伝統を追い越すのにも、伝統のノウハウが必要!

クレム1925

サフィールの高級ゾーン「ノワールシリーズ」を代表する、シアバター配合の「クレム1925」です。名作「エクストラファインクリーム」の性能を更に進化させた、プレミアム靴クリームの代名詞的存在です。全12色。税込各1785円(株式会社 ルボウ お客様相談室 0120-11-3638)


飯野がこのガイドになってもうすぐ7年になります。おかげさまでさまざまな靴関係のところに取材に行けたのですが、中には久々のうれしい再会となる場合もございます。今回は典型的なそのケースです。「サフィール(Saphir)」ブランドを持つフランス・アベル(AVEL)社のマーク・ムーラ(Marc MOURA)社長に、彼が大型連休前に4年半ぶりに来日した際に再びお目にかかれる機会に恵まれたのです。そこで改めて色々とお伺いするのを通じて、ここのシューケア用品の魅力を今まで以上に探ってみましょう!

飯野:サフィールの高級ゾーンである「ノワールシリーズ(Saphir Noir。黒地に金色で“Saphir”と書かれている製品)」で、2010年に看板商品だった「エクストラファインクリーム」が「クレム1925(CREME 1925)」にリニューアルされましたよね。あの時は非常に驚いたと共に、使い心地の進化に感動しました。伝統ある商品の改変には相当な決断が必要だったのではないでしょうか。

マーク氏:そうですね、「エクストラファインクリーム」は他社製品の追随を許さぬ最高級品としての評価が完全に定着していただけに、「クレム1925」へのリニューアルには確かに勇気が要りましたが、自信はありました。私どもの商品は何でもそうなのですが、製品化に際しては「こんな商品があるといいのだが……」をしっかり探り、テストや検証を徹底的に行った上でGOサインを出す伝統が引き継がれているからです。「クレム1925」はお陰さまで、世界的に前作以上に高い評価を頂いております。

飯野:伸びと革への浸透性が格段に良くなった一方で、従来のものには時折表れていた過度なギラ付きは無くなって、腰の据わった光沢が出るようになったと思います。

マーク氏:やはりシアバターの配合は正解だったと思います。これまでのものも他社の商品より浸透性がありましたが、今回のリニューアルでそれが一層高まりました。ちょっと実験してみましょうか(と言ってやっていただいたのが下の写真です。紙に出た「裏抜け」の差で、違いがお解りいただけるかと思います)。
 
浸透性の差が歴然!

取材時にたまたま持っていた、インクの裏抜けがし難いジョッター用紙に靴クリームを塗り、3分後その裏側を撮影したものです。向かって左が他社製の乳化性靴クリーム、向かって右が「クレム1925」です。前者がほとんど浸み込んでいないのに比べ、後者は見事に裏抜けしているのが一目瞭然! 浸透性の次元が全く違うのがお解りいただけるでしょう。


飯野:なるほど! あと、色の出方も従来以上にマイルドになりましたよね。だからアンティーク加工、つまり薄い色のアッパーにあえてそれより濃い色の靴クリームでお手入れするのも更にチャレンジし易くなりました。もともとノワールシリーズは茶系のみならず黒であっても、他社の製品に多い「青を濃くした黒」とは異なる「赤を濃くした黒」なので、焦げ茶やバーガンディーの靴にも入れ易かったのですが。

マーク氏:黒の色合いの微妙な差をよくご存じですね! 以前の製品からそうだったのですが、ノワールシリーズの「色」は顔料を使わず染料だけで出しているので(※)、革に馴染み易く落ち着きある色合いに仕上がるのです。OEM製品の供給先であるヨーロッパのトップブランドからの要望に徹底的に鍛えられていることも、色合いに微妙なニュアンスが出せているのにつながっていると思います。

(※) 2020年3月16日飯野追記:この色出しの件についてサフィール本社から連絡があり、「クレム1925」では実際には、革の繊維の中にまで入り込めるごくごく微粒子の顔料も用いているとのことです。お詫びして訂正申し上げます。マーク氏はこのインタビューの中では、顔料を「皮革の表面をカバーして色付けするもの」、染料を「皮革の表面を覆うのではなく、革の繊維の中まで入り込み、その内側から発色させて色付けするもの」との解釈をし、ここでは「染料」という言葉を用いたとのことです。
 

天然のものにしか出来ない効果が、確かにある!

クレム1925はクレンジング力も結構ある!

向かって左はオレンジブラウン色の靴をブラウンの「クレム1925」を用いてお手入れしたもの、向かって右はその上からニュートラルの「クレム1925」を薄く塗ってお手入れし直したものです。後者では靴の元々の色合いが回復し、前者のクリームの色合いを落としているのがお解りいただけるかと思います。


飯野:「クレム1925」は色ものだけでなく、ニュートラル(無色)も物凄く使い出がありますよね。前作の時からそうでしたが、こちらは実はクリーニングと言うか、クレンジング効果が相当あるような気がします。例えばアンティーク加工や鏡面磨きがちょっとやり過ぎになってしまった時とかは、下手にクリーナーを使うよりもニュートラルの「クレム1925」を薄く塗った方が、程良いぐあいに解決する場合が多いのです。

マーク氏:お気付きになられましたか! そうです。クリーナーが不要とまでは申しませんが、色付きのものも含め古い靴クリームの成分を入れ替え、その恩恵で軽い汚れなら落とせてしまう力は、十分にあると思います。ヨーロッパのお客様の中には、従来の「エクストラファインクリーム」から引き続きこの「クレム1925」で、大切な靴をクリーナー無しで長年お手入れし続けている方も大勢いらっしゃいますし、そのような靴であってもヒビ割れはほとんど起きていません。

飯野:長年、と言えばノワールシリーズにはビーズワックスポリッシュと言う、それこそ1920年代から続く缶入り油性ワックスの名作もありますよね。乳化性クリームと全く同様に使える「クレム1925」も、成分表記上はそれと同様に水分を含まない「油性」ですが、シアバターを含む・含まない以外に両者の違いは何なのでしょうか?

マーク氏:実は従来の「エクストラファインクリーム」も水分を添加していない「油性」で、「ビーズワックスポリッシュ」とは入っている成分自体は事実上変わらず、それらの配合比が異なっていたのです。前者はアッパーをよりしなやかにするのを重視したレシピ、後者は光沢を与えるのをより重視したレシピになっていた訳です。「クレム1925」にはシアバターを加えたものの、レシピはもちろん前者の方針を継承しています。あまり知られていませんが、「油性」なので撥水スプレーをかけなくても十分な撥水力があるのも大きな特長なんですよ。
 
クレム1925とビーズワックスポリッシュ

向かって左の「クレム1925」は実は油性! 水分を添加していないものの、向かって右の油性ワックス「ビーズワックスポリッシュ」とは成分の配合比を違えているので、通常の乳化性靴クリームと同様の使い方が可能なのです。左:「クレム1925」 全12色。税込各1785円。 右:「ビーズワックスポリッシュ」 小・全8色。税込各840円。大・全11色。税込各1575円。(株式会社 ルボウ お客様相談室 0120-11-3638)


飯野:確かに……。ギラギラとは脂っぽく仕上がらない割には、「守る力」がしっかり備わっています。水分と油分を結び付ける乳化剤に安易に頼り過ぎていないから、革に必要以上の水分を呼び込まずに済み、それが撥水力の強さにつながっている訳ですね。

マーク氏:仰る通りです。「クレム1925」にも含まれているビーズワックス(蜜蝋)やテレピン油は、古代エジプトのミイラの保管にも用いられている、それこそ歴史が性能を証明している天然の成分です。第二次大戦以降の合成化学の急速な発達で、石油ベースの合成成分で構成された靴クリームがすっかり主流となってしまいましたが、天然の原料でも、いや天然の原料だからこそ可能なことはまだあることを、「クレム1925」では示したかったのです。
 

最先端の技術も、正に足元で支えています!

レノベイティングカラー補修クリーム

サフィールの隠れた名品が、この「レノベイティングカラー補修クリーム」でしょう。この手の商品としては一般の人にも圧倒的に取り扱いがし易く、色彩大国・フランスの商品らしくカラーも豊富です。全42色。税込各1260円(株式会社 ルボウ お客様相談室 0120-11-3638)


飯野:ワックスや油分のさまざまな特性を熟知しているが故に開発できた商品だったのですね。フランス本国ではシューケア用品以外にも、様々なお手入れ用品で定評があるのも頷けます。

マーク氏:以前もお話ししましたが、私どもは「サフィール」の靴クリームだけでなく、家具や床材、それに金属製品用のケア用品を別ブランドで提供しています。またそれらの製品は歴史的に貴重な調度品を多数有するヨーロッパの有名な美術館・博物館などでも多用されるので、使った時点での見栄えに優れていても経年変化による影響が未知数のレシピは、絶対に許されないのです。そうそう、長年の経験に基づいたこのような慎重な姿勢が、逆に最先端の技術を支えているケースもあるのですよ。

飯野:え、最先端ですか? ちょっと思い浮かばないのですが……。具体的には何でしょう?

マーク氏:航空機です。今回の来日の際に私も乗って来ましたが、総二階建て旅客機A380を製造するエアバス社にワイヤー保護用のワックスを長年納め続けています(飯野註:エアバス社の本社もフランスのトゥールーズにあります)。高度の変化による急激な温度や湿度それに圧力の変化に耐え、そして何よりも多数の人命を預かるが故に、求められる品質基準は相当にシビアですが、このようなお客様にも製品を納められるは我々の誇りです。

飯野:靴クリームの製造にもその基準の厳しさが十分活かされている、と言う訳ですね。ところで、御社の商品の中に日本でここ2・3年、急激に売り上げが伸びているものがあると耳にしたのですが……。

マーク氏:補色や傷隠しの目的に特化したレノベイティングカラー補修クリームです。こちらも他の商品と同様、我々の技術がぎっしり詰まったものなので、品質に厳しい日本のお客様の評価が高いのは非常にうれしく思っています。仕上がりが自然なだけでなく、複数の色のものを用いて微妙な色合いを出せたり、「失敗した……」と思ったらクリーナーで容易に落とせたりと、他社のものに比べ扱いが簡単なのが受けているのだと思います。一般の方だけでなく、プロの修理業者の方の愛用率も高いんですよ。

飯野:それなら私も何色も持っていますよ! 確かに使い易いし革への馴染みもいいですね。最後になりますが、今後は日本向けにはどのような商品を強化してゆきたいでしょうか?

マーク氏:まず、ここ数年で人気が広く定着したアウトドアシューズ向けの商品をもっと普及したいですね。日本のお客様はミンクオイル信仰が強いようですが、それよりもパワーのあるシールオイル(あざらしの皮下脂肪から抽出した油)やサーモンオイル(鮭の筋肉から抽出した油)、それにニーツフットオイル(牛の脛や踵の骨から抽出した油)などを巧みに用いた弊社の商品を、是非ともお試しいただきたいです。この分野に関しては、間もなく驚くような新製品を出す予定ですので、そちらにもご期待ください。

次にシューツリーです。この分野の名門で長年の取引先でもあった「コルドヌリ・アングレーズ(LA CORDONNERIE ANGLAISE)」のブランドを、昨年買い取りました。日本の靴好きの間にもファンが多いと伺っています。シューツリーだけでなく、プレゼント用の木製のシューボックスなども充実できたらと思っています。

あと、ヨーロッパでトップシェアを誇るシューストレッチスプレーシューイーズを、この春からようやく日本にも紹介できることになりました。他社の商品はミスト状に液体が出るものが多いですがこの商品はフォーム、つまり泡状に液体が出て来るのが特徴です。「靴で痛い」「靴がキツイ」と悩まれていらっしゃる方に広くご活用いただければと思っています。

飯野:お忙しいところ色々とご教授いただき、誠にありがとうございました。驚くような新製品、非常に気になります。発売されたら記事にしたいと思いますので、ご連絡くださいませ!
 
記念撮影

マーク・ムーラ社長と記念撮影させていただきました。日本のお客様は「サフィール」の品質第一主義を、他国のユーザー以上に高く評価してくれるのが非常にうれしいとのことです。今後のさらなる商品展開も期待できそうです!


【サフィールのシューケア用品のお問合せ先】
■株式会社 ルボウ お客様相談室
Tel:フリーダイヤル 0120-11-3638 (受付時間は平日の10:00 ~ 17:00)
HP:靴のお手入れなら世界中のハイクラス・アッパークラスに愛されるフランス発の高級靴クリームのシューケアブランドSAPHIR(サフィール)

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