです」
そう……。しっかり見て、書いて書いて、ひたすら書いて、目と手で覚えろと言うのだ。漢字だけでなく、学習一般に通用する言葉だろう。
さて、話を将棋に移そう。
書けたらお得な棋譜記録
棋譜取りをする子ども/ガイド撮影
その上で、私は付け加えたい。小学校の先生のように、厳しくは言えないが、こうは言えるのだ。
「棋譜は読むだけじゃなく、書けたらお得」
新聞社や日本将棋連盟の支部などが主催するアマチュア将棋大会は全国各地で行われており、その多くが、観戦自由である。つまり、あなたは、地元のアマ強豪の将棋を目の前で見ることができるのだ。
また、テレビの将棋番組で放送されるプロ対局もあなたの目の前で繰り広げられる名勝負だ。あっと驚くような手が出るかも知れない。プロや強豪ならではの、うなるような手だってあるだろう。さて、ここで、もし……である。
もし、あなたが棋譜を書くことができれば、その素晴らしい将棋を記録することができる。そして、そっくりそのまま再現することができる。筆記具とメモ用紙だけで、あなたはプロやアマ強豪の将棋を手に入れることができるのだ。そうすれば、棋力アップ間違いなしだ。ちなみに、棋譜を記録することを「棋譜を取る」とも言う。この言葉も覚えておこう。
アプリ記録との違いとは
携帯やスマホの将棋関連アプリには対局を記録できるものもある。見ているままを、アプリの画面で駒を動かし、記録していくのだ。大変、便利である。多いに活用していただきたい。「なあんだ、それなら棋譜を記録する技術はいらないじゃないか」と思われる方がいるかも知れない。だが、そうではない。説明しよう。駒の動きを棋譜に記号化し、記録すると、右脳と左脳の両方を働かせることになるのだ。少し補足しよう。右脳には「イメージを認識する」、左脳には「記号化して考える」という得意分野がある。観戦はイメージ認識であり、棋譜記録は記号化そのものだ。
棋譜を自分の手で記録すると、脳をフル稼働させることになり、その将棋の印象度が深まり、記憶にしっかりと刻み込まれるのだ。アプリは便利だが、この記号化作業がないために、イメージ認識だけになってしまうという恐れもある。棋譜記録の技術とアプリ、両方をうまく使っていくことも、考えてもらいたい。
小学校の先生が「目と手で」と言っていたのは、実は、この右脳と左脳の連携を意味していたのだ。では、もう一度、先生の言葉を拝借しよう。
「棋譜は、目と手で覚えるものです」
覚えておきたい速記術
覚えておきたい棋譜速記術
つまり、棋譜記録には正確さだけではなく、スピードも必要なのだ。安心していただきたい。会議の議事録に速記術があるように、棋譜取りにも速記術がある。これさえ覚えていれば、鬼に金棒だ。そこで、今回は、その速記術をガイドする。ただ、ここで断っておきたい。これから紹介する速記法は、あくまで一つの例であり、もし、あなたが、もっと良い方法を思いつけば、その方法で棋譜取りをすれば良いのである。新技術を考案した方は、ぜひガイドに知らせてほしい。
ネックは駒の漢字
これからガイドする棋譜速記術は「将棋世界」という雑誌の付録「93年版・将棋ルールブック/著者:堀口弘治六段」にも紹介されたことのある速記法である。ぜひ、覚えてほしい。ちなみに、私は、所属する大分県将棋連合会で、この方法を学び、実際に利用している。その経験から、非常にすぐれた速記法だと思っている。さて、正式な棋譜は「1.どちらが指したか、2.どのマスへ動いたか 3.どの駒が動いたか、4.補足」の4つの要素で記録されていく。具体的な例で言えば「1.▲、2.6三、3.金、4.左」つまり「▲6三金左」という具合だ。
速記術では、4つ要素をどのように記録していくか。順を追って説明しよう。
1.どちらが指したか
これは省略する。なぜなら、将棋は先手、後手と交代に指していくので、奇数番は先手、偶数番は後手に決まっているからである。順番通りにメモしていけば、これは、省略できる。
2.どのマスへ動いたか
正式には縦(列)をアラビア数字で表し、横(行)を漢数字で表す。だが、漢数字は、どうしても記述が遅くなる。そこで、速記術では両方ともアラビア数字で書く。
3.どの駒が動いたか
実は、正式表記では、これが一番時間がかかるのである。なにせ、駒はすべて漢字で表記されているからだ。「銀」など14画もある。これでは、遅くなって当然だ。そこで、駒はすべて記号で書く。具体的に紹介しよう。
「王」はアルファベットの「O」をイメージして表記する。赤い四角の中がそれだ。
「飛」と「竜」は最初のカタカナ1文字で表す。
「飛」は「ヒ」。
「竜」は「リ」だ。
「馬」は音読みのカタカナ「マ」。
「成銀」は、それにカタカナの「ナ」をつける。
「成桂」は、カタカナの「ナ」をつける。
「成香」はそれに「ナ」を加える。
「と」は一筆書きのひらがなで表す。これは、「飛」の略字の「ヒ」と混同しないためだ。
駒の動きを表す補足説明がある。「右」「左」「上」「寄」「引」などがそれにあたる。
これは、すべて矢印で表す。指した側から見た駒の動きを記述するのだ。
「不成」は元の駒のままなので記号の後ろに「= (イコール)」をつける。
「同」は「-」で表す。
実践例の紹介
右図は私がメモしたものである。これが、今回ガイドした速記術を用いた棋譜の実例だ。ちなみに正式に書けば下記のようになる。▲7六歩 △3四歩
▲2六歩 △4四歩
▲4八銀 △4二銀
▲5八金右 △6二銀
▲6八玉 △3二金
▲2五歩 △3三銀
いかがであろうか。速記術の速さが理解いただけたのではないだろうか。今回ガイドした「速記を用いた棋譜取り」を、あなたも実践で試していただきたい。そして、棋力向上に役立てていただきたい。あくまで私の実感としてだが、棋譜取りができるようになれば上級位者、あこがれの初段が近いのではないかと思う。ぜひぜひ、がんばって習得していただきたい。
【関連記事】