爆発的なヒットを記録した「キリンメッツコーラ」
史上初の“トクホ”コーラで爆発的なヒットを記録した「キリンメッツコーラ」
4月24日に発売を開始するとわずか2日間で年間販売目標の100万ケースの半分である50万ケースを販売。その後も勢いは衰えず、5月15日には供給が販売に追い付かず、安定供給できない状況をお詫びするプレスリリースを発表するまでに至りました。
その爆発的なヒットの要因となったのが“トクホ”。
「キリンメッツコーラ」は、コーラ系飲料で初めてトクホとして認められた商品なのです。
トクホとは特定保健用食品の略で、消費者庁によって「おなかの調子を整える」や「食後の血中の中性脂肪を抑える」など特定の保健機能を表示することが許可されている商品。
「キリンメッツコーラ」には、「難消化性デキストリン」という成分が含まれ、食後の中性脂肪の上昇を抑える効果が期待できるのです。
飲んで痩せることができるわけではありませんが、食事に含まれる脂肪の吸収を抑える初めてのコーラとして話題となり、価格も480mlのペットボトルで150円と通常のコーラとほとんど変わらない手軽さが受け、爆発的なヒットを記録したというわけです。
コーラ市場を活性化に導いた2強による“ゼロ戦争”
コーラは、炭酸飲料の中ではメジャーなカテゴリーであり、リーディングカンパニーは言わずと知れた日本コカ・コーラ社です。コカ・コーラは、コーラ系飲料において、圧倒的なマーケットシェアを誇っています。そして、そのコカ・コーラを激しく追いかけるのが、サントリーのペプシコーラ。この2強は、2007年には“カロリーゼロ”のコーラを投入し、激しい“ゼロ戦争”を繰り広げてきました。消費者の健康志向も追い風となり、ゼロ戦争はコーラ市場を活性化させ、この年ペプシコーラは、カロリーゼロの「ペプシネックス」が、89%増の1,380万ケースと急伸し、同社の主力製品にまで成長。また、ペプシブランド全体では、25%増の2,570万ケースと、過去最高の販売量を記録するに至りました。
コカ・コーラの強みはどこにあるのか?
コカ・コーラの強みは“ブランド”と“流通網”にある!
実のところ、コカ・コーラの優位性は商品そのものにはないといっても過言ではないでしょう。どのようなコーラであれ、味には大差がないということです。
その証拠として、アメリカで行われた実験では、ブランド名を隠してコカ・コーラとペプシコーラのどちらがおいしいかという質問をしたところ、ペプシの方がおいしいと答えた消費者が多かったという結果もあります。
このような事実からも、消費者はコカ・コーラを味ではなく、別の何かで選んでいると仮説を立てることができます。
その何かとは“ブランド”と“流通網”といえるでしょう。
コーラ市場では、「コーラといえば?」と問われた時に圧倒的に「コカ・コーラ」と答える消費者が多いでしょう。それだけ、我々の頭の中にコカ・コーラというブランドが刷り込まれていることになります。そして、コーラを飲みたいという欲求が起こった時にコカ・コーラを自然に選んでしまうのです。
そして、現実にコカ・コーラを購入に至らせるのが、全国にきめ細やかに張り巡らされた流通網です。
日本コカ・コーラ社の発表によれば、2010年度のデータで自動販売機の設置数が98万台、取引店舗数は113万店に及びます。
この数字は、2位のサントリーの自動販売機48万台を圧倒しています。
このような全国に張り巡らされた流通網で、コーラが飲みたいという欲求が湧き起こった時に売上機会を逃さない仕組みが出来上がっているのです。
このブランドと流通網で作り上げられたコカ・コーラの牙城を切り崩すことは非常に難しいと言わざるを得ません。
チャレンジャーは正面から戦いを挑んだとしても、返り討ちに遭うのは火を見るよりも明らかでしょう。
コカ・コーラの牙城を切り崩すためにチャレンジャーが取るべき戦略とは?
マーケティング戦略では、自社よりも高いマーケットシェアを誇る企業に対して、正面から対抗したのでは、勝ち目はありません。そこで、リーダーが手掛けていない差別化された商品を市場に投入してマーケットシェアを高めていくことがセオリーとされています。このセオリーに照らし合わせれば、キリンビバレッジが投入した「キリンメッツコーラ」は、コカ・コーラにない“特定保健用食品”という差別化された特徴を備え、これまで健康上の理由からコーラを飲みたくても控えていた消費者の心を捉えることに成功したのです。
また、チャレンジャーの差別化戦略という意味では、業界2位のペプシコーラも毎年“変わり種コーラ”を開発して市場に投入して話題をふりまき、差別化を意識してマーケットシェア向上に努めています。今年もすでに7月24日から“塩をふりかけたスイカ”のフレーバーを再現する「ペプシ ソルティーウォーターメロン」を全国で期間限定販売することを発表しています。
このようにコーラ市場のチャレンジャーは、リーダーであるコカ・コーラと味や価格で勝負するのではなく、コカ・コーラが手掛けていない分野に注力することによって、マーケットシェアをアップさせていくことが定石といえるでしょう。
“ゼロ戦争”の次に勃発するのは“トクホ戦争”か?!
コーラ市場で“トクホ戦争”が勃発か?!
コーラ市場のリーディングカンパニーである日本コカ・コーラ社にとっては、チャレンジャーの成功を指をくわえてみているだけでは、みすみすマーケットシェアの低下につながっていきます。そこで、リーダーの戦略のセオリーとして、チャレンジャーの差別化を“包み込み”、無意味にしていく必要があります。
「キリンメッツコーラ」に含まれる「難消化性デキストリン」はトクホ成分として非常にありふれたものであり、実際に日本コカ・コーラ社は「難消化性デキストリン」を含んだトクホ飲料「からだすこやか茶」を2009年に発売しています。このような実績から、今後日本コカ・コーラ社もトクホ成分を含んだコーラの投入を検討することは十分に考えられるでしょう。
加えて業界2位のサントリーも「黒烏龍茶」などでトクホ飲料ですでに成功を収め、トクホ成分を含んだペプシコーラを発売することも難しいことではありません。
「キリンメッツコーラ」の大ヒットで俄然注目が高まった“コーラ×トクホ”ですが、今後2強を加えて新たな“トクホ戦争”へとつながっていく確率が高まったといえるでしょう。