僅かな工夫が実力に歴然と表れる!
ウールのスーツやカシミアのコートが大好きでそのお手入れにも手を抜かない読者の方なら、「平野の洋服ブラシ」をご存じの方も多いかと思います。頑丈な生地はもちろんのこと、繊細な生地であっても表面を傷めずに埃をサッと払い落とす使い心地の良さは、その道のプロ=著名なテーラーにも相当知れ渡っているようで、そのような場でも結構な頻度でお目に掛かることができるものです。2012年で創業70年を迎えた老舗のブラシメーカーであり、手仕事を多く残した丁寧なものづくりに定評がある平野刷毛製作所のこの技術に、シューケア用品でお馴染みのR&Dが製作を依頼し誕生したのが、この「M. モゥブレィ HIRANOブラシ スエード用本真鋳」です。
その一番の特長は、ビッシリ植えられている真鍮の毛にあると思います。この毛が使われているR&Dの別の製品のものと比べると、毛の径が若干細い代わりにひとつの毛穴により多くの本数が植えられていて、しかも一本一本の毛に均等な間隔で波状に軽く「曲げ」と言うか「折れ」の加工がなされているのです。実はこの一工夫が「毛の強度・剛性の確保」と「ブラシとしての使い心地の良さ」という、一見相反する要望を共に満たしてくれるのに直結します。
皆さんは自動車のエンジンが入る「ボンネット」のほぼ全ての表面に、いわゆる「プレスライン」という折れ段差が施されているのにお気付きでしょうか? これ、空気抵抗を減らす為のみを目的に付けられていると思われがちですが、ボンネットの強度や剛性を確保するのも隠れた目的なのです。材質が鉄であれアルミであれ樹脂であれ、ボンネットに用いる板がまっ平らだとペニャペニャと撓みや歪みが出やすいので、敢えてあらかじめ「折れ」を生じさせておくことで立体形状としての「ハリ」と「コシ」を与え、強度上の狂いを生じ難くさせている訳で、それと同様の理論をこの真鍮の毛に採り入れているとは! しかも一本一本の毛自体は細やかなので、アッパーへのアタリは一見柔らかながら、ブラッシングの効果をしっかり発揮できてしまうのです。
他にも使い心地を考えた選択が幾つもあります。詳しくは最後のページで!