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2013年新登録の世界遺産(3ページ目)

2013年6月、新たに19件の世界遺産が誕生し、世界遺産総数は981件となった。日本の物件では「富士山」が「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」と名称を変えて登録に成功し、17件目の世界遺産となった。今回は新登録の世界遺産全リスト(解説付き)、拡大された世界遺産、危機遺産リストの変更点等、第37回世界遺産委員会の概要を紹介する。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

2013年新登録の世界遺産全リスト 前編

「ラジャスタンの丘陵城砦群」のジャイサルメール城塞

インドの世界遺産「ラジャスタンの丘陵城砦群」登録のジャイサルメール城砦。内部はヒンドゥー教の神々を象った彫刻や、イスラム紋様アラベスクの影響を受けた繊細なレリーフで装飾されている

2013年に登録された新しい世界遺産19件と、拡大された世界遺産3件をすべて紹介しよう。リストは文化遺産・自然遺産・複合遺産で分けられており、各遺産内はヨーロッパ→アジア→オセアニア→北アメリカ→南アメリカ→アフリカの順番で表記した。

なお、世界遺産の日本語名はガイドによる適当な訳なので参考程度のもの。世界遺産とは、世界遺産リストに記載された物件を示し、そのリストは英語とフランス語で書かれている。併記の英語名が正式名称だ。

<文化遺産>

■メディチ家のヴィラと庭園群
Medici Villas and Gardens
イタリア、文化遺産(ii)(iv)(vi)
トスカーナ州に建築されたメディチ家の12のヴィラ(別荘コンプレックス)と2つの庭園からなる物件。いずれもイタリア・ルネサンスの傑作で、自然美と人工美が融合した文化的景観は美しく、中世ヨーロッパの宮殿・庭園建築に大きな影響を与えた。構成資産にはカレッジ、フィエゾレ、カステッロ、カファッジョーロ、ポッジョ・インペリアーレ等のヴィラやボーボリ庭園、プラトリーノ公園、セラヴェッツァ宮などが含まれている。

■タウリカ半島の古代都市ケルソネソスとその農業後背地
Ancient City of Tauric Chersonese and its Chora
ウクライナ、文化遺産(ii)(v)
古代ギリシアの人々はクリミア半島をタウリカ半島と呼び、その地に入植市ケルソネソスを築いて黒海貿易を牛耳った。ケルソネソスの背後には肥沃な大地が広がっており、そこから供給される豊富な食糧を背景に、15世紀にオスマン帝国に支配されるまで約2000年の繁栄を勝ち取った。世界遺産には都市遺跡と農業遺跡が登録されており、ギリシア、ローマ、ビザンツ(東ローマ)といった文化の影響と変遷を見ることができる。

■ヴィルヘルムスヘーエ公園
Bergpark Wilhelmshohe
ドイツ、文化遺産(iii)(iv)
1689年にカール方伯がバロック庭園を建設し、その孫ウィルヘルム1世が発展させた壮麗な公園。頂上にそびえるのがカッセル市の象徴・ヘラクレス像で、ここの集水池から落ちる水の力を利用して、階段滝=グラン・カスケードやシュタインホーファー滝、高さ50mにもなる大噴水といった「水の劇場」を演出した。こうしたイタリア式庭園の要素と同時に、フランス式庭園の平面幾何学的な要素や、山や渓谷といった自然景観を取り入れたイギリス式庭園の要素を併せ持っている。

■ヴィエリチカとボフニャの王立岩塩坑群
ヴィエリチカとボフニャの王立岩塩坑群

ポーランドの世界遺産「ヴィエリチカとボフニャの王立岩塩坑群」登録のボフニャ岩塩坑

(「ヴィエリチカ岩塩坑」の拡大)
Wieliczka and Bochnia Royal Salt Mines
ポーランド、文化遺産(iv)
1978年登録の世界遺産「ヴィエリチカ岩塩坑」の拡大、名称変更。これまでの岩塩坑に加えてボフニャ岩塩坑とヴィエチリカ製塩所を追加した。ボフニャ岩塩坑はヴィエチリカ岩塩坑の20km東にあり、地下70~261mの間に8層約3.6kmの坑道が広がっている。13世紀に開発が始まった岩塩坑で、内部には地下都市が広がっており、いくつもの教会やギャラリー、店舗などが造られた。ヴィエリチカ郊外に立つ製塩所は岩塩坑の管理者たちが暮らす住居、城壁、製塩所、監視塔等を備えている。
■ポーランドとウクライナにあるカルパチア地方の木造聖堂群
Wooden Tserkvas of the Carpathian Region in Poland and Ukraine
ポーランド/ウクライナ、文化遺産(iii)(iv)
カルパチア山中に残された16~19世紀建造の木造聖堂16棟(ポーランド8件、ウクライナ8件)を登録した物件。丸太を組み合わせた建築法や木造のイコノスタシス(イコンで覆われた木製の壁)、宗教画がユニークであるだけでなく、敬虔なキリスト教徒たちが生み出した文化は現在に引き継がれ、同様の木造建築はいまだに住居として使用されている。ポーランドの「南部小ポーランドの木造教会群」やルーマニアの「マラムレシュ地方の木造教会群」への拡大登録も検討されたが、独立しての登録となった。

 

■コインブラ大学-アルタとソフィア
University of Coimbra - Alta and Sofia
ポルトガル、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)
1290年、ディニス1世によって創立したヨーロッパ最古の大学のひとつ。14世紀に大学はリスボンとコインブラを行き来するが、1537年に現在の場所に落ち着いた。大学は王国繁栄のための帝王学を学ぶ場であるというルネサンス式の思想を体現した大学で、16世紀にはアルカソヴァ宮殿内に設置された。修道院や教会も併設され、イエズス会による最初のキリスト教大学としても機能した。世界遺産には丘の上のアルタ地区と、下に広がるソフィア通りの2エリアが登録された。

■ゴレスタン宮殿
Golestan Palace
イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)
カージャール朝を建てたアーガー・ムハンマド・シャーが1795年に首都テヘランに建設した宮殿。19世紀後半、ナセル・アッディーン・シャーが改修を行った際にはペルシアらしいモザイク、化粧漆喰、象眼細工、彫刻等で飾り立てるだけでなく、ステンドグラスやシャンデリアといったキリスト教建築や、鏡の間に代表されるようなインド建築をも取り入れて、壮麗な宮殿を完成させた。パフレヴィー朝の時代に一部が破壊・改築されたが、8棟の宮殿と庭園が世界遺産に登録された。

■ラジャスタンの丘陵城砦群
Hill Forts of Rajasthan
インド、文化遺産(ii)(iii)
インド西部、ラジャスタン州の砂漠地帯には8世紀からラージプート族が住んでおり、ヒンドゥー教を主体とした独自の文化を築いていた。インド、ペルシア、トルコをはじめ種々の民族が行き交う要衝であったため、丘陵地帯に堅固な城塞を築いてオアシス都市群を築き上げた。8~13世紀にはプラティハーラ朝を中心にインドを広く支配してラージプート時代を築いた。世界遺産に登録されたのはチッタウルガル、クンバルガー、ランタンボール、ガグロン、アンバー、ジャイサルメールの6城砦。

■ズバラの考古遺跡
Al Zubarah Archaeological Site
カタール、文化遺産(iii)(iv)(v)
カタール初の世界遺産。ズバラは首都ドーハの北西約90kmにあった小さな港町。ところが18世紀後半に真珠貿易で注目されるとペルシア湾はもちろんインド洋や紅海、ヨーロッパにまでネットワークを広げ、高品質の真珠を輸出して大いに栄えた。しかしその繁栄は50年ほどしか続かず、街は1818年に破壊されると一気に衰退し、20世紀には完全に放棄された。その後、砂漠に覆われてしまったため、城砦や港湾施設、モスク、住居跡、運河といった遺構がよく保存されている。

■開城(ケソン)の歴史的建造物群と遺跡群
Historic Monuments and Sites in Kaesong
北朝鮮、文化遺産(ii)(iii)
918年、高麗を建てた太祖・王建は故郷に城壁を張り巡らせると、王宮を築いて首都・開州(開城)を築く。936年には新羅、百済を破って朝鮮半島を統一。以来1392年まで開城は高麗の首都として繁栄する。高麗は仏教を庇護し、儒教と一体化した独自の思想や文化を発展させ、現代に引き継がれる朝鮮文化に大きな影響を与えた。世界遺産には、王宮基壇である満月台、天体観測施設・瞻星台をはじめ、表忠寺、南大門、善竹橋、王建陵、恭愍王陵など5地区12件が登録された。

■紅河ハニ棚田群の文化的景観
Cultural Landscape of Honghe Hani Rice Terraces
中国、文化遺産(iii)(v)
雲南省の紅川南部にはハニ族が1300年をかけて切り拓いた約3000もの棚田群が広がっている。棚田は森林に抱かれた山々の斜面に築かれており、水路によって運ばれる山の水や養分によって持続可能な農業を実現した。水田で赤米を栽培するだけでなく、ウシやブタ、アヒルなどの家畜やウナギなどの魚も飼っており、それらがタンパク源になるだけでなく、棚田を維持にも役立っている。自然と調和した文化的景観は美しく、自然とともに生きる生活は独自の宗教・哲学を生み、個性的な文化を発達させた。

■富士山-信仰の対象と芸術の源泉
葛飾北斎「富嶽三十六景-神奈川沖浪裏」

葛飾北斎「富嶽三十六景-神奈川沖浪裏」。ゴッホの作風に大きな影響を与え、西洋絵画の可能性を広げた

Fujisan, sacred place and source of artistic inspiration
日本、文化遺産(iii)(vi)
自然のあらゆる場所に神を見る日本の宗教観や、自然の美を抽出して絵や庭園や建物に描き出す日本の芸術の中心には、いつも富士山があった。富士山は神道の浅間大神(アサマノオオカミ。木花開耶姫=コノハナノサクヤヒメ)、仏教の浅間大菩薩の化身とされ、人々は遠くから拝んだり(遥拝)、山頂に登って祈りを捧げた(登拝)。また、その美しい円錐形は人々に強いインスピレーションを与え、「富嶽三十六景」「富士三十六景」に代表される芸術・文化に大きな影響を与えた。
■レブカの歴史的港湾都市
Levuka Historical Port Town
フィジー、文化遺産(ii)(iv)
フィジー初の世界遺産。1874年にイギリスに割譲されたレブカはフィジー初の植民都市として整備され、南太平洋の貿易拠点として発展した。ヨーロッパとフィジー双方の文化が融合しており、木造平屋・トタン屋根でバンガロー・スタイルの家々がユニークな街並みを演出している。中心に立つ大聖堂はゴシック・リバイバル式で、隣接する塔はレブカのランドマークとなっている。1860年代後半に建築されたロイヤル・ホテルは南太平洋に建設された最古のホテルだ。

 

■レッド・ベイのバスク人捕鯨寄港地
Red Bay Basque Whaling Station
カナダ、文化遺産(iii)(iv)
レッド・ベイは、セントローレンス川の栄養豊富で冷たい水流と、暖流であるラブラドル海流が混じって豊かな生態系を形成しており、多彩な魚類や鯨類が集まることで知られている。16世紀、フランス・スペイン国境に住むバスク人たちは大西洋を越えたこの地に捕鯨基地を建設し、港や住居、製油場、輸送施設、墓地などを造って鯨油を生産・輸出した。海中にはクジラの骨や沈没船が理想的な状態で残されており、これらも当時の生活・生態系を示す重要な遺物として研究対象になっている。

■アガデス歴史地区
トンブクトゥのサンコーレ・モスク

マリの世界遺産「トンブクトゥ」のサンコーレ・モスク。トンブクトゥもやはりトゥアレグ人の都市で、このモスクもスーダン式だ

Historic Centre of Agadez
ニジェール、文化遺産(ii)(iii)
アイル山地のアガデスはサハラ交易を担ったトゥアレグ人のオアシス都市。サハラ南端に位置し、サヘルと砂漠をつなぐ玄関口として発展し、塩の貿易で繁栄した。歴史地区には15~16世紀に造られた日干しレンガや土造りの家並みが残されており、砂漠の日射しに耐えるため窓を小さくしたり、壁に泥を塗ったりといった工夫が独特の景観を作り出している。大モスクのミナレットはヤシ材の骨組みを積み重ねて日干しレンガと泥で覆ったスーダン式の建物で、その意匠が非常にユニークだ。

 
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