第三者による加害行為であっても、民法上、区分所有者に賠償責任が課される
ここでは分かりやすいようモデルケースを用意し、それぞれのケースに応じて必要となる法令をご紹介します。<モデルケース1>
マンションでの水漏れトラブル。あなたなら、どうする?
まずは最もシンプルな例から見ていきましょう。このケースでは水漏れの原因箇所は洗濯機、加害者は505号室のAさんです。Aさんの不注意(不法行為)によって漏水事故が発生していますので、すべてAさんが責任を取らなければなりません。不法行為が成立すると、加害者は被害者の損害を賠償する義務を負います。
なお、個人賠償責任保険に加入していれば、その保険金で対応可能ですが、あくまで賠償責任の所在はAさんにあります。
では、307号室の区分所有者Bさんが自宅のトイレをリフォームした際、リフォーム業者が配管工事を雑に行なった結果、その配管から水漏れしてしまい、下階の207号室に迷惑を掛けてしまったとします。この場合、責任を取るのは誰でしょうか?――
民法には「工作物責任」という考え方があり、建物の設置または保存に瑕疵(かし=欠陥)がある場合、一次的には「占有者」が責任を負い、占有者が損害防止に必要な注意をしていたときは、二次的に「所有者」が責任を負う決まりになっています。
占有者とは307号室に住んでいる(=占有している)人という意味です。区分所有者だろうとその家族だろうと、あるいは賃借人でもかまいません。単純に307号室に現に住んでいる人のことを占有者といいます。これに対し、所有者とは文字通り307号室のオーナーのことです。分譲マンションの307号室を区分所有している人を意味します。
ただ、これではBさんが救われません。工事業者の過失が原因で損害が発生しているわけですから、真に責任を負うのはリフォーム業者です。そこで、工作物責任では損害の原因について、他にその責任を負う者があるときは、その者に対して求償権を行使することができるようになっています。Bさんは一度、207号室の住人に損賠賠償(自己負担)する必要がありますが、その後、リフォーム業者に自己負担分を請求(求償)することができます。保険に加入していれば、その保険金で対応することも可能です。
(注)Bさんはリフォーム業者に請求する権利(求償権)を有しているだけで、必ず業者が支払いに応じることまで法律は規定していません。
原因箇所が特定できない場合、その欠陥は共用部分にあると推定する
では、最後に水漏れの原因も漏水箇所も判明しない場合、どう対処すればいいのか考えてみましょう。<モデルケース3>
704号室の区分所有者Cさん。突然に下階の604号室から「天井から水滴が落ちてきて、家具や床が水浸しになり困っている」との連絡を受けました。しかし、Cさんにはまったく心当たりがありません。隣接する603号室と605号室にも尋ねてみましたが、原因となる手がかりは見つかりませんでした。水漏れの原因も漏水箇所も不明です。この場合、責任を取るのは誰でしょうか?――
得てして、水漏れトラブルは給水管や排水管からの漏水を原因とします。経年劣化や施工不良、自然災害によって規格外の外圧が加わった場合など、様々な原因によって漏水を起こします。
トラブルを解決するには原因と漏水箇所の特定が不可欠ですが、配管はコンクリートに挟まれた狭い空間に埋設されているため、くまなく調査するのは容易ではありません。すべての住戸の床や天井をはがして原因究明することなど出来るはずもないからです。全容解明には相当の困難が付きまといます。そこで、区分所有法では漏水箇所が特定できない場合、欠陥は共用部分にあると推定し、区分所有者全員が共同して損害賠償を負うこととしています。
どちらにあるかが特定できない場合、被害者は自ら水漏れ箇所の場所を立証できない限り、損害賠償は認められません。水漏れ箇所が分からない場合、結局のところ、被害者が泣き寝入りするしかないのです。発生してしまった損害を公平に分担するという観点からすると、不公平といわざるを得ません。そこで、こうした不都合を解消すべく、区分所有法には被害者の立証責任を軽減するための条文が盛り込まれています。
水漏れトラブルが起こってからでも適正な対応が取れるよう、本コラムを参考に知識武装しておいてください。