2/2 #021 『建築家』を決意した椅子 [テーブル・椅子] All About

↑真上から見ると、直線とわずかな曲面が力強く連なり、シャープで重量感のあるフォルムを形成している

ところで、当時『Side Chair』を含むダンボールの家具シリーズは各評論家や批評家から絶賛された。
とくにダンボールという安価な包装材料を家具に用いた発想・方法は、一躍ゲーリー氏をファニチャーデザイナーとしての名声をもたらした。しかし、このことが、彼にある決断をさせることになった。
折角、安価で丈夫なモノを提供する目的で、創造的なファニチャーを発表したにもかかわらず、インテリアショップでの（彼のデザインしたダンボールのファニチャーの）販売価格は、彼に驚きと落胆を与えただけだった。それは、もう一般庶民がポッケトマネーで購入できる、いや「買える」値段ではなかったのである。
『私は脅迫観念に捕われ始めた。私は一時、何週間ものあいだ、部屋に閉じこもり、自分の人生とは何かを再考した。そして私は、家具デザイナーではなく、建築家であり続けることを・・・・・・そして、あっさりとそれをやめることを決断した。』（引用：Frank O.Gehry,Frank Gehry and his Architecture ,展示会カタログ‘Walker Art Center ,1989’&　ヴィトラデザインミュージアムの名品‘いす・100のかたち　p52）

↑『Wiggle Side Chair』と同様、逆さにしてみると脚裏には、長期使用に共なう破損を事前に防ぎ、補強する為に、幅15mmの木棒を埋込んでいる

それ以来、ゲーリー氏は南カルフォルニアを拠点に建築活動に力を入れる。
SantaMonicaの自邸、Hollywood/Hollywood Bowl、神戸/Fishdance restaurant 、France/Entertainment Center,Spain/Vila Olimpica、Germany/ Vitra Museum・・・・・・数え上げたらきりがない。
現在、世界中でもっとも刺激的な建築家の一人として活躍中である。建築というフィールドを変えて挑戦的な制作を続ける彼にとって、このダンボールファニチャーはデザインの起点であり、モノづくりの原点であろう。椅子一つに秘められた出来事が世界的な建築家、フランク・O・ゲーリー氏を生んだといっても過言ではない。

しかし、発表されて30年後の今、この椅子の値段を見ると『なにも変わっちゃぁいない・・・・・・』というゲーリー氏の嘆きが聞こえてくる。

■UP#021
SIDE Chair/サイドチェアー

・1972製作/米国
・SIze　　：W 390　D 550　H 820/SH 430
・Material：段ボール、硬質繊維板、丸木材　
・Designer：Frank O.Gehry/フランク・O・ゲーリー
・Product ：Vitra Design Museum/Germany
・Shop　　：hhstyle.com
・Price　：￥115.000-