不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

公共下水道について知っておきたい基礎知識(2ページ目)

都市部で生活している人にとっては身近な存在であり、毎日お世話になっている公共下水道について、ぜひ知っておきたい基礎知識をまとめました。不動産の売買契約の前に行なわれる重要事項説明でも、あっさりとした説明だけで済んでしまうことが多いのですが、たいへん重要な施設である公共下水道について、少し理解を深めてみませんか。(2017年改訂版、初出:2012年8月)

執筆者:平野 雅之


重要事項説明における下水道の取り扱いは?

売買契約の前に宅地建物取引士が行なう重要事項説明では、公共下水道が整備されている場合に「合流式と分流式の別」や「前面道路内の配管の口径」などが説明されるほか、たいていは役所の下水道課などで取得した埋設管図面のコピーが渡されます。

ただし、マンションの売買では「公共下水である旨」だけが説明される場合も多いでしょう。

しかし、一戸建て住宅や土地のときでも、下水道管の排水能力までは説明されません。

下水道管の口径は直径10センチほどのものから8.5メートルほどのものまでさまざまですが、それぞれの宅地のエリアで必要な排水能力を有する口径について自治体は明らかにしておらず、宅地建物取引業者が判断することもできないためです。

なお、それぞれのエリアにおける過去の浸水被害の記録を公開している自治体もあります。丁寧な業者なら、その記録を調べたうえで説明してくれますが、場合によっては自分で役所へ行って確認してみることも考えるべきです。


下水道の費用負担がある場合

私道などでは、関係住民が費用を出し合って下水道工事をしている場合があります。このような私道に面する敷地を購入するときに「下水道維持管理費」などの名目で、まとまった金銭の負担を求められることもありますから、事前にしっかりと確認することが必要です。

現地の道路にあるマンホールの蓋に市区町村のマークがない場合には、とくに注意しなければなりません。

また、これまで一度も下水道を使用していなかった宅地で新たにその使用を開始するときには、下水道負担金などの名目で自治体から費用支払いの請求を受ける場合があります。前の所有者が下水道を使用していれば、通常は問題ないでしょう。


下水道に接続されていない場合など

公共下水道が整備されるときには、自治体によって汚水桝(ます)までの設置工事をしてくれます。ところが、宅地内の配管接続工事は個人負担となるため、経済的な理由などによって下水道に接続されていないケースがあります。

下水道法により下水道への接続が義務付けられている(汲み取り便所は、下水の処理を開始すべき日から3年以内に改造することなどの規定がある)ものの、浄化槽のままになっている場合や都市部でも汲み取り式のままになっている場合があるので注意しなければなりません。

公共下水道が整備された後に建てられた新築住宅の場合であれば問題はなく、また売主が住んでいた中古住宅であれば、「下水道に接続して使用していること」を確認すれば済みますが、とくに土地の場合には注意が必要です。

また、新たに分筆された土地の場合には、一方には汚水桝などがあるものの、もう一方の土地には桝がないというケースもあるでしょう。

このような場合には、下水道の接続工事費用と自治体に支払う下水道負担金で、それなりの金銭負担が生じることもあります。さらに、以前の浄化槽が地中に残っている場合には、その撤去工事費用も必要となります。

さらに、以前は下水道を使っていた宅地のときでも、長年にわたり空き地や空き家になっていたケースでは、桝に土砂などが詰まり、その清掃費用などがかかる場合もあります。

まれに、前面道路に埋設された下水道管が大き過ぎたり深過ぎたりして、一般家庭からの排水管の接続ができない、あるいは接続するのに過大な費用がかかるケースもあります。

「前面道路に下水管が埋設されている」ということだけで安心してしまい、失敗した事例もあるようですから注意しなければなりません。

住宅の建築が認められる市街化調整区域の場合にも注意が必要です。

市街化調整区域でも公共下水道が整備されていることがあるものの、自治体によっては「市街化区域の接続工事には助成をするが、市街化調整区域は桝の設置も含めてすべて自己負担」とされているような場合もあります。

そのため、市街化調整区域では前面道路に公共下水道があっても、これに接続されていない(使われていない)宅地のケースも少なくありません。


宅地内浸透施設の整備

下水道管への負荷を減らすため、宅地内への雨水浸透施設(浸透桝や浸透管など)の設置が求められる場合もあります。自治体の助成制度などと合わせて、事前にしっかりと確認しておくことが必要です。

分流式で、かつ前面道路などに雨水管がない場合には、原則として宅地内に降った雨は、すべてその宅地内で処理することになります。

U字溝など道路の側溝に排水ができる場合もありますが、宅地内での全量処理では地中の水分量も多くなりがちですから、そのぶん建物の基礎などについて注意を払うことも欠かせません。


下水道の普及率は?

国土交通省のまとめによる2015年度末時点の「下水道処理人口普及率」は、全国平均で77.8%(福島県の一部を除く集計)となっていますが、先進国の中では比較的低い水準のようです。

東京都が99.5%、神奈川県が96.5%、大阪府が95.2%など高い普及率となっている反面で、徳島県は17.5%、和歌山県は25.4%にとどまり、50%に満たないのが7県です。

ただし、下水道以外の農業集落排水施設、合併処理浄化槽、コミュニティプラントなどを含めた「汚水処理人口普及率」は、全国平均が89.9%で、下水道の少ない徳島県でも57.3%、和歌山県は60.6%などとなっています。

公共下水道

実際に使われている下水道管


東京都小平市の「ふれあい下水道館」では、地下5階の展示室で実際に使われている下水道管を見学することができます。

天候や時間帯によって異なるかもしれませんが、臭気がたいへん強く、映画やドラマのように下水道の中を犯人が逃げ回ることは、合流管や汚水管では極めて困難でしょう。もちろん雨水管でもダメですが……。


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