分譲マンションに内在する魅力のひとつに「合理性」が挙げられる。利便性の良い場所、無駄の少ない住空間、そして維持管理の負担を軽減できること。もし、一戸建てで実現しようとするなら、その難易度は相当上がらざるを得ない。逆に、マイナス面は個性に欠くことか。同じ窓の繰り返すさまは、そこで営まれる暮らしでさえ均一化を連想させかねない。今回のレビューは渋谷区神山町に竣工したわずか6邸のマンション「Case」。まったく新しい概念の高級マンションが誕生した。
「渋谷」の将来性
先日、東急東横線の地下化が完了。交通網の再編と新しいビル計画も次々と発表され、渋谷の街は今後劇的に変わるだろう。これまで丸の内や六本木・虎ノ門、臨海地域などが発展著しいゾーンだったが、これからしばらくは渋谷が注目の的になる。アジアヘッドクオーター特区でもある渋谷駅周辺は、高度利用がますます推進されるが、そうなることで一層人気が出るのではないかと思うのが、周辺の低層住宅街だ。渋谷区には、都心では珍しい第一種低層住居専用地域が点在する。江戸時代の流れを汲む、地勢をいかした用途地域はまさに東京ならではと呼べるもので、高層化が進むほどよりその希少性が増していくのではないかと推察する。今回の舞台である松濤・神山町は、まさにそんな典型ともいえるエリア。<谷底低地>の「渋谷駅」周辺は標高17m前後。それに対して「松濤・神山町」は31m前後の<ローム台地>である(地震ハザードステーションより)。
豪邸のある街並み
松濤は、江戸時代紀州徳川家の下屋敷であった。明治の初期に払い下げを受けた鍋島家は、「松濤園」という狭山茶の茶園を開く(区の公式サイトより)。鍋島家の本宅跡地には、現在「フォレストテラス松濤」(渋谷区神山町)が立つ。名作と呼ぶにふさわしい、都心の中でも指折りの低層マンションだ。都内有数の歓楽街・渋谷のイメージそのままの東口から、車両で回り込むには幾分面倒なロケーションに、松濤エリアはある。だが、そこが良い。閑静な佇まいを保持するには、通り抜け用のような道はないほうが良いだろう。繁華街の喧騒からは一切絶縁された場所である。
「観世能楽堂」の坂を駆け登ると風景は一変。エリアを象徴する家並みが左右に広がっている。これぞ豪邸という佇まいが印象的だ。見る者にこれほど緊張感を与える景観は他にあるだろうか。今回の目的地は、そんな街並みの一画にある。「神山町」の信号を東へ。尾根を走るロードサイドには名だたる高級マンションが。現地は、「フォレストテラス松濤」から200メートルほど行ったところ。まさしく突如、目の前に現れた。「これが分譲マンション?」世界的に著名な設計事務所「SANAA(サナア)」が基本設計を手がけた斬新な外観に、誰もがそんな感想を漏らすに違いない。