フィンランド/ヘルシンキの観光・お土産

『かもめ食堂』ロケ地めぐりの楽しみ方(3ページ目)

映画『かもめ食堂』をきっかけにフィンランドという国を知った、どっぷりハマった……という人は少なくないはず。『かもめ食堂』ロケ地めぐりは、今やヘルシンキ観光の定番コース。ロケ地情報も本やネットにあふれていますが、ただスポットに立ち寄るだけで満足するのはもったいない!そこで、撮影地のロケーションを紹介するだけでなく、より映画の空気を味わうための楽しみ方についてもアドバイスを加えてみました。

こばやし あやな

執筆者:こばやし あやな

フィンランドガイド


本に囲まれた暮らしの拠点、アカデミア書店&カフェ・アールト

アカデミア書店

アルヴァ・アールト設計のアカデミア書店は、本の形を模したスカイライトから自然光が降り注ぐ、とても開放的で心落ち着く空間

トンミにガッチャマンの歌詞を尋ねられて答えに詰まったサチエさんが、悶々としながら本を繰り、腰を下ろしたカフェでたまたま読書中のミドリさんと出会う……あのクスっとくる一連のやりとりはすべて、このアカデミア書店のなかでの出来ごと。

本屋の中にカフェまで? とびっくりされるかもしれませんが、書店や図書館にカフェが併設されているのは、フィンランドではよくある光景です。気のゆくまで物色して、お気に入りの本が見つかれば、購入後にそのままカフェに直行。コーヒーをすすりながらさっそく最初のページを開く……そんな、日々の心地良い読書時間をとても大切にするフィンランド人。個人あたりの公共図書館の利用率もなんと世界1位を誇っているのです!

吹き抜け

背の低い本棚ばかりがゆったりと並んでいるので、閉塞感がない

ロケ地となったアカデミア書店へルシンキ店(Akateeminen kirjakauppa)は、おそらくフィンランドで一番有名な本屋さん。設計者はかの国民的建築家のアルヴァ・アールト。エスプラナディ通りに面した一等地に建ち、中に入ると艶やかな白い大理石の壁で真ん中に大きな吹き抜けのある、清楚で開放的な空間が広がっています。

国内最大の書店とはいえ、本棚の背丈がさほど高くなく、ちょっと立ち読みしていても通行人の妨げにならないほどにゆったりと通路が確保されているのが、本屋なのに閉塞感をまったく感じさせない秘密。さらに上を見上げると、ちょうど本を少し開いたようなユニークなデザインの大きなスカイライトが並んでいます。昼間はそこから自然光が柔らかく入り込み、お店全体をより明るい雰囲気で包んでくれます。1階にはヘルシンキ市内1号店となるスターバックスも開店。店内で使われている椅子の多くはフィンランドの名だたる家具デザイナーの作品なのにも注目!

お気に入りの本を抱えて、アールト・カフェへ!

アールトカフェ内観

書店2階のやや奥まった一角におさまるアールト・カフェ。書店内同様BGMは一切聞こえず、おいしいコーヒーや軽食とともに至福のくつろぎ時間を楽しめる

さて、書店で無事にお気に入りの本も買えてちょっと一息つきたいな、という気分になったら、そのまま書店2階のアールト・カフェへ直行。ショーケースの前の席でムーミンの本を読んでいたのが、ミドリさんの初登場シーンでしたね。

アールトカフェ席

席につくと、適度な暗がりとランプの灯りがとても心地良い

書店からはなんのドアも隔てずに入店できますが、ここはやや天井も低くてスカイライトの光も届かず、少し照度が低い一角。けれど、アールトのデザインした上品なランプがいくつも下がっていてほんのりとテーブル席を照らしてくれるので、まるで自分の家のデスクで、就寝前に卓上ランプを灯しながら読書にふけるときのような心地よさにあふれています。書店自体もそうですが、カフェ内では一切BGMはかかっていません。これも、お客さんが思い思いにくつろぎの時間を楽しめるようにと配慮してのこと。さらに壁はミニ・ギャラリーになっていて、ふと顔をあげるとアート鑑賞までできてしまう贅沢な空間!

ほうれん草キッシュ

スイーツ以外のキッシュなどを頼むと、プレートにミニサラダを添えて提供してくれる

フィンランドのカフェにしては珍しく、テーブルサービスが基本。レストランのように、着席すれば店員さんがメニューを持ってやって来てくれます。日本語メニューも完備されているので安心。

メニューは、ケーキやサラダなどの定番喫茶メニューに加えて、しっかり食べたい人用のボリューミーなメインディッシュも用意されています。またお昼の時間帯には、日替わりランチもあり。色とりどりのケーキ・キッシュ類はすべてショーケースに並んでいるので、実物を見て選ぶことも可能です。


知られざる、アールト・カフェ開店までのヒストリー

家具

かつて別の場所で愛されていたカフェの家具が、今でも大切に使われている

カフェ・アールト開店の歴史は、ちょっとばかり数奇。もともと1950年代には、アカデミア書店の近くにやはりアルヴァ・アールト設計の「ラウタタロ(Rautatalo)」というオフィスビルが建てられ、その一角で市民から愛されるカフェが営まれていました。ところが、ラウタタロの経営の行き詰まりとともに、カフェも閉店。その後、カフェで利用されていたアールトデザインの家具屋インテリアが競売にかけられることになり、なんと書店のお隣にあるストックマン・デパートがすべてを買い取って、アールト財団に寄付したのです。

現在のカフェが入る一角は、もとは書店の電話専用スペースでした。ここにストックマンが買い取ったインテリアが持ち込まれ、既にアールトは他界していたので別の設計者のデザイン協力を得て1986年にオープンしたのが、現在のアールト・カフェだったというわけです。

今日のカフェのお客さんには、読書や談話目的以外に、創作にふける文筆家も多いと言います。『かもめ食堂』公開後は、日本人はもちろん近年では映画を観た韓国人の訪れも増えているそうです。ぜひ、日常のなかでとりわけ読書やカフェタイムを大切にするフィンランド人の気持ちを共感しに訪れてみてください。

<DATA>
■Café Aalto(カフェ・アールト)
住所:Akateeminen kirjakauppa, 2. krs, Pohjoisesplanadi 39, 00100 Helsinki
TEL:+358 9 121 4446
アクセス:ヘルシンキ中央駅から徒歩5分、アカデミア書店内2階
営業時間:月~金曜9:00~21:00、土曜9:00~19:00、日曜11:00~18:00(書店も同様)

次ページでは、心あたたまるラストシーンの撮影されたスイミングプールの魅力を徹底紹介!
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